21 / 37
予感は庭園の芝生で
しおりを挟むイアンが午後からエリザベスの部屋にやって来た。
「モナ、準備出来てますか?」
「はい」
「何の準備?」
「殿下、今日は外です」
「外?」
―――そういえば、暫くの時間、モナと数人居なかったけど
イアンは、モナに朝、頼んでいた事があった。それを外で行うつもりらしい。
「はい、殿下………行きましょう」
「?」
イアンが手を差し伸べるので、エリザベスも手をイアンの手に添えた。
「何処に行くの?着替えなくてもいいの?」
「必要ありません」
「……………っ!」
てっきり腕を組むかと思いきや、イアンはエリザベスと手を繋ぎ、指を絡める。
「今日の勉強は趣向を変えようかと思いまして………」
「趣向を変える?」
「はい」
―――人と手を繋げるのは経験あるけど………な、何だろう……恥ずかしい……
部屋からずっと手を繋ぎ歩いている間、見られていくのが恥ずかしくて、イアンの手を外そうとするが、その度に絡めた指がキュッ、と締められ外せない。
「如何されました?殿下」
「…………な、何で手を繋ぐのかしら?」
「触れてもいいのですよね?」
「そ、そう……ね……」
アルフレッドから異性に慣れなさい、と言われている手前、仕方ないと思いつつ、相手がイアンなら嫌だと思わないエリザベス。そう、思ったら鼓動が早まって行く気がした。
イアンの案内されるがままに、庭園に出て、木陰がある芝生に着く。そこにはシートが敷いてあり、数冊の本や菓子や飲み物が用意してあった。
「靴を脱いで乗って下さい」
「…………お茶会?」
「まぁ、そんな所です………日頃、殿下は頑張っておられるので、のんびりしながら普段話して来なかった話もしようか、と……教本もありますが、使うか使わないかは、夕方迄過ごしながら決めようと思っています………警護は離れた所に配備しているので、会話はご自由ですよ」
「…………久しぶり………庭でお茶会なんて………しかも芝生の上なんて初めてよ!」
貴族のお茶会でも、芝生の上に座って等、聞いた事も無かったのだ。
「寝転がっても良い様に、布を敷いているので、多少のお行儀悪さは大丈夫です」
「イアンは何故こんなお茶会の仕方を知ってるの?」
「平民で地面に布を敷いて、食事している人を見た事がありまして楽しそうだな、と………この上でゲームをしたり、昼寝をしている人も見ました……王都ではその様な場所はありませんが、大きな公園では見掛けますよ………殿下をそこ迄お連れするのは難しいので、城内で我慢して下さい」
「ううん!充分よ!嬉しいわ!」
エリザベスは満面の笑顔をイアンに見せる。イアンが見れなかった笑顔だ。見れなかったし見たかった笑顔。
「っ!………それは良かったです……喜んで頂き、モナに頼んだ甲斐がありました」
「ねぇ!乗っていい?」
「どうぞ、殿下」
「寝転がっちゃおっと!」
ゴロゴロと右や左に身体を転がして、侍女達はオロオロとしている。
「殿下!お行儀悪いですよ!」
「え?イアンがいいって言ったわよ?ねぇ、イアン」
「その代わり敷布から寝転がりながら出ないで下さいね、殿下」
「草が着いちゃうからやらないわよ、そこ迄………こんな事してたら勉強なんてしたくなくなっちゃうわよ?いいの?」
「…………場が保たなければ、勉強をしようと思っていたので、構いませんよ」
「ご褒美だわ、これ…………ん~ん!天気良いし最高!ありがとう、イアン」
「私も座らせてもらいたいのですが」
「イアンも寝転がれば?」
「え………」
「…………真面目だからそんな事しないか……」
エリザベスのテンションが、イアンの反応で下がってしまい、エリザベスは身体を起こす。
「したい事はあります………よ?」
「何?この場で、て事?」
「……………まぁ……はい……」
「何がしたいの?」
「………………です……」
イアンが、エリザベスから顔を背け、表情を見せない。
「何?聞こえないわ」
「……………膝枕………です……」
「膝枕?」
「…………私に家族が出来、子供が産まれたら、子供を遊ばせている間に、見守りながら妻の膝の上に頭を乗せさせてもらい、いつの間にかうたた寝をしてたりしてみたいな、と………」
「……………素敵な夢ね……いいなぁ……私もそんな事してみたい………旦那様になる人を膝枕して子供達見守るんでしょ?…………うわぁ……いいなぁ……」
「っ!」
夢心地のエリザベスの表情が輝いている。イアンが考えて用意して、エリザベスに喜んで欲しいと思っていたが、イアンがご褒美を貰った気分に浸れていた。
「………イアン!………私で良ければ予行練習しよ!」
「え!」
「ほら!私の膝使っていいから!」
「い、いえ……それは………立場的に……」
「私がいいって言ってるからいいの!………皆も見て見ない振りしてね!………ほら!イアン」
「…………いいんですね?殿下」
「うん」
「し、失礼………します……」
エリザベスはイアンの夢が叶ったのを知らない。
イアンがエリザベスの膝に頭を乗せ、エリザベスを見上げたが、直ぐに顔を背けてしまう。
「………で、殿下は、何かしたい事は無いんですか?」
