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プロローグ

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「………す、好きです!付き合って下さい……」

 とあるオフィスビル内の会議室。

 ―――ち、ちょっと!今から其処で会議あるんですけど!

 その会議室で資料を並べようと、ドアを開けかけて躊躇する小山内 羽美。彼女は営業のサポート業務に携わる事務長だ。事務の社員をまとめ、秘書課の一員で役職の個人秘書では無い、営業職の社員全員の秘書担当をしている為に、一分一秒足りとも無駄にしたくなかった。
 それを、どこぞの馬鹿な女性社員が誰かに告白している。おそらく営業部の事務社員か営業社員の誰かだろう。羽美の指示で数人、会議の準備をさせていたからだ。

「いやぁ、嬉しいなぁ……君みたいな娘から告白されて……」

 ―――ん?……森本係長?……い、居ないと思ったら此処に居たの!?

「だ、駄目でしょうか……」

 ―――斉木さんだ……

「ごめん、社内恋愛する気はないんだ……」
「……そ、そうなんですね……」
「それに、俺は好きな人か、なれそうな相手じゃないと付き合わない事にしてるんだ。相手に失礼だからね」
「………分かりました……私じゃ脈無いんですね……」
「仕事振りは評価してるよ?其処ははっきり言わせてもらう………会議も始まる、準備頼むね」

 ―――!来る!

 羽美は隠れようとしたが、遅かった。
 会議室の時計を見て歩き出した森本が既にドアノブを回して開けたのだ。

「………覗き見?小山内さん、いい趣味してるねぇ……」
「す、すいません……会議室に入ろうとしたら、取り込み中だったんで……」
「………まぁ、仕方ないね……会議準備宜しく」

 会議室内では斉木が準備をしている最中だろう、小声で森本が羽美に話掛け、デスクに戻った。

「!」

 その小声は低く、羽美の耳元で囁かれ、羽美の肩はピクッと動く。森本の息遣いが熱かった。
 羽美の反応に、森本は何かを感じ取りはするものの、表情を崩す事ない森本を、羽美は背中で後ろ姿を見送った。

 カチャ。

「準備進んでる?斉木さん」
「っ!……すいません、まだ終わってなくて………あ、あの小山内さん、今係長と会いました?」
「係長?………今其処ですれ違ったけど?『準備宜しく』て一言だけ声が掛かったぐらい……何かあった?」

 部下の斉木の為には知らないフリに徹する羽美。

「あ……いえ……何でもないです」
「………さ、パパッと準備するよ」
「は、はい」

 会議には、羽美も参加する。営業社員のスケジュールにも関わる為だった。
 会議も30分程で終え、羽美は片付けの為に会議室に残ると、営業職社員はぞろぞろと出て行く中、森本だけ残っている。

「係長、戻らないのですか?」
「……ねぇ、さっきの告白されたの……小山内さんは気にならないの?」
「…………気にするなと言えば気にしません。私は仕事に差し障りない様に斉木と係長が蟠りが無ければ」
「ちょっとは気にして欲しいんだけどなぁ……」

 椅子を引き、机との隙間を開けた森本は足を組みふんぞり返ると、掛けていた眼鏡を外す。

「は?私に気にして欲しいんですか?」
「勿論……だって、俺は小山内さんと付き合いたいと思ってるから」
「…………え!?」
「ね、俺達付き合わない?……社内恋愛が嫌じゃなければ、の話だけど」

 この男、『社内恋愛をする気はない』と言っていたのではなかったか?と思い、羽美は持っていたタブレット端末を落としそうになる。

「うわっ……危な…………か、係長、先程は斉木にと言ってませんでした?」
「こういう事もいったが?と」
「………い、言われてました………ね……」
「………俺、君みたいな娘がタイプなんだよね、それに満更悪い気してないだろ?」
「っ………なっ!」

 動揺した羽美を見逃さない森本。そして、続ける。

している事を別に公表しなければならない訳じゃない……君が俺と付き合ってる、と周りに知らせたいなら俺も合わせてもいいが、周知する事もないだろう?お互いいい歳なんだ、恋愛経験が無い方が変じゃないか?」
「な、何故もう付き合ってる定で言うんですか!」
「だって、君………俺の事好きだよね?俺も君がタイプだし付き合いたいと思ってるなら調度良くないか?」

 『俺様目線』で物言う森本に、社内での仕事振りとは違う雰囲気とのギャップを感じる羽美。
 それに、反発出来ない羽美なのは、羽美も密かに思いを寄せていた相手なだけに言い返せなかった。

「か、係長……いつから気付いて………」
「………君が俺を好きだって事?………今さっき……そんな時期なんて今話す内容じゃないよな?……………スマホ貸せ」

 いきなり羽美を呼び捨てで呼び、命令口調になった森本は、スマートフォンを自分のスーツのポケットから取り出すと、QRコードを画面に出して羽美のスマートフォンを出させる。

「れ、連絡先は知ってますが……」
「グループ登録するから、ラ○ンがいいんだよ………それとも何?ショートメールでやり取りするのか?絵文字も使いたいだろ?……ほら、出せよ」
「………は、はい……」

 嬉しいのに、気鬱になりそうな俺様態度の森本に従う羽美は、QRコードを写し友達登録をする。

「よし………業務終わったら連絡する……夜予定あるか?」
「いえ……特にありませんが」
「なら、飯食いに行くぞ」

 そう言うと、森本は羽美の首筋に自身の指を這わせて擦る。

「っ!」
「…………期待してるなら、にしてもいいぞ?」
「し、食事で充分です!」

 耳元が弱いのをもう知られた羽美は、耳が赤い。仕事中は邪魔になるから、と髪をまとめていたから肌面積は広いので、触りやすいのは分かるが、平常心では居られなかった。


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