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戦う皇太子

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「駄目だ」
「ここ迄来たのに!」
「安全な所で見ていなさい!見届けるのは何も現場に居なければならないという定義は無い!」

 マシュリーは、ルカスが思っていた以上に頑固の様で、決して意見を曲げようとはしなかった。

「…………分かりました……」
「………え!?………何も泣く事は…………」

 マシュリーは大粒の涙を流すと、その涙を拭き取る事もせず、頬を伝わせた後、手の平に乗せた。

「…………コレを………交渉に応じなければ、山賊の頭に渡して下さい………民達の宝石より、数十倍の価値のある物です」
「………やはり、ツェツェリア族が欲しがられる理由はか………まさかこの目で見れるとはな………」
「早く助けに行って下さい!」

 マシュリーは涙を止め、ルカスの背を押す。一緒に行きたかっただろう。それを堪えた涙から出来た宝石は虹色に輝き、マシュリーの様な美しさがあった。

「この件が終わったら、君に話がある」
「…………え?話?」

 ルカスに聞き返そうとしたマシュリーだったが、ルカスの走る速度が早く、気が付くとマシュリーから離れて行ってしまった。

「マーク…………中の状況は?」
「酷いですよ、捕まっている女達は美人ばかり………さっきから取っ替え引っ替え男に回され………女達から出る涙は、宝石に代わり、頭の方へ集められてます」
「…………愛しの彼女から、『早く助けに行って』と言われたから、突っ込むぞ」
「は?何また吐かしてるんです!貴方は、婚約者が居るでしょ!!」
「んなもん、破棄だ破棄!!番いつがを見つけた!!」

 バキッ!!

「!!」

 扉をぶち破り押し入るルカス。その行動に慌てるマークや、兵士達。だが、待機をしていたのもあり、直ぐに対応していた。

「よぉ、誘拐犯」
「何だ、てめぇは」
「俺か?たまたま誘拐現場を目撃したんでね、助けに来た迄だ」
「一人でか?」

 頭からはルカス以外見えていない。しかし、直ぐに外にも仲間と連れて来たジェルバ国の民達を思い出した頭は、顔付きが変わる。アジト内に居た山賊達も、初めは馬鹿にし、高笑いしていたのだが、頭の表情から女達から離れ、武器を取り構えた。

「解放してくれたら、お前にやってもいいが?」

 ルカスは、最高級のマシュリーが作り出した宝石を頭に見せた。蝋燭で照らされたアジト内の灯りでも分かる程、頭の側にある宝石と違う数倍の輝きを放つ宝石。

「その宝石を作り出したヤツを寄越せ!!そうしたら解放してやる!」
「冗談だろ?その宝石より数十倍の価値のある俺の持つ宝石と釣り合うかよ」
「じゃ、じゃあ………ソレを寄越せ!!多勢に無勢だ、命惜しけりゃ直ぐに渡せ!!」
「人質が先」
「アホかお前………こんなチンケな宝石でも割といい値が付くんだよ!そしてこいつ等飼ってりゃ、永遠に稼げるんだ!手放すかよ!」
「……………あっそ、じゃあ決裂だな…………」

 ルカスは剣を構え、頭に向け剣を振るう。その斬撃は頭の身体目掛け、縦に切り裂いた。真っ二つに避ける頭の身体はそのまま倒れた。山賊達は一瞬の出来事過ぎて、通り過ぎた斬撃を目で追う事も無く、床に倒れた頭の骸を眺めるしか出来なかった。

「野郎!!」
「掛かれ!!」

 だが、山賊達より先に、ルカスの部下達の方が早く、次々と兵士達は山賊達を倒していく。生死は問わないその戦いはいとも容易く終わってしまう。ルカスは一太刀終わると、そのままマシュリーの元へ戻って行った。その姿を遠く離れた場所から見ていたマシュリーはルカスに聞いた。

「……………まだ戦いの最中では?」
「頭が倒れたら、後は脆い…………手を……」
「?」

 ルカスはマシュリーの手を取り、先程の宝石を返す。

「結局、使わず仕舞い………ツェツェリア族の宝を、易易と受取る性分ではないのでね」
「ルカス様、易易と受取る性分ですよね?」
「げっ!マーク」
「後処理を俺達に任せて退散ですか?」
「……………タイミング悪っ」
「ルカス様には簡単な討伐ですよね………はどの口が言いますか?」
「…………ぷっ………ふふふ………」

 マシュリーは思わず吹き、声を出して笑う。その笑顔に、ルカスは顔付きが変わる。手付きがマシュリーに対して抱き着きそうになるのを、マークはマシュリーの前に移動し阻止に掛かる。

「ルカス様、立場を考えて下さい」
「……………ちっ………邪魔しやがって」
「邪魔ではありません、ルカス様を守っているのです」

 恋人でもなく、想いを打ち明けてもいない相手にいきなり抱き着くという行為は、ルカスの立場を悪くしかねないのだ。

「マシュリー様!」
「王女様!!助けに来て頂きありがとうございます!!」
「…………ご無事でしたか?皆さん……わたくしは何も出来ませんでしたわ………礼ならモルディア皇国のルカス様に」

 毛布に包まれた女達は意気消沈してはいるものの、攫われた人数全て無事保護が出来、ジェルバ国へ帰ってきたのは夜中になっていた。夜更けになっていた事もあり、それぞれの被害者達への聴取は翌日に回され、ルカスとマーク達もジェルバ城にて休む事を許された。

「マシュリー、無事で良かった」
「わたくしは、何も出来ませんでしたわ、お父様………本当に何も………出来ず………民達を守れず足手まといなだけで、申し訳ありませんでした」
「其方は剣を持たぬ………持たない成りにやるべき事がやれたのなら良い………今日はもう休みなさい」
「……………はい」

 そうして、慌ただしい一日が終わる。マシュリーにもルカスにも、この出来事が思い出深い一日になったのは言うまでもない。
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