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均衡

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 翌朝、ルカスの休む部屋の扉がノックされ、その音でルカスは起きた。

「…………そうか……ジェルバ国に居たな……」

 裸で寝ていた身体を起こし、着の身着のまま服を着て、ベッドから起きたルカス。自国、モルディア皇国であればルカスが起きる迄、誰にも邪魔をさせない様に伝えているからだ。

「すまない、今起きた………どうぞ」

 客として来ている以上、いくらなんでも昨日の誘拐事件の解決させた者を襲う事はしないだろう、と信用し、眠いまま扉の前に立った。

「失礼致します、ルカス殿下………朝の身支度のお手伝いをと思いまして伺いました………侍従のマーク卿への了承も得ております」
「……………マーク……だと?………あいつめ………」

 余計なお世話と言わんばかりのルカス。手伝いに来た侍女達は、不思議そうにルカスを見つめる。

「…………あ、あぁ、すまない頼む………」
「おはようございます、ルカス様」

 侍女に頼んだ直後、マークが部屋に入ってくる。その瞬間、ルカスはマークに睨むを事を続けた。その間、マークはルカスを見てみぬ振りを通す。
 侍女達を一旦下がらせたルカスにマークはいの一番で言って退けた。

「昨夜、侍女達からルカス様の起床時間を聞かれましてね…………今日、マシュリー様を娶りたいと仰る気なのでしょう?いつものように、昼迄寝て、寝起き最悪のルカス様をジェルバ国王と妃、マシュリー様に見せるつもりですか?それに、ルカス様には婚約者が居るのですから、マシュリー様に一目惚れはいいですが、あちらの令嬢の事を整理してからでないと、条件として話すのは止めて下さいよ?不誠実過ぎて、俺なら絶対にルカス様は嫌ですけどね!」
「……………アンナは政略的に決めた相手だ…しかも、彼女は地位と権力しか気に留めない………皇妃になりたがっているだけで、俺への愛情等ないだけの女だ………俺も、つい最近迄、干渉し合わない相手で楽だと思ったさ………だが駄目だ………マシュリーを見て、昨日一日彼女の言動のから、彼女を皇妃にしたいと思えた…………この期でなければ、マシュリーは手に入らない!!アンナとの婚約解消は、平行に行う!」
「………………うわぁ………不誠実ですね、ルカス様」
「仕方ないだろう………父上に話す前に、こっちの事は決めれる内に決めておきたい」

 数日は掛かる話し合いだと思っているルカス。ルカス側からの条件に応じるかも不透明なら、何度だって話し合いをしていくつもりではあった。ジェルバ国移住もルカスが長年計画してきていた事の一つ。奴隷制度が無いモルディア皇国に尽力を注いできたのは、ルカスの祖父であり、その自治区を作ろうとしているのが現皇帝のルカスの父だった。
 モルディア皇国はジェルバ国に隣接するコルセア国やアガルタ国との交易もあるが、親密ではなく、大国のモルディア皇国に攻め入る隙を狙っていた。その要塞を建てる為に、ジェルバ国の土地が必要と見ていた歴代の皇帝は、侵略ではなく共存を求めようと、長年続いた奴隷制度を廃止し、人種差別を無くす為、移民多民種族を受け入れてきた国だった。
 ジェルバ国からの宝石輸出も、コルセア国やアガルタ国に合わせて受け取ってはいるが均等にはしていない。モルディア皇国自体裕福である為、必ずしも必要とまででは無かった。だが、金になるジェルバ国の宝石の収入は、武器や防衛の為の装備品に当てられ、コルセア国やアガルタ国への牽制費に充てがわれ、3国の中では抜きん出る程の大国になっている。
 その為に、まだジェルバ国の種族であるツェツェリア族の力が必要で、ルカスがその準備が出来た事もあり、来国したのだ。しかし、ルカスにとって誤算になった。それはジェルバ国王女、マシュリーの存在。一目見て心を奪われたルカス。モルディア皇国に婚約者が居て、ツェツェリア族の移住が完了したら、結婚する予定ではあった、打算的で政略的な結婚。モルディア皇国の貴族の令嬢で、ジェルバ国移住の推進派の貴族家系の出自の令嬢。もし、ルカスがその令嬢との婚姻を破棄するのであれば、推進派だった令嬢の父親が、反対派に回る可能性もあった。政治的影響度の高い家系である為、ルカス自身頭を悩ませるのは言うまでもない。

「お互いに、利害関係で政略的に決めた結婚が仇にならないようにしないとな………」
「ルカス様が、マシュリー様を諦めれば良いだけではないですか」
「……………無理……元々、アンナに愛情も感じない………好かれてもいないしな」
「…………あぁ……確かに………」
「アンナに好きな男出来ねぇかな?」
「…………また難しい事吐かしましたね………あのアンナレーナ様に限ってはないでしょう………知ってます?噂」
「噂?………アンナの男漁りの事か?」
「あ、ご存知でしたか………えぇ、もし婚約破棄するのであれば、その噂を調べれば良いかと」
「それについては、こっちに来る前にレナードに調べさせてる………噂の出処をな………本当か嘘か、証拠も揃えろ、と」
「いつの間に………」
「ジェルバ国の方が快諾したら話を急ピッチに進めるつもりだったから、を徹底的に調べとく必要があると思ってたんで、レナードにそっちを任せた」
「アンナレーナ様はホコリや塵、膿ですか………仮にもご自分の婚約者を………」
「言ったろ?俺はアンナには愛情等無いと………俺に対して信頼も無い、愛情も無い人間には、冷酷非道でないとな………父君はいい人物なんだがな………残念極まりない」

 運ばれていた朝食をバクバクと食べ進め、マークとそんな話をしていた頃、着々と城にはジェルバ国の臣下達が集まりつつあった。
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