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決戦の日⑦

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「はぁはぁはぁはぁ………如何なってる!!」

 サイファがいても立ってもいられず、応急処置だけして、走って戻って来た。

「サイファ!!」
「親父!!母様が!!」
「呪文唱えて行くぞ!!」
「…………ま、マジか!!」

 サイファはシヴァの後を追ってまた走ると、ソロとドラドがラファエロに剣を刺していた。
 硬直して動けないが意識のあるラファエロ。

 ズキューン!!

「ぐわっ!!」

 アーヴァインのライフルが、ラファエロの頭を撃ち抜くが、血は飛び散らない。

「な、何だ………痛くも痒くもないぞ?あははははは!!」
「当たり前だ、カムラの能力は血を嫌う。俺達がやっている事は浄化だ。浄化された者は悪事を働いた事を忘れる。」
「………じゃあ、俺も忘れるのか?ふふふふふふ………それは面白いな………また殺戮を続けてみせるがな!!」

 シヴァは呆れた顔だ。
 は治らない、と。

「続けられると思うなら試してやろう、生きていられるならな…………サイファ、準備はいいか?」
「…………あぁ。」
「ラファエロ………これで終いだ!」

 阿修羅を構え、呪文を唱えたサイファとシヴァ。

「我等唱える……悪しき心浄化し、天に召せ!!」

 阿修羅をラファエロの心臓に刺したサイファとシヴァ。

「ぐわ~~~~~っ!!」
「生きていたらまた会おう、ラファエロ。」

 シヴァは淡々とした抑揚の無い声で、ラファエロに声を掛けるが、ラファエロの耳には届かない程の断末魔が荒れた草原に響く。
 
「……………す、吸い取られるっ……。」
「もう少しだ……………抜け!サイファ!」

 シヴァの掛け声で、剣を抜く4人。
 ラファエロは倒れ込む。

「あぁああああああっ!!………や、止めろ!!来るな!!!わ、悪かった!!殺すな!!止めろ!!」
「何、如何したんだ?」

 サイファには初めて見る光景だった。

「簡単には浄化出来ないんだろう……今地獄のような映像を見ているようだな。」
「何十人、何百人と殺して来た報いですよ。」
「そういう奴は、浄化の能力を注いだ後は悪夢を見て消滅する。」
「…………うわっ……自業自得じゃん。」

 呻き声と謝罪の声を言うラファエロは痙攣していたが、徐々に動かなくなり、皮膚が爛れどす黒くなっていく。
 ラファエロは美男子で花があった男だが、今は見苦しい。
 サイファはジュリアナを見ると目を反らす事もなく見つめている。
 ジュリアナと目が合ったサイファ。

「サイファ、よく見ておきなさい。人の生命を無下にすると、天罰が下るのよ。」
「……………。」

 サイファが再びラファエロを見ると、塵のようになり風に吹かれて消え去った。
 唯一残っていた、ペンダントをサイファは拾う。

「そのペンダント、ラルドーの娘、エルシャのですよ。」
「ラルドーの?」
「サイファ様から渡してやって下さい。」

 アーヴァインから聞かされたペンダントを、サイファは預かる。
 ラファエロの死により、ネオフィールドとフィーヴァの動きが止まる。
 ホッとした表情の兵士達が殆どで、その場に疲れて座り込んだ者、逃げていく者も居た。
 しかし、アルザス側へ逃げて行くのが予測出来たのか、アルザスへの道にはロートシルトの兵士が陣取り、行かせないようにしていた。

「……………兄上……。」

 シヴァは、アレクセイの方へ駆け寄る。
 ジュリアナやサイファもシヴァの後を追った。

「…………シヴァ!!」
「兄上!!」

 シヴァは兄アレクセイに抱き着いた。

「シヴァ!心配したぞ!」
「長らくお待たせして………。」
「ジュリアナもサイファもご苦労だったね。」
「お兄様が来て下さって助かりました。ありがとうございます。」
「叔父上、ありがとうございました。」

 アレクセイはシヴァの頭を撫でた後、離れる。

「ここがカムラ………。上から見た時は感無量だったよ。半分は私にもカムラの血が入っているからね。復興は大変だが、私も手伝えれる事は手伝おう、復興に人も派遣するよう手配しておく。」
「ありがとうございます、兄上。」

 戦闘後の残骸は数が多い。

「サイファ、この地を浄化するぞ、こういう後は、魔を取込みやすい。疲れたろうが、手分けして頑張ろう。」
「………やっぱりやるのか……。」
「ジュリアナや女達は、怪我人の手当、ネオフィールドやアルザスの動ける者で手伝える者にも頼もう。浄化が必要な者は浄化後に……。」

 ふらふらになって、シヴァとサイファは土地の浄化を始めた。
 その時に起きた天使の梯子を見た者達は、手を合わせた。

「なんと美しい…………。」
「生き返るようだ………。」
「この戦争は終わったんだよな?ラファエロ様の恐怖政治は終わったんだよな?」
「あぁ、終わったんだ………。生命を奪われる心配は無い……。」

 天使の梯子が上がる度、歓喜の歓声が上がったのだった。
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