誘拐された令嬢は英雄公爵に盲愛される【完結】

Lynx🐈‍⬛

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3 *イアン視点

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 マーシャル公爵邸。
 時は少し遡る。
 マーシャル公爵こと、イアン・ロサ・マーシャルは隣領地、グランゾート侯爵領へ婚姻の話を持ち掛けてから数日経った頃、その相手であるミリアーナが行方不明になった、と知らせを受けていた。

「何だと!ミリアーナ嬢が行方不明?」
「はい………父君のグランゾート侯爵家からの知らせが今」
「直ぐに、グランゾート侯爵領へ行く!準備しろ!」
「閣下!今からですか!明日は王都へ行かねばならない予定ではないですか!」
「そんなものは代行立てればいい!サンチェス!お前が俺の名代で行って来い!」
「駄目ですって!陛下直々の呼び出しですよ!」
「…………くっ……」

 イアンには何の呼び出しなのかは分かっていた。
 20歳になったイアンは公爵になったばかりの独身男だ。未婚で准王族のイアンへの縁談話は後を絶たず、王族から結婚を催促されていた。
 それでも無視し続けていたのだが、イアンは以前からグランゾート侯爵家の長女、ミリアーナに片想いを募らせていたのだ。だからこそ、公爵になった事を堺に、グランゾート侯爵にミリアーナとの結婚の承諾を得たい、と話をした矢先だったのだ。

「叔父上には、書簡1つでいい!」
「閣下!」
「結婚を打診した令嬢が行方不明になった、と伝えておけ………その令嬢以外とは結婚する気は無い、とな」
「…………グランゾート侯爵家から、了承も得ていないのにですか?」
「そうだ」
「また何て言われるか、俺は知りませんからね!」
「非難受けるのは俺だ、いいんだよ」

 王都には書簡1つで済ませてしまったイアン。
 それがあったからこそ、イアンの叔父である国王は黙って受け取ってはくれた様で、後日グランゾート侯爵令嬢の捜索に力を貸してくれる事にはなった。
 イアンがその知らせを受けたのは、3日後グランゾート侯爵領に着いた頃だった。

「マーシャル公爵閣下にグランゾート侯爵がご挨拶させて頂きます」
「グランゾート侯爵、知らせを受け急に押し掛けてしまいすまない」
「此方こそ申し訳ございません、閣下」

 イアンはグランゾート侯爵から、ミリアーナが行方不明になった経緯を自分で確かめたくて態々足を運んだのだ。

「ミリアーナは、グランゾート城下の孤児院を幾つか見て回っておりました。昨年の干ばつ被害により孤児が増えましたので、その視察と支援に」
「ミリアーナ嬢は自ら?」
「はい………あの娘は母が幼い時に亡くしているので、親の居ない子供達への思いが強く、自分の資産迄寄付する娘でして」
「…………素晴らしい心根ですね」
「ミリアーナは、前妻の侍女達に教育されておりまして、前妻の教えをミリアーナに……」
「私も、ミリアーナ嬢捜索に力を注ぎます。思い付く事があれば教えて頂きたい」

 イアンに些細な事でも話すグランゾート侯爵ではあるが、その大事な面談中にイアンとグランゾート侯爵が居た応接室の外が騒がしくなっていた。

『マーシャル公爵様がお見えなの?ご挨拶しなきゃ!』
『なりません!リリシュ様!旦那様は人払いしておりますので!』
『煩いわね!アンタ、クビになりたいの!』
『そ、そんな事は………』
『リリシュ、お母様が許すわ。ご挨拶なさい』
『えぇ、お母様』

 礼儀もあったものでも無い、応接室の外の声が丸聞こえ。
 会話からグランゾート侯爵夫人と次女であるリリシュだと思われる。

「閣下………申し訳ありません……もう1人の娘と妻が……」
「…………いや………私がミリアーナ嬢捜索する事は内密に頼む」
「内密、ですか………」
「そう、内密だ。私は社交場でミリアーナ嬢とリリシュ嬢の不仲を見ている。良くない方へ行かない様にしたいのだ」
「…………分かりました」

 グランゾート侯爵に、イアンの意図が汲み取って貰えたのかは分からない。
 グランゾート侯爵邸でのミリアーナとリリシュとの関係性はイアンには分からないからだ。

「マーシャル公爵様!」
「…………はぁ……」

 案の定、イアンの想像通り、リリシュが許可無く応接室へと入室して来たので、イアンは溜息を漏らした。
 その顔は、イアンはリリシュに対し好意等持ってはいない、と見て取れる。

「リリシュ、勝手に入ってくるでない!」

 グランゾート侯爵は、無礼なリリシュの行動を戒めるが、リリシュの後ろについて来たグランゾート侯爵夫人によって苛まれた。

「旦那様、良いではありませんか。リリシュはマーシャル公爵閣下からの婚姻を了承する為にお話させるのですから」
「レイナ!閣下の婚姻相手はリリシュではない!ミリアーナだ!」
「ミリアーナ…………はぁ……ミリアーナ……旦那様はいつもミリアーナの心配ばかり……旦那様、マーシャル公爵閣下にはミリアーナは不釣り合いですわ」
「そうよ!お父様!私こそマーシャル公爵様に似合うのです!」
「黙りなさい!今大事な話の最中だ!レイナもリリシュも下がれ!」

 だが、リリシュは上座に座るイアンの横に座り、グランゾート侯爵夫人のレイナはグランゾート侯爵の隣に座ってしまう。
 これ程、失礼極まりない行為があるだろうか、とイアンもグランゾート侯爵も顔を顰めた。

「まぁ、お似合いよ。リリシュ」
「本当?お母様」
「…………グランゾート侯爵、私は領地へ帰るから、何か分かれば直ぐに知らせて欲しい」
「分かりました」
「あん………マーシャル公爵様、ごゆっくりなされば良いではありませんか!」
「挨拶も禄に出来ない令嬢の相手も、夫人の相手等出来ぬ」

 あまり進展の無い話し合いではあったが、その後グランゾート侯爵との書簡のやり取りで、怪しい人物を虱探しし、ミリアーナの監禁場所を探し出せたイアンにより、ミリアーナは助けられたのだった。
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