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戦う皇太子

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「駄目だ!マシュリー、其方が行く事はない!」
「わたくしは、王族として民を守る義務がありますわ!」
「それはそうだが、何も其方が行く必要は無いのだ!」

 玉座の前で押し問答する国王と王女。臣下達もマシュリーを宥めようと近寄って行く。

「マシュリー様、危険でございますぞ!ジェルバ国から兵士も同行致しますゆえ、マシュリー様は城でお待ち下さい」
「ジェルバ国の兵士に守って貰いますから!何も戦う為に行くのではありません!!交渉が必要になったら、わたくしのが必要になるかもしれぬと思っての事です!」
「なら、をルカス殿に託しておけば良いではないか」
「…………それではを見せろ、と言われたら如何なさるのですか?民を盾にされ助けられなかったら、わたくしが必要になったりしませんか?」
「……………そ、それは……」
「ジェルバ国王………マシュリー王女は私達が必ず守るとお約束しましょう…………無事に必ず戻って来ますので」

 ルカスが再び玉座の方へ歩み出すと、マシュリーの傍らに跪いた。

「…………マシュリー王女、貴女は最終手段として同行をお願いするのです。山賊達の目には決して触れない事を約束して頂けますか?」
「…………約束致しますわ」
「国王、モルディア皇国の兵士からの目にも触れさせません………王女の美しさに目を奪われる兵士も少なくないでしょうし、士気に関わるので…………顔が隠れる物を被って下さいね、マシュリー王女」
「わ、分かりましたわ」

 ヴェールを被って、出発準備をするルカス達の元に来たマシュリー。しかし、その美しさはヴェールだけでは隠せなかった様だった。モルディア皇国の兵士の目線がマシュリーに向かう。

「馬車に乗ってもらおうと思ったが安心出来んな………マシュリー王女、私と一緒に騎乗で良いですか?山賊のアジト周辺に着いたら、テントを張り、ジェルバ国の兵士に護衛を頼みますから」
「…………わたくし、騎乗は初めてで………ご迷惑では……」

 ルカスが安心出来ないのは、マシュリーの美貌を晒したくなかった、ルカスの嫉妬なのだが、マシュリーには通じない。

「心狭っ!ルカス様」
「黙れ、マーク…………迷惑ではないですよ……乗せますね」
「は、はい………」
「鞍に掴まってて下さいね」
「は、はい………」

 ジェルバ国の馬車では、コルセア国に知られやすいのでは、と憶測し、モルディア皇国の部隊そのままでコルセア国に入る事になったルカス達。 壁を越え、山賊が侵入して来た穴から手掛かりを探す。

「馬の蹄痕がありますね…………ここから北西……距離が遠くなければいいですが」
「そうだな………日数が掛かる様なら、王女を連れて行けない」
「わたくしは大丈夫ですわ」

 ルカスの腕の中で、意志の固そうな言葉を言うが、身体は震えているマシュリー。国外に出た事も騎乗も初めてで、緊張していない方が無理なのだ。

「意気込みがあっても、数日掛かっては王女が疲れてしまう事を心配してるのですよ、私達はお預かりしているのですから、父上様に心配掛けさせる訳にはいきません」
「……………すいません、我儘を言って……」

 シュン、とするマシュリーを見つめ、緊張感等全く無いルカスはふにゃふにゃと破顔する。マークはそれを見て呆れ顔だ。

「ルカス様…………貴方立場分かってます?本当に如何するつもりなんだか………」
「………それは今言うな」
「…………はいはい」
「一足先に、2、3人走らせろ………アジトがあれば早く片付ける」
「はっ!」

 思っていたより、その足跡が切れた場所は近く、馬で1時間程走らせた場所に山賊のアジトがあった。山賊達に連れて来られたジェルバ国の民が外に縛れて蹲っている。偵察していた兵士の情報は、アジト内に5人女が陵辱され泣き叫んでおり、殴られ気絶している少女も見つけたという。山賊の頭の側には数多く宝石が集められ、頭はそれを眺め酒に入り浸っていたらしい。

「…………やはり、山賊に知られてしまっていたのですね……ツェツェリア族の力を………」

 マシュリーは肩を落とし泣きそうになっていた。

「マーク、外に居る奴らを殲滅しろ………声を出す暇等与えるなよ…………マシュリー王女は見ないように、顔を伏せていなさい…………いい光景ではないからな」
「はっ!」
「……………見たくありませんわ………」

 静かな森の中で、潜むモルディア皇国の兵士達は、アジト外に居る見張りの山賊達の喉元に次々と剣を突き刺す。呻き声さえも出させず倒れて行く山賊達だが、ジェルバ国の民達は違う。人が目の前で倒れていく様を見ているのは恐怖でしかない。

「し~、助けに来ました…………ジェルバ国王女、マシュリー様もあちらにお待ちです、静かにあっちに逃げて!」

 ジェルバ国の民達が、ルカスと騎乗するマシュリーの姿を見つけると、慌てふためきながらヨタヨタと立ち上がりマシュリーの方へ走った。

「王女様!」
「マシュリー様!」
「ありがとうございます!!」
「礼は、無事帰国してからだ!馬車に乗ってくれ!」

 ルカスは、民達に指示を出し、馬車に押し込ませた。

「問題は中に居る民と頭だな」
「………やはり、あの外に居た者達の様に命を取るのですか?」
「必要とあらば取るしかないでしょう………ああいう輩は、一度味を占めたらまた来ますからね………冥土の土産に、奪った宝石はそのまま渡してしまい、民を救うつもりではありますよ………ツェツェリア族の宝石は、安くない」
「……………はい」

 ルカスは、馬から下り、マシュリーも下ろす。

「アジトに入るので、貴女は馬車の中に……居心地いい物ではないかもしれませんが」
「わたくしに………見届けさせて頂けませんか?目を逸らしたくないんです」

 マシュリーは、じっとルカスの目を見つめる。意志の強い目だった。ただ守られるだけの王女ではない、と感じたルカスではあったが…………。
 
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