20 / 43
隠せなかったキスマーク
しおりを挟む結局、玲良は隠せる暇もなく、呼び出しが掛かり、外科医局へ急ぐ事になってしまった。午前中には無かったキスマークが、何故勤務中に着いているのかに、外科医局内でざわつく。
「纐纈先生、如何されました?首」
「え?」
「赤いですよ………昼休憩前は無かったですよね?」
「…………む、虫に刺された………かなぁ……」
大分、看護師達もストーカー扱いをしなくなってきた矢先の事だ。更なる噂が立つのは勘弁したいのに、患者内ではファンクラブが作られ、『氷の美姫』等と呼ばれ始め、次は彼氏探しでもされるのは困るのだ。
「………山科先生じゃないんですか?」
「勘弁して下さい……山科先生へのストーカーの噂がやっと消えかかってるんですから、山科先生にもご迷惑ですよ……お付き合いしている人は居ますから、これ以上野暮な話は………ね?大人でしょう?」
同僚医師や看護師達にはクールな扱いしかしなかった玲良だが、山科との関係を断ち切るには、玲良の味方になる人を増やすに限る。そう思い、笑顔で誤魔化す事にした。
「そ、そうですね………大人は大人の付き合いありますよね」
「分かって頂けて光栄です」
緊急呼び出しの処置も終わり、午後の回診に行く事になった玲良。山科やオペ中の医師達のフォローをしなければならない為、担当医でなくても診て回る。
「これで、夕方の回診は終わりましたね」
「お疲れ様でした」
「オペは終わった頃かしら」
「何事も無ければ終わってますよね」
「医局に戻って、先生達を待つわ………貴女は勤務終了時間でしょう?引き継ぎしたら上がって下さい」
「はい」
医局に戻ると、オペを終わらせた医師達が戻ってきていた。
「お疲れ様でした」
「纐纈先生、お疲れ様です」
「後藤教授、珈琲飲まれます?お疲れではありません?糖分多めにしておきました」
「おや、ありがとう……糖分多めは助かる」
「看護師から聞きまして……オペ終わりは糖分多めの珈琲を飲まれる、と」
「気が利くなぁ」
「まだ、皆さんの好みは把握出来ていませんよ?患者優先ですから」
「違いない」
医局の長椅子に深く腰を沈め、後藤は珈琲を飲むと一息吐いた。
「君のお父さんは流石だね………娘の君も立派な医者にさせるんだから……患者からの評判もいいし」
「父をご存知なんですか?」
「………同期だったからねぇ、お母さんも亡くなってなければ、今も活躍する医者であっただろうに」
「母もそう言って頂けると喜ぶと思います」
「今度の小児患者のオペ、見学させてもらうから、頼んだよ」
「………はい…失礼します」
「お疲れ様」
医局から、更衣室に戻り着替えて帰ろうとする玲良に背後から声が掛かる。
「帰るの?」
「…………山科先生……お疲れ様です……長丁場でしたね」
「………避けてる?」
2人きりにはなりたくなくて、誰も居なかった廊下を、山科から距離を取ろうと後退りする玲良。
「誤解を招く事はしたくありませんから」
「誰に誤解を招く?」
「ストーカー扱いをしていたではありませんか」
「それは、看護師達が勝手に勘違いしただけさ」
「それでもです………訂正されませんでしたよね、山科先生は」
「噂なんて、勝手に消える………もう消えたじゃないか」
「私が、山科先生への態度に気を付けていたからです!」
1歩近付かれれば、また1歩後退りし、またそれを繰り返す。だが、更衣室はまだ遠く女子トイレも近くになく逃げ込めない。防犯カメラはあるが、この状況では駆け込んでは来ないだろう。
「………産婦人科医の富樫先生とどういう関係?」
「言う義理ありません」
「…………隠すのかい?」
「別に、隠してはいません………知っている人も居ますし」
「もう一度やり直さないか、玲良」
「無理です」
「…………僕はまだ君が好きなんだが……別れたくて別れた訳じゃないんだよ?」
「そうだったとしても、私には今彼氏が居ますから……失礼します」
「玲良!!」
「痛っ!」
その場を去ろうとして、踵を返すと、山科に腕を取られた玲良は、そのままその廊下のリネン室に連れ込まれた。
「離して下さい!大声出しますよ!………ぐっ!」
壁に押し付けられ、喉を掴まれ、声が出なくなった玲良。
「強くは掴んでない………息は出来るだろ?」
「…………っ!」
「午前中は、キスマークなんて着いて無かった………このキスマークはその彼氏に着けて貰ったんだろ?富樫先生に」
「!!」
山科にキスマークを指で抓られ、痛みが走る。見える場所に短く切ってある爪なのに、食い込む程の強さだ。
「別れろ」
「…………」
声が出せない玲良は山科を睨む事しか出来ない。それが玲良の答え。『嫌だ』と意思表示を山科に示す。
「…………そうか……なら、分からせようか…」
「!!」
山科の手が、玲良の白衣の中に押し込まれた。ズボンの中は、下着のみだ。ファスナーを下げられれば、触られてしまう。
カチャカチャ………。
『あれ、誰か居ます?鍵掛かってるなぁ』
「!!」
「痛っ!!」
リネン室の扉のノブが回されるが、鍵が掛かっている。山科が掛けたのは一目瞭然で、玲良は思いっきり、山科の足を踏み付けて、逃げた。誰かに見られてもいい、それが噂になろうとも、山科の思い通りにさせる気等無かった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。


借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる