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6 *リリシュ視点
しおりを挟むグランゾート侯爵領。
邸を出て、数人の侍従達に荷物を持たせ、あの店この店、とフラつくリリシュ。
「あ、この店にも行くわ」
「お嬢様、荷を馬車に一度置きに戻らせて頂いて宜しいでしょうか」
「1人で行って………いい?落とさないでよ」
「は、はい………」
1人の侍従が箱を抱え、紙袋を腕に幾つも通し、視界が悪い侍従はフラフラしながら、馬車へと行くが、やはり無理があったのか、走っている子供にぶつかりリリシュが買った荷を落としてしまう。
「何してるのよ!私の物を地に付けるなんて!全部貴方が買い取りなさい!それと同じ物を買って来るのよ!それも貴方の給金から出して貰うわ!」
「そ、そんな………私には養う妻と子が………」
「知らないわよ!ぶつかったその子にも責任取らせなさい!」
「お嬢様!まだ小さな子です………ご慈悲を……」
「じゃあ、その子供の親に責任取らせればいいでしょう!早く!その子供を逃げないようにしなさい!」
傍若無人のリリシュの声は、街中に居た民達から冷ややかな目線を向けられる。
だが、領主の娘という貴族令嬢のリリシュに刃向かえる程、強くは出れない民達にとって、リリシュに怒りをかった子供やその子の親が気の毒でしかない、と関わらない様にしている。
「コリン!」
「うわぁぁぁん!ママ~!」
「申し訳ありません!ウチの子が何かしたのでしょうか?」
「平民が貴族に許可無く声を掛けないで!無礼よ!ちょっと!早くこの買った物を買い直して来て!この子には罰と罰金よ!」
地べたに頭を付ける母親、そして母親に縋ろうと必死で泣いて暴れる子供に、リリシュは苛々を募らせていく。
「この落ちた私の荷物、弁償して頂戴。子供の責任は親が取るものよ。そして、私を不快にさせたこの泣き声!もう苛々するわ!罰金はこの荷の物の倍額よ!」
「ひでぇ………」
「あんな高価な物を弁償と倍額の罰金なんて、俺達が一生働いても返せるのか?」
「無理に決まってんだろ、宝石もあるぞ」
民達から流石にやり過ぎなのでは、と声が挙がる。
「煩いわね!私は領主の娘よ!領地の法律なのよ!文句あるなら、アンタ達が払うの?」
「!」
「……………」
ざわざわと、我が身可愛さで散り散りになる民達。母親ももし、自分の子がリリシュの怒りをかわなければ、民達の様に目を向けているだろう。
「むしゃくしゃするわ!ちょっと、アンタ!今からこの親子の家に徴収に行きなさい!今からまた買う物は絶対に落とさないでね!行くわよ!」
しかし、流石にやり過ぎだったリリシュの行動は、グランゾート侯爵に知られ、親子は後日無罪放免とされる。
グランゾート侯爵は頻繁にあるリリシュの行動を咎めなければならないが咎められない理由があった。
リリシュを戒めれば、グランゾート侯爵夫人とリリシュが自分達の行動を正当化し続け、また悪化させていくからだ。それを目にする侍従達は、怒りをぶつけられ侍従達から漏れる言葉が噂となり、その噂が街中に迄浸透し、グランゾート侯爵領の支持は地に落ち始めていたのだ。
だからこそ、長女であるミリアーナは孤児院等、領地への支援を率先していたのだ。
それがリリシュには面白くはない。
グランゾート侯爵夫人がミリアーナに使える金を着服していても、孤児院への支援する金を工面出来るミリアーナは、頭が良いのかグランゾート侯爵夫人の目を掻い潜るので、リリシュはミリアーナが大の嫌いだ。
リリシュの方が美人で可愛いと評判なのに、侍従達の信頼はミリアーナが持って行くので理解不能だったのだ。
「あぁあ………揶揄うお姉様が居ないとつまらないわ。私の引き立て役は何処に行ったのかしらね」
買い物から帰り、買った物を出しても買った事だけで満足してしまうようになってしまった。
今迄は、買って態々ミリアーナに見せびらかしに行き、嫌味を連ねてスッキリしていたのだ。
対象的な髪色と髪質のリリシュとミリアーナは、リリシュが似合う色やデザインはミリアーナには似合わないので、態とボロボロにしたドレスをミリアーナに押し付けて、そのドレスを着ているミリアーナを嘲笑う事が楽しみだったのだ。
リリシュがデビュタントした年から思いの外、ミリアーナへの好意を目にした社交場で、益々リリシュはミリアーナへ嫉妬心を募らせていて、もう後戻りが出来なかったのだ。
「お茶!」
「は、はい!」
「…………お父様は?」
「旦那様ですか?旦那様は数日お帰りにはなりませんが」
「何処に行ったの?」
「私達は存じ上げません」
「…………使えないわね、アンタ達…………」
「お嬢様、お茶は………」
「もう要らない」
自室から出ようとするリリシュに侍女も困惑気味だ。
いつも気まぐれで、いつも自由奔放なのが、リリシュだ。グランゾート侯爵夫人はそんなリリシュを甘やかし好き勝手にさせて、グランゾート侯爵にリリシュに対しての育児をさせなかった、言わばグランゾート侯爵夫人の独壇場で育った令嬢だった。
「お母様~」
「あら、リリシュ。今日も可愛いわ………街に行ったんですって?」
「そうなの!侍従は使えないし、子供にぶつかられて私の荷物落としたのよ!もう許せなかったわ!」
「それで如何したの?」
グランゾート侯爵夫人が寛ぐ部屋にリリシュが来ると、快く迎えるグランゾート侯爵夫人は、縋るリリシュを抱き締め、街中であった事をリリシュから聞いた。
「侍従はクビにしましょ、貴女を苛つかせた罰は必要ね」
「お願い!お母様!あと、ぶつかった親子なんて領地には要らないわ!」
「ふふふ………分かったわ」
「ところで、お父様は暫く外出されてるの?」
「えぇ、マーシャル公爵領に行かれてるわ」
「マーシャル公爵領!私も行きたいわ!だって、婚約者よ、私」
この頃はミリアーナがマーシャル公爵領で発見され救出された時期と重なっている。
ミリアーナが行方不明になった頃、イアンがグランゾート侯爵領に来て話していた内容等知らされてはいない上、グランゾート侯爵夫人やリリシュが不躾な態度を取った事は不都合の為、もう忘れられていた。
「リリシュを連れて行かれたら?と私も旦那様には申し上げたのよ?本当に気が利かない方だわ………リリシュ、そろそろ結婚準備も始めなければね」
「えぇ!お母様!お姉様は見つからないんだもの、何処かで死んでるわ………だから喪に服してから結婚式かしら」
「生きてるか死んでるか分からないのだから、さっさと結婚してしまえばいいのよ、リリシュ」
「そうね…………それが良いのよね………私、早速ウエディングドレスを作らなきゃ!」
リリシュはグランゾート侯爵夫人の思うがままに動いている様だったが、これを咎める侍従等、邸には居なかった。
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