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戦う皇太子
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しおりを挟む玉座にはジェルバ国王と女王が待っていた。マシュリーの両親である。ルカスとルカスの後ろに控えめに立つマークは、挨拶を済まし、要件を先に伝えた。
「ジェルバ国にとって悪い話ではない提案をお持ち致しました………ご検討をお願いしたいのですが、お話させて頂いても宜しいですか?」
「『悪い話ではない』?…………モルディア皇国含め、コルセア国、アガルタ国は、我がジェルバ国への侵攻を長年と続け、未だにその領土を返す事なく、侵攻する代わりの対価により、ジェルバ国の宝石を欲して来た………対価もどれだけ上げて来ようが、我々はその代償を払ってきたのですぞ?これ以上、悪くなる事があってもその代償が無くなる訳では無い筈…………更に要求するのであろう?モルディア皇国は……」
「……………何百年と続いたソレを白紙にしに来た、と申しても?」
「………………白紙に………だと?」
ジェルバ国の臣下達も集まっている部屋で、ざわめきが起きる。
「白紙にして、ジェルバ国を滅ぼす気ではあるまいな!!」
「コルセアやアガルタからの代償も白紙にしてくれる訳でもあるまいし!!」
「我等は、宝石で我々の命を買っているのだぞ!!」
信じられる訳はなかった。それだけジェルバ国は他国から侵略され、ツェツェリア族の力を対価として、その地に住んでいるのだから。
「えぇ、白紙です…………その代わりと言っては何ですが幾つか条件があります」
「ほらみろ!!陛下!条件が何であろうと、我々の暮らしが良くなる条件等ありはしませんぞ!!」
罵倒が飛び交う部屋で、ジェルバ国王は臣下を遮る。
「罵倒ばかりでは話は進まん………聞くだけ聞き、検討するぐらいの配慮は見せようではないか………ルカス殿、申し訳ないが今時期が悪い………昨日今日と、誘拐事件が我が国に起きている。解決策を見つけねば、モルディア皇国への対価さえも払え兼ねる状況なのだ……手短で話してくれぬか?」
「……………先程、マシュリー王女から話は伺ってます。何なら先にそっちを解決する手伝いを買って出ましょう。それならこちらの条件をゆっくり考えて頂けると思いますが?ツェツェリア族であるジェルバ国の兵士と言えど、捕まる訳にはいかない筈……私達がコルセア国に入り、誘拐された民を救い出しましょう………信頼を得ねば、モルディア側からの提案に賛同等貰えませんからね」
「ルカス様!!それはジェルバ国の問題ですよね!!貴方が出る事はお門違い!!」
尽かさず、マークから注意をされるルカス。
「口出しするな、て言ったろ?マーク」
「…………コルセア国から干渉されるのでは……」
「ジェルバ国が関与していない、と思わせれば良いのですよ」
「ルカス様!!」
「黙れ!マーク!」
「…………如何なっても知りませんよ?俺は………」
「山賊に俺達が襲われた、と言っておけばいい…………返り討ちにしたら、ジェルバの民も救い出した、で終わる」
「……………上手く行きますかね……モルディアからの兵も少ないんですよ?」
「大丈夫だろ、俺とお前が居れば」
ジェルバ国王は考えている。ルカスの申し出は有難かったからだ。
「ルカス殿………」
「はい」
「其方…………いや、モルディア皇国からの条件を伺いたい………民を守れるならルカス殿からのその方法は有り難い………ツェツェリア族を知っている其方の申し出、聞こうではないか」
「…………条件は2つ。一つはジェルバ国を国として亡くし、民と共にモルディア皇国へ移住する事。それにより、モルディア国内でツェツェリア族の民を守ります。その為に、首都郊外にはなりますが、自治区を設け、ツェツェリア族の知事を王にお任せし、モルディア皇国の民と同等の権利と生活を約束しましょう。コルセアやアガルタからの侵略もこれにより無くなり、モルディア国民へツェツェリア族の宝石加工技術を学ぶ機会を与えたいのです。」
「国を亡くす…………」
「はい…………国とは民があってこそ国、場所ではない筈です」
「……………そ、そんな事言って奴隷にでもするのではないのか!?」
臣下達は疑心暗鬼だ。ジェルバ国民にとって国外に出る事は無い為、モルディア皇国の事等全く分からないからだ。
「モルディア皇国は奴隷制度等はありませんよ………廃止になって久しい………だが、人種差別は未だあり、自治区を設けるあたり、この国の様に壁は必要になるかもしれません………しかしその壁を、直ぐに解決する事を思い付きました。それが条件その2です………その2つ目は、山賊達から民を解放してからお話しましょう」
「その条件………考えさせてもらおう……」
「では、今から準備し、コルセアに入ります…………山賊達の生死は如何しますか?ジェルバ国関与が明るみに、出てはマズイと思われるので、私達にお任せ頂いても宜しいですか?」
「…………数人の兵士を連れて行ってくれまいか………モルディア皇国の兵士の姿に武装し………ジェルバ国にも数人拘束しているから生死は問わぬ」
「分かりました…………マーク行くぞ」
「はいはい……」
退室しようとルカスはマークを連れて歩きだそうと一歩二歩と動く。
「お待ち下さい!!わたくしも連れて行って下さいませ!!」
「!!」
「マシュリー!!何を言うのだ!!」
「お願いでございます!お父様、許可を下さいませ!」
「…………意外な方が出て来ましたね……」
玉座の前に跪くマシュリーの姿に、マークは小声でルカスに声を掛けた。ルカスは目を輝かし、面白そうに見ている。
「うわっ………ルカス様、止めて下さいよ?連れて行くなんて言わないで下さいね」
「何で?俺は彼女をもっと知りたいんだ、これをチャンスと捉えて何が悪い」
「…………あぁあ………」
マークは頭を抱えるのだった。
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