2 / 26
1
しおりを挟む佑美は、天涯孤独の女だった。
父は事故で他界、母は佑美を育てる為に、必死で働いて、無理が祟り病で亡くなっている。
大学はなんとか奨学金で卒業し、1人で頑張っている苦労人だ。
恋人も居て幸せは感じてはいるが、何処か心から充実していない、と思っている。
「結婚しないか?佑美」
「…………あ……」
「…………駄目……か?」
恋人からプロポーズされれば嬉しい筈だ。
だがいつも、違うと心が言っている。
「う、嬉しいよ………でも、仕事が落ち着かなくて………さ……」
「繁忙期は終わったろ?同僚なんだから、仕事を理由に逃げてるんじゃないだろうな」
「違うよ!…………でも、本当の事言ったら怒るんじゃないかな、て………」
「…………佑美の両親が居ない事ぐらい、俺も親に言ってるよ!親戚付き合いが無いだけ楽だともな」
「…………そ、そうなんだ……」
恋人は、佑美が断らない様に穴埋めをしていこうとしている。
好かれていると分かるだけに、佑美は本当の事が言えなかった。
貴方は違う、と。
運命があるならば、目の前に居る恋人は胸がときめかない相手で、佑美はときめける相手が何処かに居ると直感して止まないのだ。
人として好きだし、尊敬する人だが違うのだ、と。
「はっきり言ってくれない?好きな男でも出来た?佑美は二股掛ける様な性格じゃない、て俺は分かるよ。嘘吐けないし、佑美は」
「好きな人は、貴方だけだよ………でも、踏み込めない………考えさせて……」
「佑美!」
好きだけど、結婚に踏み切れない、それでも別れたくない。
でも、それは佑美の寂しさを埋める相手は別に居る様な気がしている。
そんな不安がありながら、結婚なんてしたら恋人に失礼だと思う。
佑美は恋人から逃げる様に、その場から離れた。
マンションに帰っても、なかなか寝る気になれず、あまり飲まないお酒をコンビニエンスストアで買いに行き、酔っ払って寝よう、とシャワーだけ浴びて、ビールや日本酒をテーブルに並べて飲んだ。
「何で…………彼じゃない、て思っちゃうのかな………嫌いな所が無いなら、結婚しちゃえばいいのに、て思うのに返事が出ない………誰かに相談しようかな………友達少ないけど………」
テーブルにうつ伏せて、空になった缶を傾けて、転がして遊ぶ。
「…………寂しい…………恋愛以外の事なら、彼に相談してセックスして終われるのに……プロポーズの返事しないのに、セックスなんて出来る訳ないじゃんね………あぁあ………」
買ってきた酒を飲めるだけ飲んで、睡魔が襲って来ると、眠れそうになった。
「朝………片付けよ………ふぁぁぁぁぁ……寝るか……」
千鳥足でベッドに突っ伏した佑美は、部屋の電気を消した。
マンションの外で、狙われている事も知らずに。
「………すぅ………すぅ………」
魔法陣が現れると、佑美は包まれる様に身体は消える。
まるで神隠しにあった様に、生活感丸出しで姿を消した直後、爆発音と共に佑美の住む部屋を中心に、そのマンションの住人達も、魔界へと旅立っていた。
✦✦✦✦✦
「人間界から来た人間達は!」
「魔王様がお帰りになられたぞ!」
シュゼルトがレックスと共に、人間界から還って来た。
「ルシフェルを入れるな!」
「え?何故天界の住人が?」
しかも、因縁のある天界の住人、ルシフェルと人間界で言い合いになってる中で、シュゼルトが話を切り上げてレックスと帰ってきたのだ。
「いいか!ルシフェルを城に入れるなよ!」
「人間達は、魔法陣の部屋に」
「意識ある者は?」
「咄嗟な事なので、魔法で眠らせておりますが」
「怪我人が居たら手当を!起こさない様にな!アマリエ以外の人間はルシフェルに引き渡す!」
「え?魔王様、一体如何なってらっしゃるので?」
シュゼルトの部下らしき魔界の者達は、シュゼルトに確認するのに、シュゼルトの後を追う。
勿論、ルシフェルを城に入れない様にしている者もいるのだが、付いて来る者も居て、説明を求めていた。
爆発音が出て、マンションを破壊したのだから、怪我人は居るだろう。
もし起きていて、魔界の者を見たら、仰天するどころでは無い。厄介な事になるのはシュゼルトも望んでいないのだ。
「アマリエ!」
シュゼルトが入った部屋には大人から子供迄、10人程だ。
佑美の転生前の名らしい、アマリエと呼んだシュゼルトだが、全員そのアマリエの面影は無い。
「…………何処だ………あれだけ感じたのに………全員か?これで……」
「多分、そうかと………騒然としておりましたから、人数迄は把握してはおりませんが………」
「…………いや………居ない………この中にアマリエが居ない………誰が連れて行った!」
「「「ゔぁぁぁぁぁっ!」」」
恋焦がれて、禁忌迄犯して迎えに行ったのだ。そして見つけたアマリエを実際目にして分からない訳はない。
その怒りから、シュゼルトの魔力で吹き飛ばされた部下達と人間達。
「アマリエ!俺を呼べ!」
シュゼルトの響き渡る声が城中に響き渡った。
39
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
永遠の隣で ~皇帝と妃の物語~
ゆる
恋愛
「15歳差の婚約者、魔女と揶揄される妃、そして帝国を支える皇帝の物語」
アルセリオス皇帝とその婚約者レフィリア――彼らの出会いは、運命のいたずらだった。
生まれたばかりの皇太子アルと婚約を強いられた公爵令嬢レフィリア。幼い彼の乳母として、時には母として、彼女は彼を支え続ける。しかし、魔法の力で若さを保つレフィリアは、宮廷内外で「魔女」と噂され、婚約破棄の陰謀に巻き込まれる。
それでもアルは成長し、15歳の若き皇帝として即位。彼は堂々と宣言する。
「魔女だろうと何だろうと、彼女は俺の妃だ!」
皇帝として、夫として、アルはレフィリアを守り抜き、共に帝国の未来を築いていく。
子どもたちの誕生、新たな改革、そして帝国の安定と繁栄――二人が歩む道のりは困難に満ちているが、その先には揺るぎない絆と希望があった。
恋愛・政治・陰謀が交錯する、壮大な愛と絆の物語!
運命に翻弄されながらも未来を切り開く二人の姿に、きっと胸を打たれるはずです。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる