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嫉妬と恨み
しおりを挟むエリザベスが鍛冶屋街へと馬車を降りた。
行方不明だった王女が初めて街中を視察するとあり、野次馬も多い。
「王女殿下!」
「おい!押すなよ!」
「見えないわ!もっと詰めてよ!」
パニックになりそうで、少し心配するエリザベス。
「イアン、警護の騎士は大丈夫なの?」
「はい、それについてはリントン将軍が念入りに……殿下には誰も近付かせぬ様に配慮させてます」
「…………押し合って怪我させない様にして貰わないと」
「はい………暴動もなりかねませんから」
「おい………王女殿下の髪……短いぞ………」
「な、何故……あの様な髪を……美しい銀髪だった筈だ……」
「切りたくて切ったの!髪型の自由があってもいいんじゃないかしら!罪人だって、卑下して生きなくてもいいのよ!犯罪は悪い事だけど、生きる権利は平等よ!」
「…………王女殿下……」
「なんと………」
「罪を犯した女達への配慮をされたのか……自ら髪を切って……」
人混みの中で、エリザベスが自ら体感して見せた事で、その髪型は直ぐに広まるだろう。行動力のある行為に民達の好感度は上がっていった様だった。
「長い髪を切るなら、それを鬘にさせて頂戴!髪色も髪型もしたいようにすればいいと私は思ってるから!」
「王女殿下!素敵な考えです!」
「私、髪を切るわ!」
「私も!」
女から特に歓声が挙がる。長い髪では洗うのも乾かすのも大変なのは、女達はよく知っているからだ。
「殿下、そろそろ視察をしませんと」
「………うん、そうね」
鍛冶屋街を取り仕切る親方は、エドワードの父親だ。だからこそ、エドワードの傍若無人の行為は、泣き寝入りになっていた所もあった。
「王女殿下、本日はこの様なむさ苦しい場に足をお運び頂き光栄でございます」
「こちらこそありがとう……忙しいでしょうに時間を割いて頂いて申し訳ないです」
「…………リズ………?嘘だ……違う……よな………」
「エドワード!お前は黙っとけ!……申し訳ございません、こやつはちょっとばかり、素行が悪い倅でして………」
「いえ、大丈夫です………彼が、私を見て思う所があるのでしょう……」
「ご寛大でいらっしゃる………して、本日は何故鍛冶屋街に視察に?」
エリザベスと親方は話をしていく中、イアンはエドワードを注視していた。親方の後ろでじっとエドワードはエリザベスを見ていたからだ。
「………何だ……アンタ………っ!て、てめぇ……」
「……………此処で暴れるなら、刑罰が更に積み重ねる事になるがいいのか?エドワード」
「くっ!」
エドワードからすれば、イアンとは因縁があった。
エリザベスを拉致した後、直ぐに捕まったエドワードは、イアンの手で鞭打ちをされたのだ。捕まえられ、イアンの鞭打ちはエドワードからすれば、恨みも湧く。
そして、そのイアンは自分が傍から離れない王女がエリザベスで、エドワードが知る修道女だったエリザベスだと疑心暗鬼になっているのだと疑っている。
何故エリザベスが鍛冶屋街の視察に来る事になったのは訳があったが、エドワードがこの視察に参加していたのは予想外だった。
「ほぉ………なるほど……突きに特化した剣とはまた面白い事を仰る」
「私が王位に就いている間、少なくとも戦いの無い国にはしたいのだけど、それでもいつ戦があるか分からない。鍛錬もしているけど、男性が持つ剣は大きくて重いから、長時間振れないの………細くて靭やかなな剣があれば、私も持ちやすいな、と……その分、防御が強い武装をしなければならないけど」
「…………いいでしょう………興味湧きますわ……エドワード!王女殿下の剣の試作を作れ!」
「…………分かった……」
「…………彼が作るの?」
「腕が良いんですわ………本当なら勘当したいぐらいの事した奴なんですがね……」
「煩ぇ!親父!………リズを俺の物にしてれば、捕まる事なかったんだよ!コイツに!」
エドワードはイアンに指を刺す。
「エドワード!貴族様に無礼だろ!」
「構いませんよ……彼が、手を出してはいけない女性に手を出したのです……対価は払って貰わないといけませんし、それに対して、彼は私を恨むのは彼の性格なら当然でしょう………次は無いがね」
「くっ!」
「あぁ、アンタが………コイツはリズに惚れてたからなぁ……今、リズは行方知れずで、倅は大人しくして、楽になりましたわ」
「リズは何処に居るんだ!」
「君に教える筋合いは無い」
