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新たな動き

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「本当に申し訳ありませんでした!」

 応接室に入室するなり、マシュリーとルカスの姿を確認すると、頭を床に付けて土下座する法務大臣。彼は娘、アンナレーナの犯した罪の謝罪を申し出た。謝罪があったところでレナードの傷がなかった事にはならないし、コレットもアンナレーナに引き摺り込まれ、罪を追う事にはならなかった筈だ。マシュリーに至っては心の傷も大きい。

「頭を上げよ………謝罪をされても私は、其方の娘がした事は許すつもりもない」
「分かっております………娘の罪は私にも責任があります………法務大臣である以上、皇国の法に従わぬ者は罰せられて当然………許して頂こうとは思っておりません」

 ルカスはソファに腰掛ける様に、マシュリーを誘導し、自分も横に座る。法務大臣は床に跪いたままだ。

「ならば、何故謁見を求めてきた?既に罪は執行されている……其方に責任を問わせたつもりもない筈だ」
「…………その事ですが、法務大臣を辞する事をご了承頂こうと思っております……爵位も返上し、財産も手放す準備もしております………後は、陛下と殿下………皇太子妃殿下になられるマシュリー様の御裁可のみ……」
「……………」

 法務大臣の申し出にルカスは腕組みして考えている。

「陛下の御裁可は?」
「………財産迄手放す必要も無いとは思っている……法務大臣を辞するのは、致し方ないとは思うが、爵位に関しては皇太子の意見も聞こうと思ってな」
「…………針の筵に身を投じてもらいましょう………」
「針の筵?…………例えば?」
「彼は侯爵、そのままコルセア国にスパイ等…………アンナはコルセア国やアガルタ国にパイプを持っていた………そのツテで我々も利用させてもらうんです」
「………ほぅ……」
「何も彼がコルセアやアガルタへ行く必要は無い、彼の部下を上手く利用し、モルディアの嘘の情報を流してもらうとか、逆手に取れるでしょう………私も何度か部下を送り込ませましたが、アンナ程の人脈は得られませんでした………」

 法務大臣の役職を降ろし、アンナレーナの人脈を使わせれる駒となれるのは、父の侯爵だけだとしたら、これ以上の駒は居なかった。

「なるほど…………マシュリー妃はどう思われる?」
「わたくしは………」

 皇帝の問い掛けに、ルカスだけでなく法務大臣である侯爵もマシュリーを見つめる。

「わたくしは、先ず侯爵閣下より謝罪を受け取るつもりはありません……何故なら既に彼はアンナレーナ様というご自分の娘を牢獄に入れた事で罰を受けておりますわ………その事から考えて、皇太子殿下のこの案は使えるかと思われます………ですが、法の元に動かれておられた方が、この仕事が出来るものなのか、わたくしには分かりません……良心の呵責に苛まれなければ良いとは思います」
「うむ………貴殿は如何する?私は其方の仕事振りは知っている………娘の罪も許せぬだろう?それを利用する事に抵抗あるのなら頼めぬしな」

 法務大臣は難しい顔をする。長年正しい事を課してきた仕事をしていた者が、スパイになるのだ。抵抗が無い訳ではないだろう。

「………その任、私の責任においてお任下さい………娘からその人脈奪って、必ずお役に立って見せましょう」
「…………法務大臣」
「……はっ」
「コルセアやアガルタが我々に戦争を仕掛けて来なくなる迄でいいんだ………その頃迄にアンナレーナも反省したのなら、恩赦も考えてもいい………反省したら、の話だがな」
「………そのお言葉だけで充分でございます……娘の仕出かした事は、未来のモルディア皇国の皇帝、皇妃への反逆行為なのですから」

 ルカスは恩赦の意思を示したが、侯爵には不要だったようだ。結果的に法務大臣は辞任し、スパイの為の資金は侯爵の個人財産から使わせる為、爵位や財産はそのままと決まった。
 アンナレーナの父、レオンハルト侯爵は応接室を退室し、応接室には皇帝とルカス、マシュリーの3人となる。

「さて………コルセアとアガルタが共闘してきたら我々は勝てる見込みは無い………共闘になった時、アガルタはコルセア経由で来るのも、ジェルバ国経由で来るのも厄介………ルカスはどう見る?」
「共闘となれば、コルセアとの国境とジェルバとの国境での戦争か、コルセア国境での戦争の2択でしょう………ジェルバ国の城塞はもうほぼ完成しています……アガルタがジェルバ国民が今モルディアに居る事を知っていなければ、ジェルバ側から来る可能性もありますが、心配しているのはソコなのです」
「……………あの……アガルタへの輸出時期は、もう迫っています……その時に探りを入れれるかもしれません」
「……………それだ!」
「そうだな」

 アガルタがジェルバ国からの輸出を見逃すとは思えない。

「ツェツェリア族自治区に確認しましょう、アガルタへの分が多少なりとも手土産程度あるならそれを借りて、アガルタの動向を確認出来ます…………近日中にまたジェルバに行ってきますよ」
「うむ………頼んだ、ルカス」

 それを聞いていたマシュリーは、ルカスにお願いする。

「ルカス様、わたくしも連れてって下さい」
「…………え?……」
「連れてって下さい!………お父様が必ず使者のお相手しておりました。お父様は今自治区の事で手一杯………ですから……」
「……………い、いやそれは……」
「連れてってくれないなら、わたくしルカス様と口を聞きません!」
「…………先ずは、自治区に居られる義父上に聞かないと……な?」

 マシュリーに押され気味のルカス。その構図が皇帝には新鮮だったのか、笑いが飛んだ。

「ルカス……既に尻に引かれたようだな………マシュリー妃の同行に関しては、ツェツェリア知事に任せる………私は、こちらでコルセアの動向を見張っていよう」
「…………分かりました」

 後日、マシュリーを連れツェツェリア自治区へ知事に会いに行ったルカス。知事もアガルタ用にと念の為に集めていたという宝石を預かり、マシュリーと共にジェルバへ旅立った。
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