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謁見
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しおりを挟むジェルバ国から乗ってきた馬車は、自治区に置き、モルディア皇国の馬車に乗換えさせられたマシュリーとアナ、エリス。その意味は分からなかったが、馬を世話する者が自治区にまだ居ない為、馬だけは連れて行く事になった。
「何故、馬車を変えるのです?」
「すまない、ジェルバ国からの移住に関して、まだ知らない者も多くてね、街中に走る分には、近々だろうという予測してもらっても構わないが、コルセアやアガルタの間者が城に行き来している可能性もある。特に君の場合は、入国を隠したい………狙われてるから、と理由でね」
ルカスは騎乗を止め、マシュリーと一緒の馬車に乗り込み説明をする。
「あと、君の部屋は俺の隣の部屋に用意させた。慣れる迄暫く不便だろうが、俺の乳母でレナードの母親カレンが、主に君の侍女頭になってもらう……アナとエリスは、モルディアの城の事をカレンに教わってくれ………ジェルバとはやる事はあまり変わらないとは思うが、自治区にまだ住めないのと、マシュリーが俺と結婚しても、マシュリーが気心知れた侍女が居て欲しいしな」
「……………本当に結婚するのですか?」
「そうだけど?…………不安?それとも不満?」
「…………不安です……」
マシュリーには、まだ心からルカスに飛び込めない。今は兎に角、ジェルバ国の事を考えたかった。モルディア皇国の街並みを見て行く度に離れる母国、ジェルバ。この移動中、皆は無事であろうか、と街の美しさに浮かれていても、心から楽しめていないのだ。
「さぁ、着いた………」
ルカスは先に馬車から降り、マシュリーをエスコートして馬車から降ろす。自治区から見る城も大きいと思ったが、やはり大きな城に圧倒されてしまい、足が震えた。
「大丈夫、俺が付いてる」
マシュリーの手を取り、ルカスは自分の腕にマシュリーの腕を組ませる。支える、と伝わり、支えられてる、と思わせてくれる大きな手に、マシュリーは安心した。中に進むにつれ、モルディア皇国の臣下達や、王城にやって来た令嬢達の目線がルカスに向けられる。必ず一礼をされ、その後マシュリーに向けられた冷たい視線。臣下達は何処の令嬢かという目で、令嬢達は嫉妬の目。まだ気を緩ませられず、緊張の糸が切れそうで早く休める場所に行きたくて仕方なかったマシュリー。何度か階段を上り、廊下を歩く。そして、冷たい視線が無くなる階に来ると、一気に疲れが込み上げた。
「……………」
「大丈夫か?マシュリー」
「………は、はい………」
「この階から上は、臣下は許可無く入れない。そして、此処から先に皇族居住専用の庭に下りれる階段があるから、明日にでも一緒に散策しよう………此処が俺の部屋……扉に薔薇の紋があるのが俺、百合はマシュリー、君の部屋だ………この階全てが俺とマシュリーが使う事になる………そして、皇族付侍女達はこの階の下、庭へ行く階段から行き来する」
マシュリーの想像を遥かに超えた広さ。扉は6つしか無いのに、階の面積が大きいのだ。
「……………」
「カレンが君の私室の前で待ってるな」
突き当りの部屋の手前に立つ、侍女数人。
「お帰りなさいませ、ルカス様」
「あぁ、ただいま………紹介する、マシュリー………彼女が、今日から中心に君の身の回りの世話をするカレンだ。そしてアナやエリスのサポートをする侍女達を付けている。アナやエリスがここでの仕事を覚えたら、カレンは離れるが、それ迄はカレンは彼女達に仕事を教えて貰いたい」
「畏まりましたわ………では早速、マシュリー様をお召変えを………荷は既に運び込まれておりますわ………ジェルバ国のドレスとモルディアのドレス、何方もお着替え可能でございます」
「着替えが終わったら知らせてくれ、父上に会わせるから」
「畏まりました」
「マシュリー、また後で」
カレンに会わせると、ルカスは話もせず私室に入ってしまう。
「………は、はい」
「さ、マシュリー様、お部屋をご確認下さいませ………お好みに合わなければ、変更も致しますが、先ずは町娘風のお姿からお着替えを」
「は、はい」
マシュリーに与えられた部屋は申し分ない豪華さで、ジェルバ国でのマシュリーの部屋より広さがあった。
「如何ですか?」
「…………何て素敵なお部屋でしょう!わたくしには勿体無い気がしますわ………ねぇ、アナ、エリス」
「姫様……ルカス様のご厚意と思って、使わせて頂きましょう」
「…………そうね、でも気後れしてしまいそうよ、わたくし………」
「息子から少し耳に入れておりましたが、謙虚な王女様です事…………さぁ、マシュリー様、ドレスをお選び下さいませ」
カレンが、10着程用意したドレスが並ぶ。マシュリーはその連なるドレスを見て、カレンに言った。
「このネックレスに似合うドレスはどれだと思われますか?」
と。町娘風な姿である為、ネックレスは服の中に入れていたマシュリー。徐ろに取り出し、カレンや他の侍女達の目に入れる。
「まぁ、素敵な物をお持ちで………流石、ジェルバ国。宝石の加工技術や産出に特化されるだけありますわね…………では、こちら等如何でしょう………胸元が開き、露出は多少気になりますが、そのネックレスが映えるかと」
モルディア皇国のドレスをカレンは選ぶ。謙虚で控えめなマシュリーからすれば冒険ではあったが、映えるのはマシュリーにも分かるので、マシュリーはそれを選ぶ。
「こちらにしますわ…………お手伝いお願いします」
「マシュリー様、敬語等侍女達に不要………レナードから、マシュリー様はルカス様が妻に、と選ばれた方………難関はあるかと思いますが、私達はルカス様がお選びになられた方であれば全力でお仕え致します」
「……………わたくしは、本当にルカス様の妻になって良いのでしょうか……まだわたくしには分からないのです」
「…………それは、マシュリー様ご自身で見極める事かと」
確かにそうだった。ルカスの人柄を知り、ルカスの妻として、自信が無ければ、妻にはなれないだろう。そして、それは先ずは目の前の難関を解決するのが最優先だった。
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