上 下
85 / 126
アガルタのその後

84

しおりを挟む

 ルカスはマシュリーの顔を覗き込む。

「話した?」
「はい、今話終わりましたわ」
「……………そうか……ではその続きから話ますね………我々がジェルバから出た後から、ジェルバとアガルタの国境で、アガルタ兵達とデイルの受け渡しから、彼等がアガルタの首都に戻る迄の話を………」
「…………報告があったのですか?」
「あぁ、アガルタ兵の中にモルディア皇国の兵をスパイとしてね、デイルの結末が気になるんじゃないか、とね」

 ルカスは、国境付近でのアガルタ兵達からのデイルへの言葉を、ツェツェリア知事やマシュリー達に聞かせた後、モルディア皇国の兵をアガルタ兵に変装させ尾行させた事を話す。そしてアガルタ人達のデイルへの待遇や対応の情報、そして首都での扱いを淡々と語る。

「結局、首都迄檻の中で移動し、首都でアガルタ国王が首輪を着けたツェツェリア族の若い女を連れて、城外へ出て来たらしい。それでアガルタ国王からの言葉がこうだ………『役立たず』『お前はこのまま奴隷落ち』『金の瞳の女が手に入る迄は、お前を飼ってやろう』…………と、デイルへ言っていたらしい……アガルタ国王の奴隷………がデイルは拘束されたまま城内へ入って行ったと………恐らくアガルタ国王は女だけでなく、男も大丈夫な様で………」

 マシュリーはゾッとする。デイルに関しては命があるなら、マシュリー自身に害が無いなら、と思って追放した。だが行く先は奴隷で、しかもアガルタ国王の慰み物。デイルがザナンザにしようとした事が、自身で慰み物になった、という末路に、言葉が出ない。

「じ、自業自得とはいえ……何と無様な結末だ………」
「両親も拘束され、奴隷落ちになったとか………アガルタ国王はジェルバへの侵略の指示を出しました。マシュリーとの結婚式前に、もう一度ジェルバへ私は行くつもりです………結婚式に間に合う様には帰国するつもりですが、戦況によっては遅れる可能性もあります…………私の父、皇帝陛下はなるべく予定通りに結婚式を挙げる為に、兵を出兵させました………その事を、義父上にもご報告をせねば、と」
「………………分かった……我々もジェルバ国の事、モルディア皇国に頼りきるばかりではいかん………こちらに常駐する兵も向かわせましょう」
「宜しいのですか?」
「戦力にならぬかもしれぬが………皆も良いな?」
「はい!勿論でございます!」

 結婚式の準備もままならぬまま、ルカスはマークや、ジェルバとモルディアの兵を連れ、ジェルバへ旅立ったのはそれから2日後。その間、マシュリーはルカスが居ないなりに、結婚式の準備をしていた。毎日、ジェルバのある方向へ祈り、無事に帰る事を願って、マシュリーは日々皇太子妃へ着々と近付いていた。

          ♡♤♡♤♡

 再び、ジェルバへ来たルカス。

「どうだ?」

 壁に上がり、双眼鏡を覗き、ジェルバやモルディアの隊長に確認を取る。離れた場所で野営をしていて、まだ動きは無い。その状態が3日は続いている。

「前回迎えに来た数より多いですね………国王や王子は居ない模様です………烏合の衆かと」
「…………馬鹿にされてるのか、後から来るのか………コルセア側の動きはあったか?」
「いえ………コルセアはですね………以前殿下が居られた時以降、小隊が様子見なのか、襲ってきましたが………」
「…………まだ、ジェルバにモルディアが加担している、という情報は、漏れていないようだからな………レオンハルト侯爵がコルセアとアガルタにスパイを送っている……動きがあれば、首都側からコルセアへの牽制は出来るんだがな………」

 レオンハルト侯爵、元法務大臣でありルカスの元婚約者、アンナレーナの父親である。レオンハルト侯爵はアンナレーナの犯した罪の呵責から、アンナレーナが個人的に付き合っていたコルセアやアガルタとの闇取引相手に接触し、情報を得ようとしている。

「アガルタとコルセアが組まれたら厄介ですね」
「そう、厄介だ…………モルディアはコルセアとも隣接しているしな……同場所で戦闘になるなら良し、分かれられたら戦力を二分しなければならない」
「…………ん?動きがありますね……隊を組んで出発しそうです」
「……………歩兵と騎馬準備!弓隊も警戒しろ!」
「「「はっ!」」」

 戦闘が始まる可能性が否めず、ルカスはそのまま壁の上から待機と指示を出す事に決めた。コルセアよりアガルタの方が、国土と人口も多く、その分兵士の数も違う為、待ち構える態勢も変わってくるからだ。

「ルカス様!アガルタへ送ったスパイから伝令が!」

 マークが伝書鳩を連れ、その鳩に着いた手紙を開く。

「……………本当に馬鹿にしてるな……アガルタの王子、5人共出兵していないらしい………王は、を愛でるのに忙しいらしいぞ?」
「…………デイル、ですねぇ」
「胸糞悪く、男複数で弄ばれてるんだと………」
「……………男同士で何がいいんですかねぇ……少なくともは女相手のタイプでしょう?」
「…………受け身で掘られるなら関係無いだろ」
「確かに………同じ男として、ちょっと同情しますね」
「気持ち悪いだけだ」

 ルカスも、我が身であれば遠慮したい行為で、デイルがアガルタの侯爵の地位でなければ、ジェルバ追放だけで済ませただろうが、宣戦布告としてデイルをアガルタに帰させた事は、アガルタ国王の動向や性格を予測したかったからだ。案の定、デイルは国王のになった事で、国王の足止めが出来て、ルカスにとっては幸運と言えた。

「揺さぶり掛けるか」
「弓でもお見舞いします?」
「火を着けてな」
「了解しました」
「射程範囲内に入ったら放て」
「はっ!」

 予測通りに、範囲内に入って来るアガルタ兵士。ヒュンヒュンと火矢が放たれ、地上からでは反撃等出来ず、右往左往するアガルタ兵。その牽制がいつまで続くかは分からないが、国境付近に居座りを続ける以上、止める訳にはいかなかった
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子様と朝チュンしたら……

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,075pt お気に入り:34

伯爵令嬢の恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:372

罪人の騎士は銀竜に溺愛される

BL / 完結 24h.ポイント:562pt お気に入り:67

マッチョ兄貴調教

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:603pt お気に入り:60

杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:469pt お気に入り:139

処理中です...