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逃げてきた者

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「マシュリー!」
「!!」
「キャーッ!!ル、ルカス様!!」

 突如、ジェルバに居るルカスが、百合の間に現れた。妊娠中のエリスが居なかった事もあり、ルカスはマシュリーに声を掛けたのだ。もう休むつもりだったのだろう、夜着を着て、侍女達に髪を乾かして貰っていた。

「び、びっくりしましたわ……以前の様な事と同じですの?」
「そう………君に頼みがあって」
「まぁ、緊急で?」

 ルカスは、ジェルバの今の事を説明をする。囚われていたジェルバの者が、医務室で手当をされているが、様変わりした街並みや、ツェツェリア族の者達の減少で戸惑い、興奮状態で、モルディアとの和平を信じようとはしない事を話す。

「それで、神力でマシュリーの宝石に姿が映る様にならないか、とね………義父上もこちらに居られるし、大臣達だけでは収まらなくてね」
「出来るのですか?宝石に姿を映すなど……」
「分からん」

 ただの考えで、ルカスはマシュリーに会いに来たと言うのか。

「………………え~~っ?」

 そんな無謀な思い付きで出来るのか等、マシュリーは分かる筈もない。それに如何すればいいのかも分からないのに。

「だが、俺の考えた事がこうやって、マシュリーに離れた所からでも会える様になったんだ、出来るかもしれない…………今服から宝石が出ているからそこに話し掛けてくれないか、実体がマシュリーの前にはないが」
「わ、わたくし、今は夜着ですわ!」
「あ、そうか…………じゃあ、明日また昼間に来る……それでいいか?」
「…………それなら……」

 流石に夜着の姿を晒したくない。

「じゃあ、頼んだよ……………今日のマシュリーも可愛いね……夜着見ると脱がしたくなる」
「…………いつもドレスでも脱がす癖に!!」
「はははっ………じゃあ、おやすみ」
「…………あ………」

 あまりにも、呆気なく終わる再会に、寂しくて堪らないマシュリー。

「ん?」
「あ、あの………触れられませんが、キスしたい…………です」
「……………俺もしたい……」
「「……………」」

 感触の無いキス。それでも、顔が見れた事が嬉しかった。抱き締める事も出来ない為、唇が重なるだけのキス。

「いいな、これ………寂しいけど」
「ま、毎日出来ませんか?………寂しくて………」
「ま、また………というか……来れる時は必ず来るから」
「あ、明日、お待ちしてますから!」
「あぁ………」

 フッと姿が消えてしまい、マシュリーの頬を涙で濡らした。

「まるで、物語の挿絵みたいな、恋愛小説を読んだみたいです、姫様!!」
「ちょっと、アナ!…………マシュリー様には酷よ、今……」
「…………あ……申し訳ありません、姫様」
「………いいのです、アナ…………明日もお顔が拝見出来るなら……」

 涙を拭い、マシュリーは明日を楽しみにし、ベッドで眠った。
 一方のルカスはヘトヘトだった。

「如何でした?」
「明日また行く」

 疲れ果て、ソファに横たわるルカス。

「出来なかったんですか?」
「いや?試してない…………マシュリーは夜着姿だったからな…………あの姿だけで、5発は抜ける!」

 その姿で、グーサインをマークにして見せたが、マークに馬鹿にされる。

「……………それ、言います?黒髪黒目になってるのに………その姿、マシュリー様に見せたいですねぇ……石に姿が映るのが本当に出来るなら、俺もやらせて下さい」
「……………エリスに送るのか?」
「いいえ、マシュリー様に今のルカス様の姿を」
「…………その姿で5って…………プッ……説得力ねぇ………」
「…………ムカつく………」
「プッ…………ははははははっ!笑い止まんねぇ!!」

 余程、神力を使い切ってしまうのだろう、ルカスはそのまま眠ってしまった。
 翌朝、マークに叩き起こされるルカス。ソファに横たわったまま、叩き起こされた為、ソファから床に落ちた。

「ルカス様!起きて下さい!大変です!」
「いってぇ……何だ!」
「大変何ですよ!ジェルバの民同士、暴動が起きました!」
「……………放っとけよ……」
「そうはいかないんですよ!モルディアを信じてくれている、ツェツェリア族とモルディアの兵士対、信じないツェツェリア族の衝突で!止めに入ったモルディアの兵士を殴った人間が居て、それがまた火種になって!」
「……………ジェルバの大臣は何してる」
「止めに入ってますが、裏切り者扱いで……」
「…………たく……」

 昨夜の感じから、そうなりそうな予感はあった。だから、ルカスは動いたのだが、マシュリーが夜着でいたのもあり、わざわざ着替えさせてまでは、と考えてしまった事に後悔した。

「モルディア兵士達を引かせろ………とりあえず、ジェルバの民だけでも怪我人の有無を……」
「は、はい!」
「俺は着替えて出て行く」

 ルカスは、白銀に戻っている。黒髪だった頃は、黒い服を多く着ていたルカスだったが、白の服に着替えると、窓から外を見下ろした。城塞の入り口前で起こる暴動。

「待てないから、どうにかしようと思ってたのに………に時間は取れない」

 窓を開け、風を起こすルカスは、窓から突風を吹き、5階から飛び降りた。

 ブオッッッ!!

「うわっぁぁっ!!」
「キャー!!」
「え!?殿下!!」
「な、何?」
「……………暇なのか?君達は……俺は、特に君達に感謝されるつもりも無いんだ………だが、君達が敬うジェルバ国王女、マシュリーは、俺の妻になった………彼女は、俺を利用し、俺は彼女を利用した………その意味を考えた事はないだろうな………マシュリーは、ジェルバ国を変えたい、迫害の無い、広い空の下で幸せに民を暮らさせたい、と俺に話した………その願いを君達は叶えようとは思わないのか?狭く高い壁の中はまるで牢獄だ………それで幸せなのか?拉致され、奴隷にさせられたは、そこよりここが幸せになる地だと思っているから戻って来たんだろう?」
「…………か、変わってるじゃないか!何もかも!!俺が住んでいた家は取り壊された!思い出も無くなってた!!仲の良かった友達も居なくなってる!!ここが故郷だと言える訳ないだろう!!」
「では、前のままで良かったのか?俺が初めて踏み入った、この地は壁を壊され、山賊にジェルバの者達は拉致され、奴隷にされかかっていた………そんな壊されていく壁を補修しながら生きていくのか?恐怖に怯えて迄……」
「……………」
「モルディア皇国は、奴隷は1人も居ない……長い冬は終わらせた………だが、ジェルバはまだ冬だ…………終わらせたいなら、静かにしててくれ…………俺が終わらせる」
「「「「………………」」」」
「ルカス様!!何1人でまた無茶するんです!!昼に、マシュリー様に会いに行くんですよね!?今、神力使い切らないで下さいよ!?」
「するかよ、たかが風起こして、俺が降りやすい様にしたんだから」
「…………はぁ……」

 逃げてきた者達はルカスの言葉を言い返せなかった。
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