16 / 126
移住決定
15
しおりを挟む「では、お預かりします」
「娘を頼みます」
翌日、マシュリーはいち早くモルディア皇国へ入る事になった。マシュリー付きの侍女2人を連れ、6日程の馬車旅だった。ジェルバ国の国境を越えると直ぐにモルディア皇国ではあるが、モルディア皇国の首都は国土の中心部にあり、途中の街を経由しながら移動するという。マシュリーはジェルバ国の馬車に乗り、それを警護する様に、ルカスとマークが騎乗で並走する。
移民を決めた民達は、モルディア皇国から何回かに分け、馬車が送られ移動する様に手配をするとルカスからジェルバ国王に伝わり、民達に通達をされた。中には、亡くなった家族の墓がある民は離れたくないが移住を決めた者や、離れられないという者もやはり居り、近くの街に住みたいと決めた者も居た。それはそれで検討する必要がある為、一旦はツェツェリア自治区へ移動をお願いしている。
モルディア皇国では、名前と居住地の登録という事をしており、これを登録する事により、民の税金徴収をし、医療費等の保険が受けられる様になったり、子供達に学問を受けれる事が出来るという。移民であろうと、元奴隷であろうと、登録さえしていれば、モルディア皇国の国民と同等な権利を受けられるという。
その説明もジェルバ国内に居る内に説明を頼み、ルカスとマークはマシュリーを連れジェルバ国を出たのだ。
「マシュリーを送ってきたら、またこちらにも度々伺います………コルセアの使者が来る予想は2週間後、私は姿を使者に見せる事は無いとは思いますが、完全に移住が終わる迄は、コルセアやアガルタには知られない様にしませんと、兵達は国民を安全に移動させられる可能性は落ちてしまいますから」
「我等も、悟られない様に細心の注意を払いましょう」
「出発するぞ!」
それを見送る民達は、期待反面、恐怖心反面という半信半疑のままマシュリーを見送る。
「また、王女様に会えるだろうか………」
「王女様を信じよう………」
「…………皆さん……」
馬車内に、民の不安そうな声が聞こえる。マシュリーも本心は半信半疑だからだ。馬車の窓から顔を出し、精一杯の笑顔を見せる事しか出来なかった。
「モルディア皇国で待ってますね」
「王女様~!!」
「マシュリー様~!!」
国境の大門を出る迄、その声が飛ぶ。門が閉まっても、声は暫く続いた。
「………姫様……」
「…………ありがとう………泣いては駄目ね……」
ハンカチを侍女から渡され、涙を拭う。宝石になる前に拭えば宝石にはならない為、目頭を押さえるマシュリー。今迄も人前で泣くのを我慢していたマシュリーは、侍女達の前でも極力見せない様にしていた。それがルカスと出会ってから、その我慢が限界を超えている。それを侍女達は見ていた。
「もし、姫様がモルディア皇国皇太子殿下との婚姻が意にそまぬ事であれば、陛下にお話なさいませ」
「アナ!それは、姫様が決める事よ!」
「でも、辛そうな姫様は見たくないもの!」
「…………アナ………エリス……わたくしは大丈夫よ……婚姻はまだ決まった訳ではないのよ?…………それに、わたくし………ルカス様を嫌ってはいないわ」
「…………そうなのですね、良かった……」
「良かった?何故そう思うの?アナ」
侍女のアナがホッとした様に、肩を落とす。
「だって、姫様………未婚を通すと仰っていたので………私、姫様の幸せを願っておりますから」
「結婚が幸せと誰が言ったの?アナ…………私は姫様が結婚せずとも、幸せなら私は嬉しいわ」
「…………アナ、エリス………わたくしは民達の幸せを見れるなら幸せなの……それが近年感じられなくなってしまった事を嘆いているわ………それがわたくし一人では改善策が浮かばなかったのが悔しいの………そして、その手を差し伸べて頂けたルカス様やモルディア皇国のお気持ちが嬉しかった………まだ半信半疑ですけど………もし、その約束が、果たせなければ、わたくしはわたくしの命を断つわ………ツェツェリア族を好きな様にはさせない」
「姫様…………」
「…………お覚悟されておられたのですね……陛下や王妃様にはその事を………」
「…………えぇ、お話してあるわ……お父様は困ってらしたけど………覚悟があるならそうしろ、と………」
ルカスが知らない、マシュリーの本音。そうならない事を侍女達は願いつつ、信じて裏切られる事が分れば、2人も後から追う決意迄したのは、馬車の中だけの話だった。
8
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
乙女ゲームの愛されヒロインに転生したら、ノーマルエンド後はゲームになかった隣国の英雄と過ごす溺愛新婚生活
シェルビビ
恋愛
――そんな、私がヒロインのはずでしょう!こんな事ってありえない。
攻略キャラクターが悪役令嬢とハッピーエンドになった世界に転生してしまったラウラ。断罪回避のため、聖女の力も神獣も根こそぎ奪われてしまった。記憶を思い出すのが遅すぎて、もう何も出来ることがない。
前世は貧乏だったこら今世は侯爵令嬢として静かに暮らそうと諦めたが、ゲームでは有り得なかった魔族の侵略が始まってしまう。隣国と同盟を結ぶために、英雄アージェスの花嫁として嫁ぐことが強制決定してしまった。
英雄アージェスは平民上がりの伯爵で、性格は気性が荒く冷血だともっぱらの噂だった。
冷遇される日々を過ごすのかと思っていたら、待遇が思った以上によく肩透かしを食らう。持ち前の明るい前向きな性格とポジティブ思考で楽しく毎日を過ごすラウラ。
アージェスはラウラに惚れていて、大型わんこのように懐いている。
一方その頃、ヒロインに成り替わった悪役令嬢は……。
乙女ゲームが悪役令嬢に攻略後のヒロインは一体どうなってしまうのか。
ヒロインの立場を奪われたけれど幸せなラウラと少し執着が強いアージェスの物語
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる