17 / 126
異国の街
16
しおりを挟むマシュリーが見る初めての外国の街。ジェルバ国とは違う街並みや建物の外壁の色。壁に囲まれた狭い空とは違う広い空に、何処からか焼きたてのパンの香りが立ち込め、花々が咲く歩道に、目を奪われていた。
「なんて美しいの!」
「わぁ………凄い!これがモルディア皇国なのですね!」
「あ、あれ何ですかね?姫様!!」
「こら!あまり窓から乗り出さないように!落ちるぞ!」
騎乗していたルカスが、馬車内ではしゃぐマシュリーや侍女達に声を掛ける。
「………目新しくて……つい……」
「此処に1泊する………因みに、町娘風な服は持ってるか?」
「…………持ってないですわ」
「………じゃあ、侍女の1人を連れ出して構わないか?君は残った侍女と宿屋で待っててくれ」
「「「?」」」
宿屋に入ると、侍女のエリスを連れ、マシュリーや、アナ、自分の服を買う様に、とマークは数人の兵士と歩いている。
「エリス………マシュリー様やアナの服のサイズは知ってますよね?」
「は、はい…………で、でも私1人で買い物に行かせて貰っても良かったんでしょうか?………姫様も出たがっていたのに……」
「街中で『姫様』は止めてくださいね………身分がバレたら大変なんで………アナは、はしゃぎそうだったんで、落ち着いて買い物出来そうな、エリスを選んだんですよ………馴れない場所で迷子になられたら困りますからね」
なるほど、と思える理屈でエリスは納得する。たった数日顔を見合わせたぐらいで、どういう性格なのか、ある程度分かるような分析をしたというのか、と思える程だった。
「確かにアナは夢中になり過ぎると暴走しますから………」
「この店にしましょうか……町娘風のドレスにして下さいね、2、3着ぐらいあればいいですかね」
「…………はい」
数着、エリスはモルディア皇国風ドレスを選び、エリスは侍女姿から着替えて店から出た。エリスが持とうとした、服達は、マークや他の兵達が持っていってしまう。
「私持てますよ?」
「この量を持つのは大変でしょうから、持ちますよ」
「ありがとうございます」
まだ買い物があると言うマークに付き合うエリスは、マークの気遣いに感謝する。
「マシュリー様やアナへのお土産です………パンの香りにはしゃがれていたので、食べたいのじゃないか、とルカス様が買って来るように、と仰ったので寄りますね」
「す、すいません……はしゃぎ過ぎて……」
「行きの旅路は、女っ気等無かったですから、新鮮で良いと思いますよ」
パンも買い込み宿屋へ戻るエリス。宿泊する宿屋には、マシュリーやアナエリスとの部屋の前に、しっかり兵士も配置され、警戒は怠らない。
「只今戻りました、姫様」
「…………ご苦労様、エリス」
「あれ、何かいい匂いする」
エリスが持つ紙袋と、服を運び入れたマークが部屋に入ると匂いが変わった為、アナが匂いを確認する。
「パンを買って頂いたので」
「まぁ………それでいい香りがしたのですね」
丁度夕食時という事もあり、マシュリーはお腹が鳴る。
「ま、まぁ………はしたないわ………ごめんなさい」
「召し上がりますか?姫様」
「…………良いのかしら?皆さんの分は?」
「ルカス様や私の分は別に買いましたし、兵士達も分け与えていますよ……今日は初日の旅ですから、召し上がったらお休み下さい……少しですがパン以外に摘める物もお持ちしたので、ご遠慮なく」
「ありがとうございます、マーク卿」
「それでは………………あ、忘れておりました、マシュリー様」
扉を開け部屋から出ようとしたマークは思い出した様に止まる。
「何でしょう?」
「もし、ルカス様が来ても入室許可はしないで下さいね」
「……………?」
「マシュリー様はルカス様が妻にしたがってますが、婚約もまだしておりませんし、ご自分の身をお守り下さいね………ルカス様は女性にオモテになりますので、その辺りは来るもの拒まず手当たり次第、女性を抱いてこられた鬼畜なので、マシュリー様にはまだその毒牙の餌食になってほしくありませんから」
