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出会う
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しおりを挟むルカスは会話を止め、マークに扉を開けに行かせた。
「ありがとうございます」
マークが扉を開け礼を言うと、入り口には侍女を引き連れ貴族の令嬢がにこやかに挨拶をする。
「マシュリーと申します………中で準備させますので入室しても宜しいですか?」
「…………あ、はい………どうぞ」
「………失礼致します………さぁ、準備を」
マシュリーはティーセットや茶菓子が乗るワゴンを押す侍女や配膳の為の侍女を先に入室させ、自分は控えめに後から付いて、ルカスの前に現れた。明らかに侍女達や民衆の黄色い声を挙げる女達とは違うオーラのマシュリーに、ルカスは凝視してしまう。
「モルディア皇国、皇太子殿下にご挨拶申し上げます…………わたくしはジェルバ国王女、マシュリーと申します」
「…………ルカスと申します………以後お見知りおきを………」
ルカスは、一瞬見惚れてしまい、言葉を詰まらせながら、ソファから立ち上がり、一礼する。
「本来なら、父も直ぐお会いする予定ではあったのですが、先程事件が起きてしまい、その処理に時間を要しそうなのです…………わたくしで失礼かとは思いましたが、退屈凌ぎになれば、とご挨拶も兼ねて伺いました………ご無礼をお許し下さい」
「いえ………貴女の様な美しい方と話を出来る機会を得られ、私は幸せ者です」
「……………わ、わたくしは………そんなつもりで伺った訳では………」
マシュリーは扇を口元に宛て、表情を隠す。あまりにもルカスが見つめてくるので、目を反らし俯いた。その間に侍女達がお茶の準備を終える。
「姫様、整いましたわ」
「あ…………どうぞ……お口に合えば良いですが」
マークはルカスの隣に座らず、椅子を別に持ってその椅子に座る。身分の違いを憚っての事だろうと見て取れた。
「申し訳ありませんでしたわ、気を使わせてしまったようですわね」
「…………コイツの事は気に為さらずに。私の副官をしているマークです」
「はい、お気を使う必要もありません、マシュリー殿下」
「所で…………北側が騒がしかったですが、何かあったのか教えて頂いても?無理にとは言いませんが」
ルカスは如何しても気になったのか、早々に話を切り出した。
その話に、遠慮がちにマシュリーは答える。客人である2人に言っていい事ではないからだ。
「…………普段は穏やかな国なのですが、昨夕から少女が行方不明になり、捜索を朝からしておりました………我が国は国民1人居なくなるだけで大惨事になりえますから………」
「少女が行方不明になっただけで?」
「はい…………国内では見つからず、恐らく壁の外に出て行ったと思われ、気が付けばコルセア国側から山賊が押し寄せて、また何十人か連れ去られた、と報告があったのです……」
「…………山賊………」
「ジェルバ国の国民は、国外に出れません………出てしまえば、奴隷になってしまい帰って来る事なく、一生を終えてしまうでしょう…………探しに行った者達も帰って来た事もありません……」
「……………それは、ツェツェリア族だから?」
「……………はい……」
必死に涙を堪えているマシュリー。人前で泣く訳にはいかなかった。ルカスはすかさずハンカチをマシュリーに渡そうとするが、マシュリーは断ると、侍女からナフキンを渡され、目を覆う。そして何かを包む様に膝上にナフキンを置いた。
「ツェツェリア族の利用価値は、ジェルバ国民全員分かっております…………見つかれば最後………捕まったらそのまま利用され死を迎えるだけ………だから幼い子であろうと、国外へ出る夢は捨てる様に、と教育されています………こんな世の中になってはならぬと思うのに………」
「ツェツェリア族の性だな…………やはり、実行する冪だな………」
「ルカス様、本気ですか?………あの件……」
「本気だが?…………それはこのジェルバ国にとっても利害一致するとは思うがね………だが………もう一つ、願い事が出来た」
「…………やな予感しかしませんけど?」
「……………?」
ルカスとマークの話が見えないマシュリーは首を傾げていた。そして、ルカスはマシュリーに質問を投げ掛ける。
「マシュリー王女、貴女は今独身か?それか決まった相手は?」
「……………え?」
「ルカス様!!…………まさか貴方!!」
「聞いておきたいのだ、教えて欲しい」
「ルカス様!!何考えてるんですか!!駄目ですよ!!絶対に!!反対されるのがオチですし!!貴方には…………」
「黙れ!!マーク!!」
「……………ぐっ!」
ルカスは剣先をマークの喉元に向ける。
「これ以上言うな、マーク…………俺はマシュリー王女に質問している」
「……………」
ルカスの目が本気だった様で、マークは頷くしか出来ない。
「わたくし…………お相手等居りません………ツェツェリア族等、わたくしの代で終わりたい、とお父様にも懇願しているぐらいなので………未婚で生涯終える事を決めておりますわ」
「…………何故です?」
「………迫害も戦争も嫌なのです………だからといって、奴隷に成り下がるのも嫌………ひっそりとしか過ごせないこの土地に拘る事も嫌…………ツェツェリア族がこの世に生を受けた意味さえも分からぬままですが、それだけわたくし達は傷付いてきたのです……静かに過ごすぐらいの夢見て、一生を過ごしたいのです………」
「……………つまらんな、そんな夢……」
「ルカス様!!また一言余計な!」
再び、ナフキンで目を覆い、表情を隠すマシュリーに、ルカスは『つまらない夢』と吐かす。マシュリー本人にもそれは分かっている。人間として最低限の生き様の夢なのだと言う事は。
「…………分かってますから……つまらない夢なのは……わたくしも人並みに密かな夢はありました………ツェツェリア族の柵で諦めたのです………………も、申し訳………ありません………失礼致しますわ…………」
感極まり過ぎて、マシュリーは慌てて部屋を出て行ってしまった。
「あぁあ……傷付けた」
「正直に言った迄だ…………今からでも如何とでもなる………俺の考えが纏まるならな」
「嫌われなきゃいいですけどねぇ、ルカス様が」
「…………お前の予想等外させるさ」
残された侍女達も、マシュリーが心配の様でそわそわしている。ルカスやマークから見れば、マシュリーへの信頼度は高い様だった。そのマシュリーと入れ替わる様に、扉がノックされる。ジェルバ王との会見が出来る様になった、と呼びに来た侍従により、ルカスとマークは立ち上がった。
「さて、と………お前は口出すなよ」
「余計な事言わなきゃ言いませんよ、俺も」
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