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集団見合い?
しおりを挟むエリザベスが城に帰還し約1ヶ月。
何事も問題無く生活しているかと言えばそうではなかった。
勉強は全てイアンから教わり、外での剣術や馬術、弓術の稽古中、騎士達がエリザベスを警護した状態が異様な風景だった。
何故なら、毎日の様に用も無く登城してくる未婚の男達からエリザベスを守る為だった。
「殿下!僕とお茶をしませんか?」
「俺と観劇を見に行きませんか!?」
「散って下さい!剣術稽古の邪魔です!」
カンカン、とイアンの管理の元、代わる代わる剣術の稽古の最中だろうと、弓術や馬術の最中でも邪魔が入るからだ。
「…………はぁ………はぁ……」
「そこ迄!………殿下、血豆潰れていませんか?」
「…………あ……」
「救急箱を此処に!」
少しでも、エリザベスの様子が変わると、イアンは止める。
エリザベスの手から剣を奪うイアンに手のひらを開かされる。
「………染みますよ……」
「何でイアンは分かるの?」
「殿下を見ていますから………」
「った!」
「…………本日はここ迄にしましょう……部屋に戻る」
「はっ!殿下ご苦労様でした」
「稽古に付き合ってくれてありがとう」
人と戦える程の戦力は無いが、いいストレス発散方法にはなっていた。
エリザベスの剣を鞘にしまったイアンはエリザベスに渡す。
「殿下、腰にお納めを」
「…………うん……」
この光景ばかり見るので、内助の功の様なイアンに、1つの揶揄が追加された。
『王女殿下の金魚の糞』と、イアンは言われている。しかし、イアンは何もそれに対して感情を表さない。
「見ろよ、今日もまた金魚の糞だ」
「邪魔な男だな」
「…………」
「イアン……気になる?」
「いいえ………言われる事は想定内ですから………殿下とお近付きになりたいのに、なれない可哀想な男達は餌を欲しがる鯉の様に騒いでいるだけです」
「…………イアンの政治的立場が悪くなる様なら、騎士達に頼むわよ?」
「…………殿下のお身を守るのは私です」
稽古場からエリザベスの部屋に入るのに、謁見の間に向う。其処から先は限られた者しか、城の見取りは知らない。外からエリザベスの部屋は如何かは分かるかもしれないが、城内に入っても一度や二度で覚えられない。よって、謁見の間迄が貴族達の勝負だった。
「ご機嫌よう、イアン様」
「…………早く行きましょう、殿下」
「あら、冷たいではありません?イアン様」
「………ち、ちょっと!」
敵は男達だけではない。女もイアン目当てに来たりする。
「アナスタシア嬢、殿下に何をするんです!」
アナスタシア・エディンバラ公爵令嬢、エリザベスの従妹だ。エリザベスの1歳下の15歳だが、大人っぽく見える。
「あら、居たの?エリザベス」
「…………アナスタシア嬢、殿下への挨拶がそれですか?」
「あら、貴女王女だったの?………そんな汗臭い男みたいな格好して………イアン様、今夜街で評判の観劇のチケットありますの、一緒にまいりましょう?」
「行きませんよ、私は殿下の警護優先ですから」
「………こんな男の様な女の警護より、私の警護して頂けません?ちょっとした間違いで、こんな女が王女になりましたが、本当なら私の地位なんですよ?そろそろ返して貰わないと………ね?」
「…………腹立つ女ね……香油付け過ぎで臭いわ……ニオイも移ってしまいそうよ、私………本当に私の1つ下なのかしら、10歳はサバ読んでそう………あぁ、臭い臭い……」
「私は健康的な女性の香りが好きですから、香油や化粧で本来の姿を隠し過ぎる女性は苦手で………観劇はどうぞ、其方の独身男からお選び下さい……確か、観劇を殿下に誘っていた者も居ましたね、丁度良いではないですか………殿下、戻りましょう」
