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「『利用』…………か………取って付けた様な言葉だな………」

 部屋に入ると、堅苦しい盛装を脱ぎ捨て、浴室に入り、身体を洗うルカスは晩餐会でのマシュリーの姿を反芻していた。それだけでも昂る熱が篭もる程、夢中になりそうになっていた。外見も中身も理想そのものの女に巡り合った事がなかったルカスは、手に入れる為に頭をフル回転する事も惜しむつもりは無い。

「決断を待つ前に、一度モルディアに帰らねばな………婚約破棄に父上にも、アンナやアンナの父親にも説明しなければ………マシュリーが手に入らなくても、婚約破棄はしておいた方がいいな………」
『ルカス様、おいでですか?』
「………マークか?何だ」

 浴室の外でマークの声がする。

『ジェルバ国王には、計画書はお渡ししてきました』
「ご苦労、もう今日は何も残ってないだろ?」
『はい』
「じゃあ、お前も休め…………あと、起きる迄起こすなよ!」
『……………約束は致し兼ねます……おやすみなさいませ』
「………………なっ!」

 結局、翌朝もジェルバ国の侍女達に起こされたルカスは朝から機嫌が悪かった。だが、この日の朝、モルディア皇国から早馬が来て、何方にしても起こされてはいたルカス。

「…………寝みぃ………」
「相変わらず、寝起き最悪ルカス様」
「五月蝿い、黙れ、レナード」
「あ、俺報告に来たのに、それ言います?」
「…………アンナの事か?」

 顔を洗い、目を覚まさせたルカスは、マークからタオルを奪い、顔を拭いている。

「残念ですが、違います………コルセアに動きがあったのでその知らせと、陛下から帰国命令が出まして………ジェルバ国移住に関して、まだ結論が出ないなら一度帰ってこい、と」
「早くても明日帰るつもりだったが?………だが、直ぐにジェルバ国に来るつもりでもあった」
「そうだったんですね、それなら対処出来るでしょう」
「コルセアの対処か?」
「はい…………少なくとも2週間後ぐらい先に、ジェルバ国へコルセアから使者が行く様です…………いつもの【輸出】」
「ん?…………もう少し先じゃなかったか?いつも」
「それがですねぇ、アガルタへの【輸出】情報を何処かからコルセアは知った様で………コレを………」

 レナードと言われた男は、ルカスのもう一人の副官である。そのレナードが服から1枚の紙をルカスに渡した。

「…………これは!」

 ルカスの横でマークもその紙が何かを知っている表情。その表情でレナードも勘繰る。

「ご存知ですか」
「先日、ジェルバ国の外務大臣から見せてもらった………胸糞悪くてな」
「えぇ…………アガルタは、【輸出】の量と質によっては、コレを要求する様で、それを知ったコルセアも便乗しようとしているらしく、量や質次第では、この最高級と言われる金の瞳の女を差し出させるつもりの様です」
「…………マーク、直ぐに国王に知らせろ!もし、決断がまだ出ないならマシュリーだけでも連れて行く事を了承して欲しいとな」
「分かりました!直ぐに!」
「マシュリー?…………金の瞳の娘が本当に居るんですか?」
「……………あぁ……マシュリーをコルセアにもアガルタにも渡すつもりはない………」

 力説するルカスに、レナードはほくそ笑む。

「美人っすか?」
「………………俺のにするから口説くなよ、レナード」
「…………は!?………ちょっと!ルカス様!アンナ様の身辺調査させてたの、て弱み握るだけじゃないんですか!?婚約破棄する為ですか!?」
「アンナの身辺調査は、皇妃になる資質を見る為だったのは確かだ………男漁りもあったしな………だが…………マシュリーと出会って、その身辺調査はもはや、あら捜しだな……破棄する理由を探して、婚約解消する」
「マジっすか………見てぇ、その女………」
「……………ジェルバ国王の娘だ……いずれ見れる」

 ルカスは、父である皇帝の手紙を読み始め、返信を書く為に、机に向かう。その手紙をまたレナードに持たせ、報告するつもりであった。

 コンコン。

「…………レナード、対応してくれ」
「はい」

 書く手を休む事なく、レナードに指示を出すルカス。

「…………はい……」
「………あ、あの…………ルカス様は……おみえになられますでしょうか?」
「…………あ、はい………室内に……あ、私、ルカス様の副官をしております、レナードと申します………マシュリー様………でいらっしゃいますよ……ね?」
「は、はい…………ジェルバ国王女、マシュリーと申します」
「どうぞ………中でお待ち下さい……ルカス様は今取込み中ですが」
「………失礼しますわ」

 レナードはマシュリーを見て浮かれていた。そして、ルカスがマシュリーを妻に、と言った事もうなずける。
 マシュリーは、ルカスの邪魔をしない様、黙って立っていた。姿勢も崩さず、ただ待つ姿を、レナードも関心してしまい、レナード自身、ルカスもマシュリーも邪魔等出来ずにいた。

「レナード、誰だった?…………ジェルバ国王の侍従ではないだろうな……無下にはするなよ?………俺達は協力者だ…………レナード、何故黙ってる…………レナード?」
「……………」
「………うわっ!」

 レナードが返事をしないので、後ろを振り向いたルカスの後ろに、マシュリーがじっと立ち尽くし、その後ろでレナードがニタニタと笑っている。

「も、申し訳ありません………あまりにも集中していらっしゃったので、お声を掛けては、と……」
「マ、マシュリー………レナード!!せめてお前が何か言え!!」
「いやぁ、あまりにもマシュリー様がお綺麗で…………見とれちゃいまして………ははははははっ」
「も、申し訳ありません……」
「あ、いや………大丈夫だ………レナード、今直ぐ……あ、いやジェルバ国王の返事をマークが聞きに戻ってから、モルディアに戻って父上にこの手紙を渡してくれ」
「了解しました…………俺、部屋から出て待ってますね」

 お邪魔でしょうから、という顔をするレナードに、後からまた揶揄われそうな予感がするルカスだったが、マシュリーの方が大事なので、気を取り直すルカス。

「す、すまない……朝から騒がしくして……」
「…………わ、わたくしこそ、朝からお邪魔して申し訳ありません………ルカス様」

 マシュリーは、2人きりになった部屋で急に緊張し始めたのか、ルカスが前に来ると、目を反らしてしまった。
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