【完結】淫乱売女悪女は愛を、束縛執着男には才色兼備を

Lynx🐈‍⬛

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隠せなかったキスマーク

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 結局、玲良は隠せる暇もなく、呼び出しが掛かり、外科医局へ急ぐ事になってしまった。午前中には無かったキスマークが、何故勤務中に着いているのかに、外科医局内でざわつく。

「纐纈先生、如何されました?首」
「え?」
「赤いですよ………昼休憩前は無かったですよね?」
「…………む、虫に刺された………かなぁ……」

 大分、看護師達もストーカー扱いをしなくなってきた矢先の事だ。更なる噂が立つのは勘弁したいのに、患者内ではファンクラブが作られ、『氷の美姫』等と呼ばれ始め、次は彼氏探しでもされるのは困るのだ。

「………山科先生じゃないんですか?」
「勘弁して下さい……山科先生へのストーカーの噂がやっと消えかかってるんですから、山科先生にもご迷惑ですよ……お付き合いしている人は居ますから、これ以上野暮な話は………ね?大人でしょう?」

 同僚医師や看護師達にはクールな扱いしかしなかった玲良だが、山科との関係を断ち切るには、玲良の味方になる人を増やすに限る。そう思い、笑顔で誤魔化す事にした。

「そ、そうですね………大人は大人の付き合いありますよね」
「分かって頂けて光栄です」

 緊急呼び出しの処置も終わり、午後の回診に行く事になった玲良。山科やオペ中の医師達のフォローをしなければならない為、担当医でなくても診て回る。

「これで、夕方の回診は終わりましたね」
「お疲れ様でした」
「オペは終わった頃かしら」
「何事も無ければ終わってますよね」
「医局に戻って、先生達を待つわ………貴女は勤務終了時間でしょう?引き継ぎしたら上がって下さい」
「はい」

 医局に戻ると、オペを終わらせた医師達が戻ってきていた。

「お疲れ様でした」
「纐纈先生、お疲れ様です」
「後藤教授、珈琲飲まれます?お疲れではありません?糖分多めにしておきました」
「おや、ありがとう……糖分多めは助かる」
「看護師から聞きまして……オペ終わりは糖分多めの珈琲を飲まれる、と」
「気が利くなぁ」
「まだ、皆さんの好みは把握出来ていませんよ?患者優先ですから」
「違いない」

 医局の長椅子に深く腰を沈め、後藤は珈琲を飲むと一息吐いた。

「君のお父さんは流石だね………娘の君も立派な医者にさせるんだから……患者からの評判もいいし」
「父をご存知なんですか?」
「………同期だったからねぇ、お母さんも亡くなってなければ、今も活躍する医者であっただろうに」
「母もそう言って頂けると喜ぶと思います」
「今度の小児患者のオペ、見学させてもらうから、頼んだよ」
「………はい…失礼します」
「お疲れ様」

 医局から、更衣室に戻り着替えて帰ろうとする玲良に背後から声が掛かる。

「帰るの?」
「…………山科先生……お疲れ様です……長丁場でしたね」
「………避けてる?」

 2人きりにはなりたくなくて、誰も居なかった廊下を、山科から距離を取ろうと後退りする玲良。

「誤解を招く事はしたくありませんから」
「誰に誤解を招く?」
「ストーカー扱いをしていたではありませんか」
「それは、看護師達が勝手に勘違いしただけさ」
「それでもです………訂正されませんでしたよね、山科先生は」
「噂なんて、勝手に消える………もう消えたじゃないか」
「私が、山科先生への態度に気を付けていたからです!」

 1歩近付かれれば、また1歩後退りし、またそれを繰り返す。だが、更衣室はまだ遠く女子トイレも近くになく逃げ込めない。防犯カメラはあるが、この状況では駆け込んでは来ないだろう。

「………産婦人科医の富樫先生とどういう関係?」
「言う義理ありません」
「…………隠すのかい?」
「別に、隠してはいません………知っている人も居ますし」
「もう一度やり直さないか、玲良」
「無理です」
「…………僕はまだ君が好きなんだが……別れたくて別れた訳じゃないんだよ?」
「そうだったとしても、私には今彼氏が居ますから……失礼します」
「玲良!!」
「痛っ!」

 その場を去ろうとして、踵を返すと、山科に腕を取られた玲良は、そのままその廊下のリネン室に連れ込まれた。

「離して下さい!大声出しますよ!………ぐっ!」

 壁に押し付けられ、喉を掴まれ、声が出なくなった玲良。

「強くは掴んでない………息は出来るだろ?」
「…………っ!」
「午前中は、キスマークなんて着いて無かった………このキスマークはその彼氏に着けて貰ったんだろ?富樫先生に」
「!!」

 山科にキスマークを指で抓られ、痛みが走る。見える場所に短く切ってある爪なのに、食い込む程の強さだ。

「別れろ」
「…………」

 声が出せない玲良は山科を睨む事しか出来ない。それが玲良の。『嫌だ』と意思表示を山科に示す。

「…………そうか……なら、分からせようか…」
「!!」

 山科の手が、玲良の白衣の中に押し込まれた。ズボンの中は、下着のみだ。ファスナーを下げられれば、触られてしまう。

 カチャカチャ………。

『あれ、誰か居ます?鍵掛かってるなぁ』
「!!」
「痛っ!!」

 リネン室の扉のノブが回されるが、鍵が掛かっている。山科が掛けたのは一目瞭然で、玲良は思いっきり、山科の足を踏み付けて、逃げた。誰かに見られてもいい、それが噂になろうとも、山科の思い通りにさせる気等無かった。
 
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