軽くあしらわれたアナスタシア。イアンに相手もされず従姉には馬鹿にされ、アナスタシアは持っていた扇子を力任せにへし折った。
「見てなさいよ………絶対に王女になってやるわ!」
謁見の間に入る迄は毎日こうなのだ。
「………苛々する!」
「殿下……」
「外に出て、苛々解消したいのに、いつもいつも………」
「…………殿下、少しこの環境を変えてみる気はありますでしょうか?」
「…………何?」
「それには、陛下の許可が必要になるかもしれません」
「………許可必要になる程なの?」
「恐らく」
エリザベスはイアンが考えている事は分からぬまま、アルフレッドに面会を求めようと、着替えた後、アルフレッドに連絡を入れた。
「如何かしたのか?リズ」
「私が用事がある訳ではなく、イアンがある様なのです」
「イアンが?」
アルフレッドとモルディアーニ公爵が顔を見合わす。
「はい」
「…………どういう話だ?」
「陛下に許可を頂きたい事がありまして」
「うむ」
なかなか本題に入らないイアンに、ただアルフレッドは待っている。
「イアン………本題に入りなさい」
「っ!」
「陛下はお忙しい」
「……………っ!……殿下に蝿の様に集る男達の牽制に…………殿下に……触れる………許可を……」
「…………は?」
エリザベスからすれば、思ってもいなかった事だ。
「…………それは、房事含め、という事か?」
「っ!そ、そこ迄は………殿下の……意思もありますし………」
アルフレッドの顔色は変わった。
「…………服を着た上からなら許そう」
「え!」
「ありが……」
「但し………だ……」
少し考えて了承した様に思えたアルフレッドだったが、エリザベスの様子を見ながらなのか、イアンの礼を遮ってくる。
「リズには、この男達と会い交流を深めてもらう………12名……リズの婚約者候補と言った所だ」
「なっ!………お父様!まだ私は結婚したいとは……」
「リズ………それはお父様は了承しない」
「………え……」
「敵対派閥、エディンバラ公爵筆頭の妨害があるのは知っているだろう?その為に、リズの婚約者を早く決めたいのだ………それには、リズにも男の免疫を付けて貰わなければならない………イアンには練習台になってもらおう………男達を招待した日は半月後………リズ、慣れなさい」
「……………え!」
「イアン、服の上から徐々に慣れさせてくれ………閨の作法は……まぁ、リズの進歩次第……だな」
イアンは許可が出ないと思っていたが、呆気なく降りた。
「許可、頂けるのですか?」
「…………許可しなくても良かったが、今のリズを見たら、見合いをしても意味は無さそうだしな」
「イアン、頑張りなさい」
「ち、ちょっと!私の意見は通らないのですか!」
エリザベスは、閨の作法も見合いも嫌なのだ。結婚はしなければならないだろうが、好きな相手と結婚したいと思っているエリザベスにとって、イアンから触られるのは遠慮したい。
イアンがエリザベスに好意を持ってはいないと、未だに思っているからだ。
「イアンも私に触れるのは嫌でしょう?」
「「……………」」
アルフレッドとモルディアーニ公爵は、イアンの気持ちを知っているので、イアンの返事を聞きたくて黙っていた。
「いいえ………殿下は何故そう思うのです?以前も申し上げましたが、殿下の婚約者候補の扱いも構いません、とお伝えしております。敬意と信頼で、殿下に触れさせて頂ける許可が陛下から頂いたので、私は嫌とは言いません。私が陛下と殿下にお願いした事ですし」
一言、『触れたい』や『慕っている』と言えば伝わりそうなのに、イアンの言葉は淡々と、抑揚等無い言葉を返すだけ。
「「……………はぁ…」」
エリザベスとイアンに目を背け、明後日の方向にアルフレッドとモルディアーニ公爵が小さくため息を吐いたのは言うまでもない。
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