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 佑美は、天涯孤独の女だった。
 父は事故で他界、母は佑美を育てる為に、必死で働いて、無理が祟り病で亡くなっている。
 大学はなんとか奨学金で卒業し、1人で頑張っている苦労人だ。
 恋人も居て幸せは感じてはいるが、何処か心から充実していない、と思っている。

「結婚しないか?佑美」
「…………あ……」
「…………駄目……か?」

 恋人からプロポーズされれば嬉しい筈だ。
 だがいつも、と心が言っている。

「う、嬉しいよ………でも、仕事が落ち着かなくて………さ……」
「繁忙期は終わったろ?同僚なんだから、仕事を理由に逃げてるんじゃないだろうな」
「違うよ!…………でも、本当の事言ったら怒るんじゃないかな、て………」
「…………佑美の両親が居ない事ぐらい、俺も親に言ってるよ!親戚付き合いが無いだけ楽だともな」
「…………そ、そうなんだ……」

 恋人は、佑美が断らない様に穴埋めをしていこうとしている。
 好かれていると分かるだけに、佑美は本当の事が言えなかった。
 、と。
 運命があるならば、目の前に居る恋人は胸がときめかない相手で、佑美はときめける相手が何処かに居ると直感して止まないのだ。
 人として好きだし、尊敬する人だがのだ、と。

「はっきり言ってくれない?好きな男でも出来た?佑美は二股掛ける様な性格じゃない、て俺は分かるよ。嘘吐けないし、佑美は」
「好きな人は、貴方だけだよ………でも、踏み込めない………考えさせて……」
「佑美!」

 好きだけど、結婚に踏み切れない、それでも別れたくない。
 でも、それは佑美の寂しさを埋める相手は別に居る様な気がしている。
 そんな不安がありながら、結婚なんてしたら恋人に失礼だと思う。
 佑美は恋人から逃げる様に、その場から離れた。
 マンションに帰っても、なかなか寝る気になれず、あまり飲まないお酒をコンビニエンスストアで買いに行き、酔っ払って寝よう、とシャワーだけ浴びて、ビールや日本酒をテーブルに並べて飲んだ。

「何で…………彼じゃない、て思っちゃうのかな………嫌いな所が無いなら、結婚しちゃえばいいのに、て思うのに返事が出ない………誰かに相談しようかな………友達少ないけど………」

 テーブルにうつ伏せて、空になった缶を傾けて、転がして遊ぶ。

「…………寂しい…………恋愛以外の事なら、彼に相談してセックスして終われるのに……プロポーズの返事しないのに、セックスなんて出来る訳ないじゃんね………あぁあ………」

 買ってきた酒を飲めるだけ飲んで、睡魔が襲って来ると、眠れそうになった。

「朝………片付けよ………ふぁぁぁぁぁ……寝るか……」

 千鳥足でベッドに突っ伏した佑美は、部屋の電気を消した。
 マンションの外で、狙われている事も知らずに。

「………すぅ………すぅ………」

 魔法陣が現れると、佑美は包まれる様に身体は消える。
 まるで神隠しにあった様に、生活感丸出しで姿を消した直後、爆発音と共に佑美の住む部屋を中心に、そのマンションの住人達も、魔界へと旅立っていた。


        ✦✦✦✦✦


「人間界から来た人間達は!」
「魔王様がお帰りになられたぞ!」

 シュゼルトがレックスと共に、人間界から還って来た。

「ルシフェルを入れるな!」
「え?何故天界の住人が?」

 しかも、因縁のある天界の住人、ルシフェルと人間界で言い合いになってる中で、シュゼルトが話を切り上げてレックスと帰ってきたのだ。

「いいか!ルシフェルを城に入れるなよ!」
「人間達は、魔法陣の部屋に」
「意識ある者は?」
「咄嗟な事なので、魔法で眠らせておりますが」
「怪我人が居たら手当を!起こさない様にな!アマリエ以外の人間はルシフェルに引き渡す!」
「え?魔王様、一体如何なってらっしゃるので?」

 シュゼルトの部下らしき魔界の者達は、シュゼルトに確認するのに、シュゼルトの後を追う。
 勿論、ルシフェルを城に入れない様にしている者もいるのだが、付いて来る者も居て、説明を求めていた。
 爆発音が出て、マンションを破壊したのだから、怪我人は居るだろう。
 もし起きていて、魔界の者を見たら、仰天するどころでは無い。厄介な事になるのはシュゼルトも望んでいないのだ。

「アマリエ!」

 シュゼルトが入った部屋には大人から子供迄、10人程だ。
 佑美の転生前の名らしい、アマリエと呼んだシュゼルトだが、全員そのアマリエの面影は無い。

「…………何処だ………あれだけ感じたのに………全員か?これで……」
「多分、そうかと………騒然としておりましたから、人数迄は把握してはおりませんが………」
「…………いや………居ない………この中にアマリエが居ない………誰が連れて行った!」
「「「ゔぁぁぁぁぁっ!」」」

 恋焦がれて、禁忌迄犯して迎えに行ったのだ。そして見つけたアマリエを実際目にして分からない訳はない。
 その怒りから、シュゼルトの魔力で吹き飛ばされた部下達と人間達。

「アマリエ!俺を呼べ!」

 シュゼルトの響き渡る声が城中に響き渡った。

 
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