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寝顔を狙って

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 百合の間と薔薇の間の扉は開けたままにし、ベッドで寝るルカスの寝顔を覗き込むマシュリー。

「……………寝顔可愛い……」

 触れてはいけないと思いつつ、ルカスの黒髪に触れたくて、手を伸ばしてしまった。

「誰だ!!」
「きゃっ!!」
「!!…………マ…………マシュリー?」
「……………お、おはようございます………あ、あの………」

 ルカスが人の気配を察知し、マシュリーの腕を掴み、ベッドに引き摺り込み馬乗りになったルカス。ルカスは素っ裸でベッドで寝ていたとは知らず、マシュリーの顔は真っ赤になっていた。

「あ!!す、すまない………」

 咄嗟にシーツで隠すが、時既に遅し。

「…………ベッドから下ろさせて下さい……」
「………あ、あぁ……」

 寝込みを襲いに来るとは思わず、チャラけた様子等微塵も見せないルカス。

「起こしてしまい、申し訳ありませんわ……少しでも、一緒の時間を過ごしたく………朝食を一緒に取れたら、と………」
「……………マシュリー」

 ルカスに背中を向け、耳迄真っ赤になるマシュリーに、ルカスは抱き着こうと手を伸ばす。

「オホンッ!」
「!!」
「おはようございます、ルカス様…………起きていらっしゃいましたか、でしたら朝食のご準備致しますので、服をお召になって下さいませ」

 しれっと、カレンが睨みを利かし、邪魔をする。ルカスの伸ばした手は宙を浮き、マシュリーはカレンの咳払いで続き扉の方へ逃げていた。

「ルカス様、お待ちしておりますわ」
「………………くそっ!!」
「1枚上手でらっしゃって、私達は楽しませてもらってますよ、ルカス様」
「…………カレン……頼む………抱き締めるぐらいさせてくれ…………マシュリーが足らない」
「マシュリー様が逃げられますからねぇ………クスクス」

 服を着る手伝いをするカレンが、心底楽しそうにしていて、ルカスは面白くない。

「女性はお心の準備が必要ですから」
「そんな女、俺は知らない」
「マシュリー様は、ルカス様が知らない女性ですよ…………簡単に手に入らない方を、ルカス様は好きになられたのですから、気長に待つ事です」
「でも、キスはしたぞ!軽くだが!」
「……………そういう事も、軽々しく言わない!!」

 不意打ちだったキスは、ルカスはそれだけでも自慢したかった様だ。だが、声が大きく再びマシュリーの前に服を着てやって来たルカスに、冷たい態度で接したマシュリー。

「……………あのキスは無かった事にして下さいませ………記憶から消去を求めます」
「何で!大事な思い出!」
「…………わたくしもですわ……それを軽々しく仰るなんて…………何故、わたくし達2人の思い出にしてくれなかったのですか?」
「……………はぅ!!」

 憂いのある目で、マシュリーはルカスに訴えた表情が、ルカスの心を抉った。

(マシュリー様…………小悪魔ね……)
(……………凄い、ルカス様をコントロールしている………)
(…………マシュリー様、可愛い……)
(それは言えてる………)

 うんうん、と侍女達のヒソヒソ声がされる中、1人冷静なカレンは、ルカスとマシュリーに告げた。

「ルカス様、マシュリー様………ジェルバ国移住が終わりましたら、陛下が夜会を開きたいと仰いましたので、マシュリー様の夜会用ドレスを作りますが、ルカス様好みで作りますのでご希望ありますか?」
「夜会?」
「はい、婚約発表も兼ねて………」
「え!?」
「もう発表するのか?」
「はい、なので解決させておけ、と」
「……………くそ親父め……」

 昨夜、アンナレーナに一方的に婚約解消し、報告した早々に、浮かれた事をするその行動の速さが、急かされている感が否めない。だが、婚約発表をすればマシュリーを妻扱いが出来、イチャイチャを許されそうで、ルカスの顔は明るくなっていく。

「ルカス様…………婚約発表が結婚ではないですわ」
「!!」
「そうですね、マシュリー様………その通りでございます」
「…………可愛いのに、時々鋭い事言うよな、マシュリー……」
「ジェルバ国の事、少しでもお手伝いしたい………」
「………うっ!」
(…………小悪魔決定)
(タイミング良すぎて、ルカス様が言い返せない………)

 婚約がほぼ決まっている2人の図式はもう出来上がった模様で、下僕ルカスと小悪魔マシュリーという、侍女達内での楽しみが増えたのであった。
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