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虹色の涙

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「何だ、騒がしいな」

 コンコン。

『ルカス様!レナードです、大変です!コルセアとアガルタが開戦した模様』
「…………分かった、今行く……すいません、お呼び立てしておいて」

 ルカスは、レナードの報告に反応し、素早く立った。

「構いません、我々も確認したい、行きましょう」

 慌てて、ルカス達は壁の上に上がる。双眼鏡で微かに分かる火柱や煙。

「何であそこが戦場だと分かる?」
「ここから真っ直ぐ、北西がコルセアとアガルタの国境なんです」

 ジェルバの大臣がルカスに説明する。季節により、星の位置が変わり、時期毎に国境の上にある星を覚えているらしい。

「我々、ジェルバは古来から迫害を受けていましたから、周辺の変貌は常に観察しておったのですよ」
「まだアガルタに戦える者が居たか………」
「如何しますか、ルカス様……何方が勝っても、次はジェルバを攻めて来ますよ」
「アガルタにはもう、戦力は無い筈だ……大方の隊は潰してあるしな………問題はコルセアだ………アガルタが壊滅したら、アガルタに居るツェツェリア族が連れて行かれ、集めていたであろう、宝石も奪われ戦力が増す…………コルセアはモルディアとも国境があるからな…………アガルタとやり合ってる間に、モルディアー二に戻るか……」
「アガルタは、ジェルバに来ないと?」
「あぁ、そう思うな………攻められたらそっちに行くさ………コルセアもジェルバに来る余裕は無いし、来たとしても今のここなら、コルセアには負けない………アガルタが壊滅したとして、コルセアも立て直す時間も要るだろうからな………暫くは無いと見る」

 警戒はしておけ、とルカスは翌日にジェルバを発った。
 実際の所、コルセアがアガルタ側のジェルバ国境を見て回ろうとして、アガルタ側に見付かってからの戦乱になったのだが、争いが起きてしまった以上、開戦になってしまった。
 それから、ルカスの思惑通り、コルセアとアガルタの戦闘は長引く。アガルタは後継者がもう居らず、アガルタ国王はコルセアに捕まった、とモルディア皇国に報告が入ったのは半年後だった。戦乱の最中、アガルタで拘束されていたツェツェリア族のジェルバの民の一部ではあったが、ジェルバへ逃げ帰る事が出来たのは、更に先の事だった。
 マシュリーのはとこである、デイルや城に国王の奴隷になっていた女達は、死骸らしき物が無く、連れ去られた可能性が、ルカスの耳に入ったのも、アガルタ国王がコルセアに捕まったと知らせが来た頃だった。
 そして、アガルタとの戦いでジェルバから帰って来たルカスは、マシュリーと甘い新婚生活を送っている。

「あ、あの………ルカス様……」
「ん?」
「ルカス様は、わたくしとの子は早く欲しいですか?」
「………そりゃあ、欲しいけど?」
「エリスから聞いたのですが…………」

 恥ずかしそうに、マシュリーはモジモジとルカスに話を始める。

「子が出来やすい時期というものがあるらしいのです…………それが、わたくしの場合だと、本日から数日らしく……その………避妊薬はもう飲む必要ありませんでしょう?………も、もしルカス様が、コルセアやアガルタの事を気にして、まだ子は……と仰るなら……わたくしは待ちますが………」
 
 ルカスは、仕事の合間にマシュリーとお茶を飲む時間を作っていた。ジェルバから戻ってから、何かと忙しく、マシュリーも公務があったりと、夜を一緒に過ごす事が出来なかったのだ。そして神力の制御は、マシュリーの宝石をルカスが持つ事で、制御出来ていて、性欲も落ち着いていたのだ。

「絶対に抱く!遠慮なく抱く!!『虹色の涙』の制御はしない!絶対に持たないから、久しぶりに抱き潰させてくれ!」
「ルカス様の仕事は調整出来ませんよ!」
「げっ!マークいつの間に来た!」
「休憩終わりだから呼びに来たんですけど!!」
「早いって!!…………ちょっと!引っ張るなっ!」
「い、行ってらっしゃいませ………」

 皇族専用庭園で、2日に1度はルカスとお茶を飲む時間を作って貰ってはいるが、毎回同じ事の繰り返しだ。

「マーク卿も忙しくしているから、エリスとの時間も取れないんじゃなくて?」
「……………いいんです、結婚して欲しい、と言われましたし、落ち着く迄我慢出来ますから」
「「「「え!?」」」」

 マシュリーだけではない、他の侍女達も驚いている。マークは公爵の地位で、ルカスの従弟だ。ルカスの副官として動いてはいるが、本来なら大臣クラスの役職に付ける男。方やエリスは、医者の娘で父親は爵位等は無い。玉の輿に乗ったと言える。

「わ、私がマークと釣り合わないとは思うのですが、マークの出自も知ってますし、彼のご両親にも許可を得まして……」
「マーク卿のご両親はなんて?」
「…………マークが『妾腹なのをは気にし過ぎ、身分ある令嬢との縁談を尽く切ってきたのは、彼女の存在が大きい』、と言ってくれて、お義父様もご納得頂けて………私は侍女の仕事を続けたいですし、マークも実家の屋敷には住んでいないので、お義母様も勝手にしろ、と…………継母ですし、家族仲は良くはなく………」

 後ろ盾にはならない、エリスの実家ではあるが、幼い時から離れ離れで暮らす息子への愛情は薄い、という事らしく、マークとマークの父親の収入だけで、後ろ盾には困らないと言った所だろう。

「結婚して、お子が出来たら、わたくしとルカス様との子の乳母になれるわね、エリス」
「も、もしそうなれるなら喜んで乳母になります!」
「エリスに子供が生まれなきゃ意味ないですよ、姫様」
「それはわたくしもでしょう?」

 あまり、いい国際情勢ではなかったが、祝い事ではあるので、笑って過ごそうと皆思っていた。

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