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祝賀会の醜態再び
しおりを挟むアナスタシアの乱入で戴冠式も有耶無耶になってしまったが、祝賀会は会場も変わるので、気を取り直して祝賀会が始まった。
エリザベスは戴冠式とは違う装いにならねばならず、一旦用意された部屋で着替えて、会場に出る事になっている。
アナスタシアが居たのもあってか、エリザベスの周辺に騎士を増やし、移動する羽目になってしまう。
「なんか、護送されてる気分」
「護衛です!」
「そうよね………」
アナスタシアの起こした騒動は、ドーソンにも届いていて、あれから直ぐに隠れていた部屋が、エリザベスが着替えに寄った部屋だった。侍女達の行き来がある部屋だと知り、食べ物があるかと思い入った部屋にエリザベスが着替えに入る部屋だと知ったのは、ドレスや宝飾品が用意されていたからだ。
廊下から話声が聞こえるし、部屋にも数人の侍女が居て、直ぐに物陰に隠れたドーソンは、エリザベスの着替えもこっそり覗き見て、興奮していたのだろう。
「殿下、呼びに戻ります迄、暫くお待ち下さい」
準備も済み、廊下には騎士達が待ち構え、エリザベスは部屋に1人残されていた。廊下に騎士達が居る以上、侵入は不可能である。もう、既に侵入者が居たら話は別であるのだが。窓の外にも騎士達が警護していて、ドーソンも逃げる事も出来ない。
もし逃げるなら、エリザベスが出て行かなければ、ドーソンは部屋から出られない。しかし、ドーソンは欲には勝てない男だった。
「………ス………」
「………?」
「エリザベス……」
「んっ!」
エリザベスが座るソファの後ろから、声を出されない様に、ドーソンはエリザベスの首を締めた。口ではなく首にしたのは、思わずしてしまったかもしれない。
声が出せなくなったエリザベスをソファから引き釣り下ろし、ドーソンはエリザベスに覆い被さった。
「んんっ!」
「エリザベス……俺を夫にしろ……そうしたら、いい思いさせてやるから……」
鼻息荒く、エリザベスの首を締める手を強めてしまう程、興奮しているドーソンにエリザベスを気遣う余裕等は無い。徐々に近付くドーソンの顔にエリザベスが抵抗しない訳も無く、エリザベスの足がドーソンを思い切り蹴り上げられた。
「ゔあっ!」
「ゲホッゲホッ……ゴホッ………」
「……………★♭♧♢#✮!!」
たまたま蹴り上げた場所がドーソンの急所で、ドーソンはのたうち回る。
「……………エ、エリザベス!何する!」
「…………こっち………ゲホッ………の……ゴホッ……台詞………」
「殿下?如何され…………誰だ!」
「貴様はエディンバラ子爵!」
「俺は悪くない!エリザベスを俺の……ゔっ!」
のたうち回るドーソンだが、文句はしっかりある様で、エリザベスを掴もうと手を伸ばすが、物音に気が付いた騎士達が部屋に入って来た。そして、居ない筈の侵入者がドーソンで、爵位を落とされた犯罪者の息子等に敬意等あろう筈もなく、直ぐに取り押さえられた。
「もう………いい加減にしてよ!逆恨みもいいところだわ!お父様が例え、国王にならなかったとしても、悲観なんてしなかった筈よ!叔父様に国王の資質があれば、お父様は叔父様の補佐をした筈だわ!」
「嘘だ!………お前の父親は父上を馬鹿にし、蹴落とした、と父上から何度聞いたか!」
「そんな事は知らないし、例えあったとしても叔父様が努力しなかったからとは思わないの?」
エリザベスはやっと起き上がる事が出来、押え付けられたドーソンを見下ろしている。
妬みを重ね続けて、何が正しいのか何が正しくないのかを見る力が無くなっていたのか、エリザベスやドーソンには分からない。エディンバラ公爵は、証拠をどれだけ突き付けようと、未だに黙秘を貫き、二言目には『国王は私だ』と言っているという。
ドーソンはそれを洗脳されてきた様に信じ、アルフレッドが悪者、エディンバラ公爵家は正義と信じてきたが、流石に何処に言っても、何を話しても、エディンバラ公爵のして来た事が表沙汰になると、ドーソンも真実に向き合う気にもなっていた。だが、現実的に自分が苦労すると、現実逃避もしたくなり今迄の生活に戻れるなら、縋れる物には縋りたい、と思うだろう。それがドーソンから見たらエリザベスだった。
「ゔぅ…………父上……如何にかしてくれ……」