「…………え?………したい事?………そうねぇ……」
「殿下は最近、恋愛小説を好んで読まれてる様ですが、恋愛小説の中で憧れてる事があったりしませんか?」
「…………」
―――え……恋人同士でやってみたい事……エスコートされたり………守って貰ったり………イアンとやってない?私………
膝枕でさえも恋人同士や家族内でする行為だ。よくよく考えたら、これもかなり恥ずかしい気もするのを今になってエリザベスは気が付く。
「殿下?」
「っ!」
「如何されました?」
「な、な、な、何でもないわ!」
イアンはエリザベスの膝上で顔を背けていたのに、エリザベスが答えないから仰向けになる。それがエリザベスに自分の気持ちを気付かされたとは、イアンには気付かない。
好意的には見ていたイアンに、昨夜の見合いといい、イアンに対して知らなかった事に気付いたのだ。恥ずかしくて今度はエリザベスがイアンから顔を背けた。
「顔が赤い様ですが、熱でも………」
「な、何でもないの!………膝枕もうお終い!」
「そうですね………ありがとうございます……足は痺れてませんか?殿下」
「だ、大丈夫よ………」
イアンは身体を起こし、エリザベスの横に座る。
「殿下」
「………な、何?」
「…………私が貴方に触れても嫌がらないのは、嫌われている訳では無いんですよね?」
「…………き、嫌いじゃないわ………」
「そうですか………それを聞いて安心しました」
「…………昨日の事だけど、私はイアンが傍に居てくれて助かっているの。教え方も分かりやすいし、話もしやすいし………真面目な所はたまにイラッて来るけど、そうじゃなければ次期宰相の候補には挙がらないわよね………私の治世になっても近くに居てくれる?」
「………殿下のお心のままに……」
「た、たまに、こうやって芝生の上でゴロゴロさせてね!」
「膝枕をまたして頂ければ」
「そ、それは…………か、考えておく……」
照れてしまって、イアンの顔が見れず、それから何をしていても、何を話しても目を逸し、顔を背けたエリザベス。
「…………何か私が殿下にご不快な事をしましたか?」
と、イアンに時折聞かれても上の空か、話を逸したり、否定したり、とイアンは女心が分からないまま、時間だけ過ぎて行った。
部屋に戻ろう、となりイアンはエリザベスに、夜にまた部屋に行く、と伝える。
「え?何故?夜は私の自由時間にしてくれてるじゃない」
「…………夜に勉強を入れる必要が出まして……その代わり午前中か午後、殿下のご様子でお休みを入れます」
「…………分かったわ」
「ありがとうございます」
エリザベスは何があるのか、予想もしなかった。
イアンはギリギリ迄言わなかったからだろう。
9
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話
神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。
つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。
歪んだ愛と実らぬ恋の衝突
ノクターンノベルズにもある
☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
坊っちゃまの計画的犯行
あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者?
※性的な描写が含まれます。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。
すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!?
「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」
(こんなの・・・初めてっ・・!)
ぐずぐずに溶かされる夜。
焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。
「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」
「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」
何度登りつめても終わらない。
終わるのは・・・私が気を失う時だった。
ーーーーーーーーーー
「・・・赤ちゃん・・?」
「堕ろすよな?」
「私は産みたい。」
「医者として許可はできない・・!」
食い違う想い。
「でも・・・」
※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。
※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それでは、お楽しみください。
【初回完結日2020.05.25】
【修正開始2023.05.08】
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる