【完結】鬼畜皇太子にロックオンされまして…………

Lynx🐈‍⬛

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宝石採取

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 その後のルカスは、再びマシュリーに会いに、百合の間へ戻った。

「え?宝石を調べる?」
「そう、君やアナ、エリスの宝石を調べたい」
「よく分かりませんが、必要なのですね?」

 皇妃教育を始めていたマシュリーに控えていた侍女アナとエリス。理由を先に言われた訳では無かった為、首を傾げている。

「悪用はしないし、調べたらアナとエリスには宝石を返すし、マシュリーのはそのまま結婚式用の装飾品を作る為に集めておくから」
「分かりました、でも今はお勉強中なので後程で良いですか?」
「あぁ、勉強が終わる頃にマークを取りに来させるから、渡してくれ………あ、簡単には涙出ないよな?」
「…………そうですねぇ……本等読んで泣いておきますわ」
「急にすまないな」
「いいえ」

 そう伝えて、仕事があるのだろう、部屋を出たルカス。その姿を見送る事さえないままルカスの表情が暗かったのが気になったマシュリー。
 かといって、宝石を出す為に、本を読み涙が出るとは分からない。アナとエリスも急な事で困っていた。

「マシュリー様、再開しても?」
「あ!申し訳ありませんわ」
「見惚れるのも仕方ありませんな………皇太子殿下はモルディア皇国一の美男子ですからな」
「見惚れた訳では………」

 だが、マシュリーの頬は赤く色付き俯く。

「何だか………ルカス様は怒ってらっしゃる気がしたので………」
「そうでしたか?気が付きませんでしたが………しかし、何故に涙から宝石が出来るのか………ツェツェリア族の力は不思議なのですなぁ」
「わたくしも分からないですわ………勉強の続きをお願い致します……」

 教師に付いている者に興味を示されては困るので、勉強を続けるマシュリー。時間通りに勉強を終わるとマークがやって来た。

「本が必要かと思いまして少々お持ち致しました」

 ずっしりと重量感のある読み応えあり過ぎる本が3冊。マシュリー、アナ、エリス用だとは分かるが、その厚さの本を読み切り涙を数時間で読み切れるとは思えず、3人は冷や汗を掻いた。

「マ………マーク卿………これを1冊読むの…………ですか?」
「これを全部読む必要はありません、短編集でありまして、感動的な話を抜粋した頁にはしおりを挟んでおります………ただ、問題なのは、時間も無く以前読んだ記憶の中で選んだもので、マシュリー様が感動するかは分からず………」
「それでも、短い時間の中でこの量をご用意して頂けたのですよね?凄いですわ」
「では、宝石が取れましたら、こちらの瓶にそれぞれお入れ下さい。名前を書いておきましたので」
「えぇ、分かりましたわ」

 また後で来る、といいマークはまた百合の間を出て行き、マシュリーはアナ、エリスと共に本を読んだが、全く涙等出なかった。

「これ、何処が感動する、て言うんでしょう」
「エリスもそう思う?アナなんて、笑い転げてるわ…………」
「マークさんの、視点や感性如何なってるんでしょうね………これ笑い話ですもん」
「でも、涙は出るわよ?笑い過ぎてお腹痛いわ………ははははははっ」
「わたくし…………笑えるけど、涙出ないわ……」
「私もです…………」

 夕方、夕食前に再びマークが百合の間にやって来る。

「取れました………か?…………ん?」

 複雑な表情でマークを迎えたマシュリーとアナ、エリス。アナは宝石が取れたが、マシュリーやエリスは全く取れず、困り顔と苦笑いをしているかのような表情。

「お借りした本、笑い話ばかりで流石に感動して涙等出ませんでしたわ…………」
「え!?…………感動しませんでした?この馬鹿らしい話…………え?しない?」

 マークは自分の感性を押し付けただけの結果になっていた。

「ど、如何しよう………検査準備もしてあるのに……」 
「…………お城の中にありますの?」
「は、はい」
「それなら、そこにわたくし達を連れて行って下さい」
「構いませんが、宜しいのですか?むさ苦しいかもしれませんよ?」
「大丈夫ですわ」

 しかし、『むさ苦しい』と言うマークの言葉を信じれば良かった、と思ったマシュリーとアナ、エリス。城の地下に入って行き、換気が悪いのか、汗臭さやらジメジメしている空気とカビっぽさ、薬品か何かを扱っているのか、ニオイが強烈だった。この場所に来る迄は、貴族の男達の目線を集め、逃げ出したいぐらいだったのが、今はこのニオイで気分が悪い。

「こ、こんな場所によく検査施設等………」
「表だって調べられない物を検査するんです………このニオイは先日、幻覚作用のある植物を回収し、検査をしていて充満してしまってなかなかニオイが消えませんので……」
「姫様…………この環境で涙が出そうです…………」
「エリス………そのまま宝石にして頂戴」
「…………はい……」

 アナも恐怖心で、涙が出た様で、そのまま宝石に変えている。

「ここです………失礼します」
「……………あぁ、来たか……マー…………マシュリー?」
「わたくしも知りたくて、連れてきて貰いました」
「よ、よくこんな場所に…………マーク!連れて来るなよ!マシュリーにこんな場所は似合わない!!」
「でもおかげでアナとエリスは取れました」
「…………ん?取れなかったのか?本で」
「はい…………笑い話では涙が出なかった様で………」
「何で?面白い話で笑い転げて涙出ないか?」
「出ませんよ…………あまりにも馬鹿らしくて、ルカス様が選んだなんて言えず、恥を掻いたのに、ここに連れて来させられたんですから、恥を掻いて下さいね、ルカス様」

 ルカスの名誉?の為に恥を忍び、マークは『自分の感性』を通してマシュリー達に本を持って来たらしい。

「仕方ない………感動話で涙なんて出た事ないものだから………」
「すいません、マシュリー様…………こんな人で………」
「……………マーク卿も大変ですわね」
「は?何でマークが大変何だ!いつも嫌味ばかり言ってくる副官なんだぞ?大変なのはそれを言われている俺の方だ!」
「…………あ、あの……検査は……」

 準備を整えていた研究者達は、その検査対象である宝石を待っていた。
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