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 シュゼルトが魔界へ帰還すると、意識の無い佑美がベッドに横たわっている。

「レックス!ユウミは如何なってるんだ!」
「わ、分かりません………意識が戻らないんす!今夢魔や分かりそうな奴、片っ端から呼んで診させてますが………」

 眠っている様にも見えるが、仮死状態に近い佑美。全身脱力し、目も開かない佑美なのに、硬直しない身体と体温もある。

「魔王様」
「分かったか!」
「呪文を掛けた者でないと、解呪出来ないかと」
「そんな事ぁ分かってる!」
「シュゼルト様、そういやルシフェルは如何なったんすか?」
「知らん…………腹に1発食らわせて、瀕死の筈だ」
「き、聞いた方が良くないっすか?」
「俺にあの胸糞悪い天界に行けと?」
「ひ、必要なら…………あ、アマリエ様の為っす!お、俺じゃ1発で追い返されちゃいますし」
「…………はぁ……何の為の下僕だ、お前」

 力の差がある為、使いっ走りの魔界人では、天界への行き来が出来ないらしい。
 天界人もまた然りだ。

「し、仕方ないっす…………入り口迄は行けますけど、ルシフェルは瀕死なんすよね?ルシフェルの居住迄行ったら俺、死にますって」

 レックスは手刀を作り、自身の首を切る真似をし、舌を出した。
 他の魔界人も同じだ。
 シュゼルト以外に天界へ行ける者は居ない。
 余程、命知らずでない限り。
 そう思えば、ルシフェルも魔界に来れただけでも命知らずと言えた。

「…………行ってくるしかないか……ったく……ユウミの為なら仕方ない………」
「俺がしっかり、アマリエ様守りますからね!」
「当たり前だ!」

 魔界と天界とは空気も違う。
 シュゼルトは城の外に出ると、天を見上げた。

「200年振り………か………ミカエルのジジィに会わずに済みゃいいが………」

 一瞬で、シュゼルトが天界の入り口へと来ると、気配を察した天界人達が、防壁を作っていた。

「これより魔界人の立ち入りはご遠慮願う!」
「喧嘩しに来た訳じゃない!ルシフェルの馬鹿に聞きたい事があるんだよ!」
「ルシフェル様は怪我の療養中だ!お前がやったのであろう!」
「確かに俺だ!だからって謝りに来た訳でもない!お前達には関係無い!無駄な力な使わせんな!通らせて貰うぞ!」
「通させん!立ち去れ!魔王!」

 流石に天界では思う様に力は出せないシュゼルトだ。
 攻撃されては深手を負うので、シュゼルトは防壁魔法を掛けようとした。

「其処迄!」
「……………ちっ……お出ましか……ミカエル……」
「シュゼルト、何用だ………ルシフェルに理由如何では会わせる訳にはいかぬ」
「……………アマリエの事だ………お前も心配なんじゃねぇのか?」
「っ!」
「アマリエ…………アマリエ様だと?」
「亡くなって久しいぞ」
「いや…………転生された筈……」

 天界では冷遇されてきたアマリエ。
 幾ら天界人でも、天王ミカエルの目の前で娘のアマリエの事への言葉は憚れるのだろう。付けで名を呼んでいる。

「…………付いて来い、シュゼルト………暴れる様な事があれば、儂は其方を決して許さぬぞ」
「そもそも、許せないだろうが」
「減らず口を叩くな………今此処で制裁を食らわす事も出来るのだぞ」
「させねぇよ………耄碌したジジィになんざよ」
「くっ…………」

 若々しいシュゼルトと、杖を付き足腰弱そうにして歩くミカエルと、何方が強そうで覇気があるのか一目瞭然だった。

「アマリエは………」
「あ?」
「其方と居て幸せだったのか?」
「…………俺と居る時はな」
「…………そうか………」

 何故、人間に自分の子を産ませたのか、シュゼルトには興味は無いが、冷遇させてきてアマリエを追い込んでいた事には変わりないので、シュゼルトは天界人達を嫌っている。
 本当は来たくなかった場所だが、ルシフェルと話をする為だけに来る羽目になったのは、全て佑美の為だ。
 転生したアマリエであるが、転生後の佑美も天界と関わっているので仕方ない。

「…………やはり、来ましたか………シュゼルト……」

 ルシフェルが療養する部屋にミカエルと共に来たシュゼルト。
 上半身裸で包帯を巻かれたルシフェルの顔は青褪めている。

「何だよ、お前治癒魔法で完治させねぇのか?」
「…………私にも其処迄、力は無いですよ。延命処置だけにして貰ってます」
「はっ!…………お前死ぬ気か?」
「…………私にはもう生きる気力もありませんからね」
「お前が死ぬのは勝手だ!だが、アマリエを………ユウミを元に戻しやがれ!仮死状態なんだぞ!」
「…………あの転生後の身体………あの身体がアマリエに戻るだけです」
「…………は?」

 シュゼルトには訳が分からなかった。
 アマリエの身体は既に無く、魂を新たに人間の身体に転生させたのが佑美ではないのか、とシュゼルトは思っていたのだ。
 肉体が無いのに、佑美の身体がアマリエになれる訳は無い。

「…………私は………アマリエを傷付けて来ました…………守る、と言い続けて、貴方を庇ったアマリエに、邪悪な心を向けた………なので、長くアマリエの身体に治療を施し、一旦魂を抜き、人間の胎児に転生させたのですよ………それがあの人間の身体です」
「それでお前はユウミの身体からアマリエの魂を戻す気だったのか!」
「……………私が人間の身体に憑依し、人間界であのアマリエの魂と共に生きるつもりだった………天界人では、アマリエとは結ばれませんからね」
「…………お前……馬鹿だったんだな」
「貴方に言われる筋合いはありません」
「ルシフェル…………其方は天界人でやってはならぬ事を……」

 ミカエルは知らなかったのだろう。
 情けない、と言葉が漏れていた。
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