「…………貴方は子爵に落とされただけじゃない……貴方個人の財産は暫く生活出来るぐらい充分あった筈よ?」
「…………そんな物………母上とアナに全部使われたさ……」
「……………あぁ……それはお気の毒」
「母上とアナを捨てて俺だけでも、て思って懇願しに来たのに………」
「それで、私を殺そうとした訳?本当に貴方馬鹿ね」
「違う!エリザベスと既成事実作れば俺は夫になれるじゃないか!」
「は?」
「…………」
エリザベスも、ドーソンを取り押さえている騎士達もドーソンが何を言っているか分からない。エリザベスの首を締め付け、馬乗りになっていたじゃないか、と。首を締め付けている最中、キスをされそうになったのは、意識が遠退きそうだった勘違いではないのだろうか、と不思議そうにドーソンを見据える。
「エリザベス!俺はお前を殺そうとなんてしてない!お前を抱けば、夫でも側室にでもなれるだろ!………だから……」
「絶対に嫌!………既成事実が例え成就しても、無かった事にしてみせるわ!言ったわよね?私は貴方が嫌いだと!」
「…………くっ!……それは……好きになって貰う様に………」
「ならないわ………貴方のお父様は私のお母様とお兄様を殺したの……それでも、貴方やアナスタシア、貴方達のお母様は温情で今の措置をしたんじゃないの……ドーソンはまだやり直せるわ」
「……………無理だ……あんな母上とアナが居る……」
「……………離してあげて」
エリザベスは騎士達にドーソンを離す様に伝える。
「で、ですが…………」
「もし、私にもう一度近付くなら、容赦なくていいわ」
「…………分かりました」
「…………エリザベス?」
ドーソンは開放されると、そのまま床に座る。何があるか分からないので、大人しくしているのだろう。
「今、アナスタシアを城外に追い出したのを少しやり過ぎたかな、て思ってた………だから、最初で最後よ………私の資産を少し渡してあげる………その代わり、それを貴方が管理して、アナスタシアやお母様を改心させて、ひっそりと暮らしていくの………事業を起こし、地道にね………二度と私の前には現れないで………現れたら渡すお金を全額返して貰うから」
「…………わ、分かった……」
「用意するから、このまま待ってて………祝賀会に出なければならないし、侍女に頼んでおくから受け取ったら城から出てってよ?」
「殿下!恩恵を与え過ぎでは!」
「…………世間知らずのアナスタシアを1人で返したのよ?彼女が1人で帰れないと思うから……なるべく早く用意するわね」
「あ…………ありがとう!エリザベス!ありがとう!」
「お礼の言葉なんて要らないわ………私は貴方達にされて来た事も許してないの………手切れ金と思ってくれる?」
エリザベスはモナを呼び、経緯を説明するとモナは直ぐにドーソンに手切れ金を渡した。
言われた通り、ドーソンは城外に密かに出たが、アナスタシアは居ない。
「アナ!アナスタシア!何処に居る!」
城外周辺を探したが見当たらず、ドーソンは帰ろうとしたが、騎士達はドーソンに声を掛けた。
「あのお嬢さんなら、男達に連れて行かれたぞ」
「…………え?」
「近くの宿屋に連れ込まれたみたいだから、今頃囲まれてんじゃねぇか?」
「な、何故助けてくれなかった!」
「あの女に俺達は散々馬鹿にされたんだよ!誰もあのお嬢さんを助けたいなんて騎士なんて居ないね!」
「…………アナ……」
だが、ドーソンも助けに行くのを躊躇する。
それは、アナスタシアがこの日の為に高利貸しに金を借りて、幾ら使ったか分からないのだ。せっかくエリザベスから当面の金を貰ったのに、これさえも助けに行った先で奪われたら、助けられても高利貸しに奪われたら、余ったとしてもまたアナスタシアや母親に散財されて無くなるのを、ドーソンでも頭が働いたのだ。
―――これを元手に、新たな人生を歩むんだ!アナや母上にこれを見せたら、直ぐに情けない生活に戻る!絶対に嫌だ!
ドーソンはそのまま、家に帰る事無く、母親と妹を捨てるのだった。
子爵の地位にさせられて、生活は直ぐに困窮し、1日の食費の確保も大変だったのだ。アナスタシアや母親が買った宝飾品を直ぐに売り金にしては、直ぐに新しい物を買われての繰り返しだった日はもう来ない、と思えば、ドーソンは地に這いつくばって生きる事を選んだのだった。
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