マシュリーは、男女の恋愛に疎いと、マークも気が付いている。なので、精一杯の防御はして欲しいという話だ。未婚で通したい、と我を通したマシュリーに、閨のアレコレは初心者なのは想像出来た。マークの知っているルカスは閨の経験豊富でいわば上級者と言える。
「あ、あの…………それは……ルカス様には他にも女性が居る………と?」
「………ん~、今は居ない筈です………一夜限りの関係だけの女性は数知れずですし、長続きはさせなかった方なので………ですが、女性には執着する事が無かったルカス様がマシュリー様だけは執着なさるので、臣下の私としては、マシュリー様で落ち着いて欲しい、というか……ですから、結婚迄漕ぎ着ける迄、マシュリー様はマシュリー様の操をお守り下さい、ルカス様から………アナ、エリスも頼みましたよ?……失礼します」
部屋の扉が閉まる。するとアナは黄色い声を挙げた。
「一夜限りって!私に彼氏居なかったら味わってみた~い!」
「ちょっと!アナ!姫様の前よ!!控えなさい!」
「…………わ、わたくしは……そういう方に求愛されていいのかしら………わたくし……知識等無くてよ?」
あまりにも、衝撃的な事を告げられ、顔が真っ赤になり照れているマシュリー。遊び人だというルカスが、生真面目で純粋過ぎるマシュリーを何故口説くのか分からなかった。
4
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
鬼畜皇子と建国の魔女
Adria
恋愛
⚠️注意⚠️
近況ボードで読みたいと言ってもらえたので、再度公開します。文章も拙く、内容も色々とぶっ飛んでいるので寛大な心でお読みいただける方のみどうぞ🙇♀️
📖あらすじ📖
かつてこの国を初代皇帝と共に建国した魔女がいた。
だが、初代皇帝が身罷ったあと、皇族と魔女は仲違いをし、魔女は城を去る。今となっては建国神話として語り継がれる昔話。
だが、ある嵐の日、部屋のバルコニーにいた私に落雷があった。それが原因で前世の記憶を取り戻した私は、己がその魔女であったことを思い出す。
その私が新しく選ぶ人生とは――
性描写のある回には、「※」を付けています。
《閲覧注意》
※暴力、凌辱など、倫理から外れた表現が多々あります。苦手な方は、ご注意下さい※
表紙絵/史生様(@fumio3661)
孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?
季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……
断罪された悪役令嬢は頑張るよりも逃げ出したい
束原ミヤコ
恋愛
4月1日、無事に書籍が発売となりました!
発売お礼と致しまして、小話を追加しました。少しでも楽しんで頂ければ幸いです!
有難い事に、こちらの作品書籍化企画進行中のため、3月4日に引きさげとなりました。
書籍化にともない改稿をかなりしておりまして、既読の方にも楽しんでいただける内容になっていると思います。
番外編も書きましたので、よろしくお願いしますー!
沢山読んで下さった皆様のおかげです!感謝しております!
今後とも、よろしくお願いいたします。
アリシア・カリスト公爵令嬢はレイス・コンフォール王太子殿下の婚約者だった。
嫉妬に駆られて王太子殿下と仲睦まじかった聖女であるユリア・ミシェルを害しようとした罪で断罪され、斬首された。
それが前回の私。
今回の私は、もうなんにもしたくない。嫉妬とか馬鹿らしいし、ユリアは嫌いだし、レイス様も大嫌い。
できれば王立学園にも行きたくない。海は日焼けしちゃうから、できれば森が良い。森で静かに暮らしたい。
結局逃げられなかった公爵令嬢と、前回の記憶のある王太子殿下の話。
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる