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拮抗の中で結婚式を

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 首都モルディアー二にある大聖堂。お祭り騒ぎになって行く日々。結婚式の日が近付いている。警備もこの日に合わせ増員され、国境の戦地に常駐している兵士以外の首都の兵士達は、大聖堂の警備を怠らない。

「…………明日かぁ……長かったなぁ……」
「ルカス様の、でしょう?」
「……………五月蝿いよ……だが、結婚式終わったら、またジェルバに行かなきゃならんとは………」
「仕方ないじゃないですか」
「誰だよ………俺達の邪魔する奴は……」
「アガルタ国王に手紙送っときますか?『結婚式を邪魔しやがって』と」
「コルセア国王にも送っておきます?」

 執務室で不貞腐れ、椅子を引き書類山積みの机に足を投げ出すルカス。

「あ!行儀よくして下さいよ!」
「大事な書類!!」

 マークとレナードがぎゃあぎゃあと、怒鳴り始める。冗談で言った台詞に、ルカスは考えている様な顔をしている。

「……………いいな、それ」
「「…………は?」」
「手紙だよ、手紙」
「「………………それが何か?」」

 2人がシンクロするので、マークとレナードはお互い睨み合う。

「両国に、『ツェツェリア族の金の瞳の娘が(アガルタ国にコルセア国に居る)(コルセア国にアガルタ国に居る)』と、差出人不明で送るんだよ………アガルタ国王は信じないだろうがな……あっちにはデイルが居るから」
「……………潰し合いですか」
「時間稼ぎにもなる………コルセア国は、アガルタ国に攻めるかもしれん………あの2国は仲悪いしな……ジェルバ国の宝石【輸出量】で張合っていた………戦力の増大で経済は逼迫しているコルセア国、幻覚作用の植物を輸出しているアガルタ国はコルセアにも売っている。コルセアは宝石もその植物も欲しがっている筈だからな………ツェツェリア族の金の瞳の娘がジェルバ国から連れ出されて、アガルタ国へ攻めてあわよくば国王を倒したら……なんと娘じゃなく………ま、上手く行けばの話だが………」
「「……………」」

 というのは金の瞳のデイルの事だ。

「幸い、アガルタの国王と王子達は動いていない………こっちも戦力を二分させられているんだ……アガルタにも戦力二分してもらおう」
「…………えげつない事考えますね」
「戦は武力行使だけじゃない……情報操作でなんとでもなる」
「…………じゃあ、潜り込ませた兵士に伝書鳩送っておきますよ」
「頼む………父上にも伝えておいてくれ」
「分かりました」

 マークとレナードはそれぞれ手配する為に執務室を出た。

「どう動いてくれるかねぇ………こんな情報戦にマシュリーを使うつもりはなかったが………デイルも使えそうで………役に立つじゃないか………」

 男の嫉妬も怖いのだ、と知りもしなかったルカスは1人執務室で考えをフル回転するのだった。

         ♡♤♡♤♡

「………………ふぅ……」
「緊張してるのですか?マシュリー」
「……お母様………」

 大聖堂の控室で着替えて、鏡を向かい合わせで、大きな息を吐いたマシュリーの後には、マシュリーの母、ツェツェリア知事夫人の姿が見える。

「…………結婚もしない、子も要らない、と3年前、ザナンザが亡くなってから心に堅く決めて、その意志を溶かしてくれた、皇太子殿下に感謝しますわ……」
「…………それは、わたくしの結婚相手をディル兄様に据えようとした空気が嫌で嫌で………」
「そうね………あんなにも嫌っていたのに、勘違いした者が噂を広めていったから………」
「わたくし、ディル兄様が失踪してからも影に怯えましたわ………第2、第3のディル兄様の様な方が増え………」

 プクッと母の前では甘えて拗ねた様に頬を膨らまし、後ろに振り向いたマシュリー。その顔でツェツェリア知事夫人はクスクスと笑う。

「まぁまぁ………皇太子妃になる方が、そんな子供っぽくして如何するのです」
「お母様の前では子供で居たいのです」
「貴女は………お父様には強がるのに、わたくしやザナンザにはいつも甘えて………これから如何するの?わたくしと頻繁に会えなくなるのよ?」
「…………ルカス様が仰いましたわ、お父様には知事の役職と共に、公爵の爵位を用意していると」
「……………あら、もう聞いていたの?結婚式の後に発表する、と皇帝陛下からお話あったのに……」

 ジェルバ国の土地は、コルセア国とアガルタ国の状況により傘下に入る事になるのをツェツェリア知事は了承した。元々、ジェルバ国はツェツェリア族の集まりの集落。土地は愛着はあるものの、今は自由に行き来しようと思えばモルディア皇国との門は開かれている。土地の権利はツェツェリア知事で、そのままいずれ領地として管理する事に決まった。それにより爵位をモルディア皇国から受け取り、皇太子妃の出児の家として恥ずかしくないように、皇族の家族になった者として、ジェルバ国の国王一家という事も考慮され、結婚式後にツェツェリア知事が任命される事になったのだ。

「ルカス様が、わたくしの両親の事だから、と………反対意見も無く、スムーズに決まった、と教えて頂きましたわ」
「少し、寂しい思いはするけれど、戦地が落ち着けば、壁も取り払われ、いずれは広いこのモルディア皇国の空の様に、子供達も元気いっぱい走り回る姿があの土地で見られる事になるでしょう…………早く見たいわ……ツェツェリア自治区に移住してきた子供達は本当に明るい表情をしているの………」
「…………お母様、わたくし頑張りますわね、お兄様の分も、お父様やお母様が望む治世にする為に……」
「……………えぇ……頼みましたよ、マシュリー」
「…………その治世、私もお約束させて下さいね」
「「!!」」

 マシュリーとツェツェリア知事夫人の会話に割って入る声。その方向に2人は向くと、ルカスとツェツェリア知事の姿があった。

「ルカス様……」
「ノックはしたんだけどね……返事が無いから、開けてしまったよ…………マシュリーでは出来ない大変な仕事だ………俺を除け者にしないでくれ」
「勿論ですわ、ルカス様と一緒に……」
「さぁ、マシュリー、式が始まる………ダリアも聖堂へ行きなさい」
「あら、もうそんな時間になりまして?」

 ツェツェリア知事が、夫人を呼びに来た様だ。

「義母上は私がお連れしますので」
「頼みます、ルカス殿」

 ツェツェリア知事夫人は、マシュリーのヴェールを下ろし、一言声を掛けた。

「マシュリー…………幸せになりなさい、お父様もお母様もいつまでも見守っているわ」
「……………ありがとうございます」

 結婚式が始まる。
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