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異国の街
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しおりを挟む一方、鬼畜ルカスの部屋。ルカスは上機嫌で、入浴を済ませ服を着る。食事準備をしに来たマークの冷たい視線を浴び、それに気付いてはいるものの、気付いていない振りをしていた。
「上機嫌ですが、何か良い事でも?」
「…………まぁな………マシュリーの部屋はこの隣だろ?」
「行かせませんよ?ルカス様」
「……………行かせろよ」
「駄目ですよ」
「何故だ」
「純真無垢のマシュリー様を、鬼畜ルカス様の毒牙に掛かるのを見す見す逃すとでも?………マシュリー様の部屋にもアナ、エリスの部屋にも兵士は配置してあり、ルカス様を通すな、と伝えてあります」
「……………」
しれっと、マークは先手を打った事をルカスに告げる。その言葉はルカスには奈落の底に突き落とされた感覚に陥る。
「何だと!!妻にするんだぞ!」
「知ってますよ」
「ならいいじゃないか!!」
「婚約もしていないのに?」
「別に今迄だって、未婚だろうが既婚だろうが女は抱いてきた、今更体裁は気にしない」
それが一国の皇太子が、軽く言う事か、とマークは深い溜息を付いた。
「モルディアで男女の恋愛は緩いのかもしれませんが、ジェルバ国は分かりませんよ?結婚してからではないと、身体を許さないという習わしがあったら、ルカス様如何なさるおつもりで?」
「結婚するつもりでいるからいいじゃないか」
「マシュリー様は未通ですよ?多分」
「だろうな」
「俺、ルカス様の女性経験、暴露してきましたから………マシュリー様に」
「……………は?………何だと!?」
「今迄、ルカス様が付き合って来た女達と純真無垢で生真面目なマシュリー様とは違います。今、夜這いしてご自分の性欲をぶつけ、自分の女になってくれる程、マシュリー様は簡単ではありませんよ?寧ろ逆!頑なな方であれば、しっかり気持ちを確かめ合わねば逃げますよ、あの方は」
「…………逃げられる……」
「俺がマシュリー様なら逃げますね………結婚が決まり、立場上逃れられなくなってから、ルカス様の腕の中で酔わせればいいのです」
「今酔わせたいんだが………」
「駄目ですって!」
後腐れない恋愛をしてきていたルカスに真面目な恋等未経験。現在婚約者は居るが、お互いに干渉しない事を条件にし、法務大臣の娘であるアンナレーナという令嬢と婚約した。だが、ルカスはモルディア皇国が長年課題としていた奴隷制度廃止の終着点を目指し、結婚を先延ばしてきて2年。女に執着しないルカスは、婚約者アンナレーナを抱かずとも、性欲は何とかなっていた。それはルカスが干渉させなかったからに尽きる。
マシュリーに出会い、マシュリーに執着してしまったルカスは、マシュリーを抱きたくて仕方なくなっていた。
「娼館行けばいいじゃないですか」
「……………行く気にならん」
「まぁ………俺なら好きな相手以外、他の女抱きたくないですけどね」
「…………だから、行かせろ」
「嫌われてもいいならどうぞ?ジェルバ国の件を失敗し、そしてルカス様が目指した、国には遠退きますけど」
「………………だぁ!!」
「性欲なら、ご自分で処理されるのが宜しいかと」
ガタッ!
ガバッ!
ドカッ!
ルカスはそのままふて寝する。
「明日も夜明けに起きて下さいね、ルカス様」
「とっととお前も寝ろ!!」
「おやすみなさいませ」
マークがルカスの部屋を出ると兵士達に指示をする。
「交代警護し、絶対にルカス様を部屋から出すなよ…………後、マシュリー王女の部屋も厳重に警護を」
「はっ」
そんな日が、6日続いた朝、遂にモルディア皇国の首都に到着する。モルディアーニという名の首都は、マシュリーが見てきた街とは違い、倍以上に華やかで活気満ち溢れた美しい街だった。馬車が行き交い、人々は笑顔で賑やかな街は、マシュリーが望んで来た風景。街に着く度に、輝くマシュリーの瞳には、少女の様に夢心地だった。
「マシュリー、気に入ったか?モルディア皇国」
「…………はい、素敵な街です!」
「マーク、自治区を回って城に入るぞ!マシュリーに見せたい」
「はっ!」
首都に入り、城が目の前で通り過ぎて暫く馬車を移動すると、ジェルバ国の様に高く聳える壁ではなく、建物に囲まれる様に門があり警備兵の横をすり抜けると、大きな街の様な区画に入った。馬車が門に入ると、馬車は止められ、馬車の扉がルカスによって開けられる。
「此処が、ツェツェリア族の自治区だ。建物で囲まれては居るが、そこが住居になる………全ての住居から、モルディアーニの街が見え、治安が安定したら往来も自由にし、門も撤去する…………今の所、ツェツェリア族以外の国民が、住みたいと勝手に住まれては困るという事もあるから、そうしている………新しい物が好きな人間は多いからな……中心部には広場があり、憩いの場所にしている……いずれは、ツェツェリア族の宝石加工技術を学びに来たいという者も働きやすい様に、開放的な街並みにはしてみた。住居は2階建てで一棟ずつ使える様にはしてある…………ジェルバ国王には知事になってもらう予定だが、その屋敷は、中心部の広場近くに今建設中の筈だ」
「…………行けますか?そこ迄」
「如何だろうなぁ………マーク確認取れるか?」
「お待ち下さい………今………」
マシュリーが街を確認したくてウズウズしているのが分かり、ルカスはマークに確認を取ろうとしていた。
「皇太子殿下」
「………おぉ、マクファーレン、順調か?」
「急ピッチに進めておりますよ」
「知事の屋敷を見たいんだが、見れるか?」
「知事と言いますと、ジェルバ国王住居になる………まだ内装は仕上っておりませんので、外装だけなら」
「案内してくれ」
「畏まりました」
現場責任者らしき男に案内され、中央広場を見渡す様に一際目立つ屋敷を指された。モルディア風建物の屋敷は立派で、ルカスも納得する。
「どうだ?マシュリー………君のご両親の居住地だ」
「…………こんな立派なお屋敷に住めるのですか?」
「君は、ここには住まない」
「………では何処に……」
ルカスはマシュリーを後ろに向かせ、見上げさせた。
「君はあそこ…………言ったろ?妻にする、と」
マシュリーは先程通り過ぎた城を見る。ジェルバ国の城より数倍は大きい城。その城に圧倒するばかりだった。
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