【完結】淫乱売女悪女は愛を、束縛執着男には才色兼備を

Lynx🐈‍⬛

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今度の邪魔者

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「ふぁぁぁぁぁ…………」
「眠そうだな」

 産婦人科医局で、大きなあくびをしながら出勤した穂高。先輩医師遠山からニタニタと嫌らしい表情で見られている。

「殆ど寝てないんですよ」
「何だ、もう食ったんか?美………ぐっ!」
「『美人』て言うと機嫌悪くなりますよ、アイツは」

 遠山の口を持っていたカルテで塞ぎ、会話を閉ざす穂高。

「そういや、朝から彼女の噂が出回ってたな………看護師達の広めるの早い事早い事……」
「何ですか?噂って」
「外科医の山科先生……あの人を追っかけて来た、てストーカー疑惑」
「……………は?そんな馬鹿な!」
「かなり、広まってたぞ?なんせ、山科先生本人からの言葉らしくてな………ストーカー行為なんて、学長や理事長に知られてみろ……彼女居れなくなるぞ?」
「…………ちょっと外科医に行ってきます」
「あ!おい!ミーティング始まるんだぞ!」
「………クソっ!!またか!!」

 ドカッ!!

 思わず目の前にあったゴミ箱を蹴り飛ばす穂高に、遠山は止めた。

「おい!!如何した!!」
「…………いえ……山科先生をぶん殴りに行きたい衝動が抑えきれなかったんで……」
「…………後で聞かせろ、一人で突っ走るなよ………あの山科先生はコネでここに赴任してきてるんだ、問題起こして飛ばされるのはお前の方になるんだぞ」
「…………コネ?……そうでしたか……」

 その頃、外科医局では看護師達に囲まれた山科が話をしていた。

「山科先生、お気の毒です。聞きましたよ、ストーカー行為されてる、て」
「いやいや、ストーカー行為てのは誤解だよ………アメリカに居た時の教え子だった彼女と付き合ってた、てだけさ………日本に帰って来る事になって別れたのに、この僕が勤務する病院に赴任を決めたって言うのなら、もしかして僕を忘れられなくて来たんじゃないか、て思って口に出しただけさ」
「山科先生、追い掛けて来るって事はストーカー行為と言ってもいいんですよ~?」
「凄い美人な先生で、引く手数多ぽいのに、ストーカーなんてするんですねぇ」

 誤解を招く様な言葉を連ね、看護師達に誤解を生ませる山科。事実が何であったとしても、当事者が居ない所で言う話ではない。それが、朝から山科が噂好きな看護師達の前で言った事が、またたく間に広まって行ったのだ。
 玲良が挨拶に来た日は、山科は休みだった。出勤し、玲良の話を聞いた山科は、玲良の事を話した事が、結果的に『ストーカー』等と言われる様になったのだ。

「ふふふ………玲良………僕を追い掛けて来たのか?早く来い、玲良……」

 1人になった山科は、そんな言葉を思いながら、廊下を歩く。

「山科先生ですか?」
「…………え~っと君は確か産婦人科医の……」
「富樫ですよ…………少しお話いいですかね?」
「手短ならね……何かな?」
「纐纈先生をご存知だとか?」
「………あぁ、産婦人科医局迄噂が回ってしまったのか………ご存知も何も、教え子だったんだよ、僕がアメリカの病院に居た時のね」
1でしたか」
「……………棘がある言い方だな」
「纐纈は、優秀だったでしょ?」
「………優秀だねぇ……オペの手先の器用さも、知識も………教え子でも参考にさせてもらう事もあったよ」
「そんな纐纈が『ストーカー』する筈ないと思いませんか?本人の居ない所で、そんな噂流せば、名誉毀損にでもなりかねませんが?」
「君は彼女を知ってるようだけど?」
「俺の女なんで」
「!!何だって!!」

 穂高は言っていいか迷ったが、玲良を守る為には、山科には言った方がいい、と考えての牽制だ。

「高校から、玲良の事を知ってるんで………医大は別々になりましたけど、戻って来たのは、俺とまた付き合う為なんで、噂の訂正お願いしますね、山科先生」
「僕は、玲良と付き合ってたんだぞ!」
「…………医大6年の間は、別れてたんで玲良が誰と付き合っていたろうが、今は俺の彼女に戻ってますから、玲良を貶めるのはやめて下さいね………失礼します」

 本当に手短に済ました穂高。穂高自身も山科に腹が立っていて、殴りそうなのを我慢して手短にしただけの事だ。サディスト的な印象の山科と、何故玲良が付き合っていたのか不思議でならなかったが、それは山科にではなく、玲良に聞けば分かる事で、わざわざ山科には聞く事はしなかった。
 しかし、穂高の願い虚しく、玲良の噂は止まらない。山科がその噂を止める事をしなかったからだった。

「…………なるほどねぇ……玲良ちゃん、可愛いなぁ」
「ちょっと、先輩……人の彼女の名前気安く呼ばないでくれます?」
「………お前………昨日迄とガラッと方向転換しやがって……病院の独身看護師、全員食った奴が言う言葉かね?」

 遠山にだけは、穂高は玲良との事を話した。

「全員食ってない……てかもう必要ありませんし」
「…………なぁ、そんなにのか?玲良ちゃん」
「だから!名前呼びしないで下さい……」
「先生、て呼んだら、直ぐにバレるじゃねぇか………じゃあ、玲ちゃん……どうだ?………本人や病院内は苗字に先生付けて呼ぶから」
「………………やめて……山科先生も呼び捨てしてて胸糞悪いのに……」

 病院の屋上で、頭を抱え溜息を吐く穂高を見て面白そうな遠山。

「でも………まぁ、健気で純情な子なんだなぁ……」
「…………外見で判断されがちで、高校生の時も辛い過去がありましたしね………」
「医療世界は実力ありきだ………山科先生のオペ技術と、玲ちゃんのオペ技術で、他の先生達や看護師達はちゃんと判断するさ………フェローシップから、ただの外科医目指すより難易度高い小児外科医になった子だ、実力は山科先生より上だと思うぜ」

 小児外科は、患者は大人より小さい身体の子供達だ。臓器も骨も血管全てが成長期で小さい。オペもそれだけ難易度が上がるのだ。生命の危機感も上がる。

「益々、何か遠い存在………」
「は?」
「高校時代、一度も試験に勝った事ないんですよ、玲良に………常に学年トップの玲良、万年2位の俺……」
「…………うわぁ、高嶺の花をよく捕まえたなぁ、お前」
「昨日も必死でしたよ」
「………身体で物言わせた、て事ね……そんなにイイ身体なら、俺にも相手させ………ゴメンナサイ………」
「先輩だろうと、渡しませんから」

 穂高の冷たい視線に背筋が凍った遠山は、直ぐに謝った。

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