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しおりを挟む王都。
ミリアーナ、イアンは王都にあるマーシャル公爵邸へと到着した。
王太子レオンの婚約祝賀会への出席する為である。
「ミリアーナ、疲れてないか?」
「大丈夫です、イアン様」
馬車を降りれば、王都の邸の侍従達が勢揃いし、頭を下げて迎えていた。
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様」
「お、奥様…………」
「皆、俺の大切な人だ………皆の女主人になるミリアーナ。グランゾート侯爵家から嫁いで来る。ミリアーナの言葉は俺の言葉だと思え」
「イアン様!その様な事を仰っては………」
「ミリアーナ、君が領地の事や邸の事を任せられないなら、俺も言わない。だが、君は領地の事も邸の事もガーブルと上手くやれている。だから言うんだ」
「買い被り過ぎます………」
邸の入口でイチャ付きが始まりそうで、後から馬車を降りてきたメアリが咳払いを始めた。
「お早く、お寛ぎ下さいませ旦那様。ミリアーナ様は長旅に慣れておられません」
「……………メアリに怒られるから入るか………セルゲイ」
「はい」
「ミリアーナ、紹介する。王都の邸を仕切るセルゲイだ。ガーブルの兄にあたる」
「宜しくお願い申し上げます、奥様。弟から奥様の事は聞き及んでおりますので、邸の侍従達にも奥様が男の侍従への苦手意識が有られる事は通達済みですので、領地邸の侍女長メアリ伝で、慣れられる迄は橋渡しして貰うように致します」
距離をセルゲイは取って、再び頭を下げて挨拶されたミリアーナ。
「その心配はご無用です、セルゲイ。随分慣れてきましたので、過度の接近さえなければ会話でしたらどなたでも話せる様にはなりました」
「左様でございますか、杞憂でございましたね。ですが、少しずつ奥様には慣れて頂こうと思っております。旦那様も心配なさるでしょうから」
「…………気遣い感謝しますわ」
案内された部屋は、女主人の部屋だと言われたミリアーナ。
客間でない事に違和感を感じる。
「女主人の部屋を使って大丈夫なのかしら」
「何を仰るのです、旦那様の婚約者様なのですから当然かと」
「まだ結婚もしてないわ」
「旦那様のご両親はもう他界されております。長く女主人が居なかったマーシャル公爵家ですから、皆待ち望んでいたんですよ」
「…………あの扉は?」
廊下側の扉は入って来たから分かるが、部屋の中にも扉があり、ミリアーナはメアリに聞いた。
「あ、あちらは旦那様のお部屋になります………ミリアーナ様にはまだ早いのかもしれませんが、旦那様も通る事はまだ無いから、と仰るので………」
「…………あ……そ、そうなのね……結婚する迄に、覚悟しておくつもりよ………だって………イアン様との婚姻を決めたのは私だもの」
待つ、と言ってくれたイアンの気持ちを汲みたい。だが、その場にならないと受け入れられるかはミリアーナ自身分からなくて、少しずつイアンと触れ合う練習はしてきた。
エスコートされるのも憚り、躊躇した事も、祝賀会でダンスを披露する事も考え、手を握る練習やイアンとダンスの練習もさせてもらっていたのだ。
それは忙しいイアンに申し出るには我儘かと思っていたが、イアン以外の男と練習等は出来ないと、ミリアーナはイアンに申し訳無さそうにお願いして、練習をさせてもらった。
やっと、ダンスもイアンとぎこちないながら踊れる様に迄なり、自然とエスコートされる事も出来てきたところだった。
「ミリアーナ様は努力家ですわ」
「…………そうかしら……もしそうなら反面教師が近くに居たからね、きっと」
しみじみしていると、メアリは気を利かせてミリアーナの思いを汲み取ってくれて、ミリアーナ自身、メアリが居てくれる事で心が安らげていた。
「それとメアリ、貴女が私の傍に居てくれるから頑張れてるの。反面教師は私のお義母様と妹、私を正しい方へ導いてくれるのはメアリ、貴女よ」
「そんな、勿体無いお言葉です………ミリアーナ様………」
「感慨深く浸ってる所で悪いが、セルゲイが、東国の質のいい茶葉があるからお茶でも如何だ、と誘い来たよ、ミリアーナ」
「「っ!」」
イアンの部屋に続く扉を開け、イアンはイアンの部屋に居たまま微笑ましくミリアーナを見ていた。
「ノックはしたんだがね………ミリアーナ、飲まないか?」
「い、頂きます!」
リビングに来ると、セルゲイがお茶の準備をしていた。
部屋に漂う茶葉の香りが強いのに、落ち着く香りで、旅の疲れが取れる気がするミリアーナ。
「まぁ………とても香り高いわ……」
「良い香りが立ち込めてるな」
「はい………飲まれるとより一層感じるかと」
セルゲイが淹れた茶葉を目の前に出され、更に驚くミリアーナとイアン。
「緑?…………毒じゃないだろうな、セルゲイ」
「鮮やかな新緑の様……」
「毒は入っておりません。なんなら毒味致しますよ。私からすれば喜ばしい事ですが」
「美味いという事か?」
「はい、でなければお薦め致しません」
恐る恐る、イアンは一口飲むと、目を見開きセルゲイを見た。
「美味い!何だこの茶葉は………」
「…………本当……芳醇な香りが鼻を通ります……コクもあるのにさっぱりしていて……」
イアンが褒めたので、ミリアーナも飲むとその美味しさに驚いた。
「お気に召しましたか?奥様」
「はい………とても美味しいです………王都で買えるのですか?」
「それはなかなか………懇意にしている商店でも入り難い物らしく………ご滞在中はこの茶葉をお出しする様に致しますね」
「疲れが取れる様だな、この茶は」
「商店にも領地に入れる様、話をつけておきますよ、旦那様」
「うん、頼む」
本当にこの香りと味で、数日の馬車の旅の疲れが取れる感じがしたミリアーナとイアンだった。
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