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ラルドー
しおりを挟む授業が終わり、アニスと帰るサイファ。
アニスはサイファの幼馴染で近所に住む少女。
アニスは時代が時代なら、サンドールの王女だった。
アニスの祖母が、サンドールの王子に嫁ぎ、王妃になり息子を得たが、内乱により夫となった皇太子は処刑され、サンドール王家は断絶。
民主主義国家となった大陸唯一の国だった。
「………ねぇ、サイファ。おじさんはロートシルト行ったんだよね?ご飯家に食べに来たら?」
「………どうしようかな……アニスんとこが迷惑じゃなきゃ、いいけど……。」
「ウチは大丈夫よ、いつもの事だし、サイファのお父さんから、よく頼まれてるし。」
アニスが浮かれた声で、サイファを誘う。
しかし、サイファはアニスの気持ちには気が付かないまま………。
「…………たまには自分で作るかな……。」
「………最近、サイファ家に来ないね。」
アニスが残念そうに言う。
「………父さんが留守だから、ていちいち甘えてられるかよ、俺だってやれる事はやらなきゃ……………あれ、家の前に誰か居る。」
「………あ、ホントだ。」
サイファが自宅の前に居るガタイの良い男を見つけた。
「………あの、ウチに何か用っすか?」
「!!!…………サッ!!……………あ、いや、ここの主と知り合いなんだが、何処に居るかな?」
「……父さんなら、今朝ロートシルトに行ったけど?」
「…………一足遅かったか……。すまないが頼みたい事があるんだ、これのメンテナンスを頼みたい。」
そう言って渡してきたのはナックル。
随分使い混んだ物だったが、それに見覚えがあったサイファ。
「父さんの仕事の手伝いならしてるけど、特に悪くなってない気がする。」
「………いや、何………呪文を唱えてくれるだけでいいんだ、君が。」
「…………呪文?…………あぁ、あれ……。あの変な言葉……。」
「………………変な言葉………では無いんだが…………あ、いや……。」
「………直ぐ要る?」
「あぁ、出来ればね。俺もロートシルト行かなきゃならんしね。」
「アニス、やっぱ今日は家で飯食うよ。」
「…………分かった、じゃまた明日ね。」
アニスと別れ、家の鍵を開けて、男を迎え入れるサイファ。
男も続く。
「…………ねぇ、父さんとどんな関係?このナックル、俺よく見るんだけど……。」
「あぁ、仕事仲間だよ。アーヴァインは武器を作るのに器用でな、調子悪くなったり能力が無くなったりすると頼むんだ。」
「……おじさんは、父さんと付き合い長い訳?」
サイファは、男にお茶を出す。
「………お、おじ……ラルドーと言ってくれ。あぁ、ありがとう。…………17か、18年の付き合いかな、まだアーヴァインがロートシルトの兵士をしてた時に知り合ってな、それからアーヴァインは国を捨てて、俺達の仕事を手伝うようになった。」
「………父さん、サンドールの人間じゃなかったんだ……。」
「………あぁ、アーヴァインはロートシルト出身だ。知らなかったのか……今もロートシルト国王のアレクセイ様に会いに行ってる。俺も行かなきゃならん。ここに来たのも、通り道だからのと、アーヴァインがまだ居るかな、と来たんだが。」
「…………何で、ロートシルトに住んでないんだろ……。」
「……………それは俺からは言えん。自分で確かめるんだな。………それより、早く呪文唱えてくれないか、アレクセイ様に早く会いに行かにゃ……。」
「あ、ごめん。今やる。」
サイファはナックルを持ち呪文を唱えた。
「………我唱える、浄化せし力をこれに注ぐ……。」
サイファのコールドブルーの瞳は白銀のようになり、ナックルを持つ手が光に包まれる。
(…………シヴァ様、サイファ様は立派に成長されてますよ。)
ラルドーはサイファのそれを見て感無量だった。
「はい、これでいい?…………てか、何で俺、こんなん出来るんだろ……。父さんは家に居る時以外やるな、て言ってたけど……。」
「………うむ、上出来、助かるよ。………その能力は世の中を正しき道に使う必要がある。どれが正しいか正しくないかを分からない内に使うな、て事さ。………じゃあな、また。」
ラルドーは早々に家から出ていこうとする。
サイファは直感で思った。
「………俺も連れてってくれないかな、ラルドーさん。」
「…………え!?……いやいやいやいや……。」
(聞いてねぇぞ!そんな未来!アレクセイ様!)
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