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謁見
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しおりを挟む準備が終わり、モルディア皇国皇帝との謁見に呼び出されたマシュリー。ルカスに連れられ、マークが側に控えて皇族居住階を歩く。
「いいですか、ルカス様………アンナレーナ様との婚約。破棄もしていないのに、マシュリー様を妻にするとは言わないで下さいね、波乱が起きますし」
「分かってるさ、それぐらいは」
「本当ですか?………百合の間にマシュリー様を入れた事も言っては駄目ですからね!」
ルカスにエスコートをさせられそうになったマシュリーだが、それもマークに阻まれ、ルカスは不機嫌だ。婚約者ではないのだから。マークから聞かされたが、モルディア皇国の首都に住む臣下がほぼ集まっているらしい。国全体で取り組んでいた、奴隷廃止制度の終着点の当事者、ジェルバ国の王族が入国した、という事は、モルディア皇国からの申し出を了解した、とも取れるからだろう。しかし、間者が居ないとも限らず、事は慎重なのだと言う。マシュリーも半分は本心を言う訳にはいかないと思っている。
大きな扉の前には、警備の兵士が両脇に待機し、観音開きをされた。玉座には中年の男女が座り、声が聞き取れる程の場所で、マークが止まった為、マシュリーも立ち止まり一礼する。玉座の男女は皇帝と皇妃、ルカスの両親だろう。ルカスは玉座の脇に移動すると玉座に向かって声を掛けた。
「陛下、皇妃………皇太子ルカス、ジェルバ国王女マシュリー殿下を連れ、戻りました」
「……………うむ……マシュリー王女、礼を解き頭をあげよ」
「……………ジェルバ国王女、マシュリーでございます」
真っ直ぐに玉座に顔を向けた、凛とした立ち姿のマシュリー。その美しさに、謁見の間に控える臣下達からどよめきが走った。
「う…………美しい……」
「この世の人間か?」
「神々しい………」
ざわざわした空気を皇帝は手を翳し、静する。
「なるほど…………」
皇帝は、ルカスをチラ見するのを、マシュリーやマークは気が付いた。ルカスの顔はニンマリと浮足立っているからだ。
「皇太子から、先頃ジェルバ国での事件を聞いている………大変だったであろう……其方達、ジェルバ国を保護する、というモルディア皇国の申し出は、マシュリー王女はご存知か?」
「…………はい、存じております……先頃の事件は、皇太子殿下のご配慮で、ジェルバ国の民は助けて頂きました。感謝してもしきれません………それにより、父ジェルバ国王は前向きに検討する、と申しております」
「そして、其方はその大使として、来国したと思って良いのだな?」
「モルディア皇国とジェルバ国との架け橋になり、ジェルバ国民の身の安全が保てるのであれば、わたくしはこの身を投げ出しても構わないと思っております」
柔らかな印象とは違う、はっきりと断言するマシュリーに覚悟が見て取れた様で、皇帝は関心している。
「では、その身をモルディア皇国に投じろと言えば、王女はするのだな?」
「…………わたくし以外の民の安全を頂けるなら」
「では、モルディア皇国の人間に嫁げと言ってもか?」
「父上?何を………」
ルカスは怪訝そうな顔に変わる。
「…………例えば………そうだな……そこのマーク………皇太子の侍従でジェルバ国に行ったから顔は見知っておろう?この男に身を投じ、婚姻を結べ、と言えばするのか?」
「……………え……?」
「父上!!何をマシュリーに言わせようと!!」
「皇太子は黙れ………王女、聞かせよ」
「…………民の為なら……………あ……駄目……」
マシュリーの目に涙が溜まる。無意識に自分の気持ちに反する事を言わされ、目頭を抑えた。
「……………好きな男が居るのだろう?王族に産まれたその命、何を優先する?……其方は民だと答えた…………両方を選ぶのは笑止千万………だが、その覚悟はしかと見させて貰った………安心しなさい………マークと結婚しろ、とは言わん…………感謝はされてもいいが、恨まれたくはないからな………人間は弱い………支え合わねば生きては行けぬ……種族の違いもそう………種族が違うからと言って、秀でた能力は様々なだけで迫害を受け、迫害され強者が弱者を虐げてはならん、弱者を強者が守ってこそ、支え合えるというもの………それが長年、迫害をしてきた者達の罪………先祖の尻拭いをさせてもらおう…………その為の架け橋になるマシュリー王女の覚悟、受け取らせてもらう………自治区が完成する迄、城に滞在を許可する………皆の物、マシュリー王女が美しいからと言って、来賓を汚すのは許さんぞ!…………いいな、ルカス」
「……………は?」
「解散」
「父上、何を俺に言い聞かせようとしてるんです?」
「そのままの意味だ………マシュリー王女、もう少し時間を取らせてもらえるか?」
ぞろぞろと臣下達が解散する謁見の間。残った者は少ない。
「は、はい」
マシュリーは、部屋に帰ろうにもどうやって来たかもよく分かっていない為、頷くしか出来なかった。
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