「イアン、挑発しないでよ」
「っ!…………その声………リズ!」
「…………貴方の知るリズと似てるのかしら?私」
「…………」
「殿下に近付かないで貰おう………騎士達は、今君に注視している………分かるな?」
「…………くっ!」
エドワードは確信した様だった。好きだった女が王女殿下として現れたのだ、エドワードの目の色が変わる。
「殿下、彼に作ってもらいます?」
「…………そうね……試作品から」
再び、エリザベスは親方と話を始め、鍛冶屋内の見学もしている。エリザベスはエドワードの事等全く興味もなく、王女としての態度を崩さない。
それが、エドワードの癪に障ったのかもしれない。一気に殺気立ち、近くにあった剣を向ける。
「うわぁぁぁぁっ!」
「エドワード!」
「え?…………なっ!」
注視していた騎士達もエドワードがエリザベスに向かって行くのを止めに入ったが、イアンがエドワードを身体で抑え様とし、装備していた剣も抜く。
「ぐっ!…………エドワード……お前っ………は!」
「ぐわっ!」
「イアン!」
エリザベスの角度からはイアンが刺されたと見える。だが、倒れたのはエドワードの方で、手を押さえていた。
「腕がぁぁぁ!」
「っ………くっ……」
「イアン!」
イアンも負傷したのだろうか、腹を押さえて膝を着いた。
「イアン公子!………早く!止血を!」
「……………大事ない……脇腹を掠っただけだ………それより、抵抗してエドワードを斬りつけてしまった………彼も手当してくれ」
「殿下を狙った奴です!しかも2回も!罰を受けたのにまた殿下を狙う等!」
騎士達には、エドワードよりイアンの方が大事なんだろう。
「エドワードも怪我したわ、手当を」
「殿下!」
「…………いいのよ………拉致に引き続き、殺人未遂なんて、エドワード……貴方もしようのない事をしたわね」
手首が半分切られてしまっているエドワード。正当防衛でイアンから返り討ちされたのだ、言い逃れも出来ない上、商売道具でもある腕が使い物になるとはもう思えない。
「エドワード!なんて馬鹿な事をした!もうお前は勘当する!罪を償ってからも帰ってくるな!」
「お………や……じ………」
出血もエドワードの方が酷く、気を失いそうだった。
「イアン………大丈夫!?」
「殿下がご無事なら、私は平気です」
「何を馬鹿な事を言ってるの!生命を無駄にする所だったのよ!」
「………エドワードが持っていた剣の研ぎが甘かったのでしょう………出血量があるだけで、致命傷にはなってはいません」
「…………親方、ごめんなさい……今日はもう引き上げるわ」
「へい………それが宜しいかと……馬鹿な息子が本当に申し訳なく……」
「貴方の所為ではないので………エドワードの事は頼んだわ」
「はっ!」
騎士達を一部残し、エリザベスはイアンの止血が先に終わったのもあり、馬車に戻る事にする。
「イアン、馬車に乗りましょう」
「殿下の馬車が汚れますから、御者の方に乗ります」
「許さないわ!横になれないじゃないの!」
「しかし……」
鍛冶屋内で騒ぎがあったのを、見学していた民達も心配そうに見ていた。その騒動で警備に隙があったのだろう。思わぬ珍客がエリザベスに声を掛ける。
「王女様、これ食べて下さい………王女様の為にママとお菓子作ったの」
「……………え?」
「殿下………受け取ってはなりません……」
可愛らしい女の子が籠に焼き菓子を沢山詰めて持っていたのだ。女の子の背後には心配そうに見つめる母親らしき女。悪意等無さそうに見えたエリザベス。
「受け取るだけ受け取るわ………食べれるのはこの場では出来ないけど」
「…………それなら……」
「ありがとう……美味しそうね……後でお城に帰ったら食べるわね」
「今食べて下さい!美味しいの!」
「…………そ、それは無理なの……」
「如何して?」
民衆がエリザベスを見ている。小さな女の子が、王女に危害を与える筈もない、と思っているから、食べてあげればいいのに、と目を向けていた。
「………殿下………私が先に確認します……それなら……」
「……………わ、分かったわ……ごめんなさいね、私は誰かに味見してもらってからではないと、食べ物や飲み物を口にしないの………このお兄さんが食べて大丈夫だったら食べるわ」
「うん!」
その時、女の子の背後に立つ母親らしき女の顔色が変わるのをイアンは見逃さなかった。
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