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寝顔を狙って

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 その日の夜、ルカスはアンナレーナの隠れ屋敷に潜り込み、アンナレーナの餌食になった男女を拘束し、事情聴取や屋敷捜索で城に戻って来たのは明け方だった。

「マシュリーに会いたい………」

 マシュリーは眠っているだろう。百合の間の前の廊下には兵が配備されていて、入ると説教やマシュリーを怒らせるだろう。

「マシュリーは寝てるか?」
「はい、お休み中かと」
「…………はぁ………」

 薔薇の間のルカスの部屋に溜息を付きながら入ると、続き扉の向こう扉を見る。

「……………ふふふふふふ………」

 しかし、扉に手を掛けると、扉が開かない。この続き扉には鍵は付いていない。そもそも夫婦間のプライベートルームになる部屋に鍵等必要ないからだ。

「!!何で開かねぇ!!」

 ガチャガチャ、とノブを動かす。しかし、その音で百合の間の方からカチャカチャとするので、様子を見ていたルカス。扉が開くと、カレンが仁王立ちしていた。

「…………カ、カレン………」
「お疲れ様でございました、ルカス様………お休みなさいませ」

 そして、カレンは続き間の扉を閉めてしまった。

「……………おい……マジか……」

 疲れているのに、阻まれて明け方から眠ってしまえば、起きるのは昼過ぎになるだろう。それが分かるから、少しでも癒やしが欲しかったルカスは、寝顔だけでも見たかったのに、と項垂れるのだった。

「……………カレン、ルカス様がお帰りに?」
「はい、お疲れの様でしたから、そのまま就寝になられると」
「…………そうですか………ではわたくしも休みますね」
「……………マシュリー様、何もルカス様をお待ちになる事はないのですからね?」
「…………今、わたくし達ジェルバ国の為のお仕事をされておられるのに、当事者であるわたくしが休む訳にはいけないと思うので……」

 マシュリーは、机に向かい、モルディア皇国の歴史の本を読んでいた。知っておかなければならない事は、時間がある時に知識に入れて起きたいと、カレンに用意させていたのだ。

「マシュリー様………何と心根のお優しい事で………」
「……………カレンも、付き合ってくれていたではないですか……」
「ですが、マシュリー様………ルカス様はお忙しい方、1日ぐらいの夜更しなら良いですが、マシュリー様がルカス様にお付き合いしたら、マシュリー様のお身体が持ちません………マシュリー様は皇妃となられ、ルカス様を支える方が一緒に倒れては、ルカス様から怒られますよ」
「…………大事な事をお願いしているから、ジェルバ国の事が解決する迄の間だけ…………ね?」
「…………ふぅ………では、ルカス様にも夜更しは程々に、とお願いしなければ」
「わたくしが勝手にしている事だから、内緒にして下さいね」
「……………分かりました……さ、早くお休み下さい………昼前迄ゆっくりして下さいね、侍女達には伝えておきますから」

 そう言ってカレンは、百合の間を出て行った。

「お休みなさいませ、ルカス様」

 マシュリーもベッドへ潜る。1人で寝るのに大き過ぎるベッドの中央に横たわる。

「…………このサイズ、てやっぱり………そういう目的………よね…………わたくしは受け入れられるのかしら………」

 そして、いつの間にか眠りに着いたマシュリーだった。
 しかし、起きたのはマシュリーがいつも起きる時間で、仕方なく身体を起こす。

「……………お庭散策したい……」

 清々しい朝に、鳥の囀りが聞こえ、ジェルバ国ではなかなか味わえない空の広さ。窓から見るその景色は、灰色の壁に囲まれた城からの景色ではない。

「…………本当に素敵」

 窓際の出窓に腰掛け、窓を開けると、心地良い風が入る。そよそよと金の髪が靡くと、それがまた心地良かった。

 コンコン。

「…………まぁ、マシュリー様!夜着のまま窓辺に寄っては端ない!」
「あ、おはよう、アナ、エリス」
「やはり起きてらっしゃったわ!」
「…………起きてしまったのよ」
「規則正しい生活されていらっしゃいましたから、起きてらっしゃっると思いましたよ」
「お願い、喉が乾いたわ…………渋めなお茶を用意出来る?」
 
 窓辺から離れたマシュリーは、眠そうな顔であったが、軽やかな足取りで歩き、椅子に座る。

「はい、ご用意致します…………お着替えなさいますか?」
「…………そうね、わたくしお庭に出てみたいから、着替えてお茶を飲んだ後、散策出来るか確認して貰える?」
「畏まりました………その後朝食で宜しいですか?」
「えぇ、お願い………ルカス様が起きていらっしゃったら、お食事ご一緒したいのだけど、難しいわよね?」
「それも確認致しますね」

 衣装部屋から、マシュリーが選べる様に、何着かエリスがドレスを持ってくる。

「モルディア皇国のデザインのドレス、てどれも素敵……」
「昨日のドレスも、マシュリー様に合ってらっしゃいましたよ」
「えぇ、あれも素敵なドレスだったわ………あ、これは?」
「………マシュリー様らしいドレスですね」
「お似合いかと………髪は結われます?」
「任せるわ」

 ピンクの差し色に白のシフォンドレスに着替えたマシュリー。髪も緩く編み込みをし、纏めたアナ。

「素敵、アナありがとう」
「いいえ、お似合いですマシュリー様」
「マシュリー様、兵士に確認しましたら、兵士同行でならお庭散策して良いと」
「本当に?………では行かせてもらおうかしら、アナもエリスも付き合って」
「はい」

 マシュリーは知らない。昨夜その庭でルカスがアンナレーナに別れを告げた事に。それにより、アンナレーナが皇族専用庭園に何かしら持ち込んでいなかったか、調べる為に兵士を配置していた事を。
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