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アガルタの使者は

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 ジェルバ国に着き、マシュリーは久々に狭い空を見上げた。

「こんなに狭かったんですね……」
「だが、それでツェツェリア族を守っていた」

 街を崩し、城塞を作ったというジェルバ国。コルセア国とアガルタ国に隣接する部分はかなり強固な城塞と化していて、城だった部分の内部から城塞への行き来も出来ると説明されたマシュリー。暫く見ない間に故郷が様変わりしてしまい、センチメンタルな気持ちになってしまう。

「姫様!」
「マシュリー王女!」

 ジェルバ国の民は全員移住はしなかった。最後迄戦う意思を見せた者や、まだモルディア皇国を信用しきれず、様子を見る者、病弱な家族が居て、移住に困難な者等だ。エリスの父は医者でもある為、世話していた患者を診る為に、何度か往来も既にしているらしい。モルディア皇国からも医者を派遣はしているものの、拒む者が居るのは仕方ないかもしれない。

「皆さん、元気でしたか?」
「はい!王女はお戻りになられるのですか?」
「…………え?」
「じぃちゃん、姫様は婚約して、モルディア皇国に嫁ぐんだよ!……すいません、ボケちゃって………」

 認知症の者の家族は、その家族を思い移住出来ないという家族も居る。居住地を変えてしまうのは、認知症になる者からすれば苦痛になる事もあるという。

「いいえ………お元気で居てくださいね」

 それしか声を掛ける事が出来ず、城に入るマシュリーとルカス達。残っていた臣下達は嬉しそうに出迎えてくれた。

「マシュリー様……おかえりなさいませ」
「ただいま帰りました」
「陛下はご健勝でらっしゃいますか?」
「はい、此方に帰る前にお会いしましたわ」
「……………すまないが、再会を喜ぶ暇は無さそうなんだ………アガルタ対策をしたい………連絡はしてあったと思うが………」
「は、はい………ルカス殿が仰った様に準備は整えております」

 ルカスは臣下達と早々に打合せに入りたくて、城の中へと突き進む。

「さぁ、マシュリー様、我々も入りましょう」

 侍従に案内された部屋は元々マシュリーが使っていた部屋で、モルディア皇国に出る前と変わらずの状態になっていて、マシュリーは安心する。変わったとするならば、壁が厚く高くなり、益々圧迫感がある国になった事ぐらいだ。

「わたくしは、打合せには入らなくて良いのかしら………」
「はい、ルカス様はただ使者が来た時の顔合わせするだけで良いと……後はルカス様がされるそうで」

 ルカス達と共に同行した侍従の一人が、マシュリーに告げる。マークはルカスに付いている為だ。

「そうですか………使者はいつ来られるのかしら?」
「連絡だと、3日後には、と」
「…………3日後………教えて頂きありがとうございます」

 その間は何事もなく、平穏な日々を送るマシュリー。ルカスがマシュリーの部屋に来る事も無く、3日後の朝になった。

「何故かお久しぶりな気がします」
「…………マシュリー……充電したい……」

 仕事が忙しく、殆ど寝ていないというルカス。マシュリーが会えたのは2日振りだ。使者を迎える為の準備の為、過去どういう者が使者に来たのか、性格等も把握しなければならない、とジェルバ国の臣下達からの打合せや、警護の配置確認等率先して動いていたという。

「失敗したら、元も子もないですからね………結婚式も遅れる可能性もありますから、必死なんですよ、ルカス様は」
「結婚式……ですか?」
「えぇ、ルカス様とマシュリー様のです………失敗したら、アガルタとの戦争勃発になりかねませんからね、そうなると結婚式どころでは無くなる……と」

 もう、これはマークからの脅しに聞こえるマシュリー。確かに戦争になれば皇太子のルカスは出陣するだろう。そうなったら、結婚式が挙げれるかさえ難しい。

「そろそろ使者が来ると、東門から伝達が来た…………マシュリーの座る玉座の前には衝立を用意している」
「衝立?」
「姿を見られない為だ………会話は小声で俺が玉座の横に居て俺を介して会話してもらうから」
「そこ迄する必要あります?」
「それは………」
「マシュリー様のお姿を使者に見せ、マシュリー様を寄越せと言われない為ですよ………使者は男ですし」

 ルカスの背後で呆れた顔をしたマークに、ルカスのやきもちが伺えた。

「…………あ………そう………ですね……」
「何かあったか?」
「…………え、えぇ………ですがお父様はわたくしが居る事をコルセア国にもアガルタ国にも話していませんわ………子供はだけだと……息子等もう居りませんが……」
「兄か弟が居たのか?」
「…………はい………5歳離れた兄が……自害を………アガルタの国の者に……連れて行かれそうになり、お父様の前でアガルタの兵士の剣に自ら刺されに行った、と………兄も金の瞳でしたし、狙われていましたので……連れて行かれるのを拒み、それならばと………3年程前ですわ」
「…………だが、コルセアは金の瞳の若い娘が居ると確信している様だったが……」
「…………分かりませんが、民達が奴隷になり話したかもしれません………ジェルバ国内で国王に娘が居る事は隠していませんから」

 マシュリーの初めて聞く過去。ジェルバ国の王位継承者は今はマシュリーただ一人。男兄弟が居たら良かったのに、と思ってはいたルカスだが、実際に存在していたという。国にとっても悲しい出来事で、ルカスはそれ以上マシュリーの兄の事は聞かなかった。
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