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してもしなくても
しおりを挟むモルディアーニ公爵の養女ユリアについて語られる場に変わった城内。
「至極簡単な事。エリザベス殿下はモルディアーニ公爵含め、国王派閥の者達で匿っていたのです………帝国の王女は我々帝国の民にとって、皆の娘、帝国の象徴………モルディアーニ公爵家だけの娘ではありませんからね、お預かりしている間は養女として、娘の様にお世話はさせて頂いただけ………法律上、養女にはしておりません……養っていたからその意味での養女ですが、何か?」
誇示付けではあるが、意味は通る、とさも当然の顔をするモルディアーニ公爵。
「し、しかし………殿下は其方に居られるイアン公子の婚約者候補とも噂も………」
「そうした方が、何かと殿下をお守りしやすいですからね………これからも息子イアンは殿下の婚約者候補としてお傍に控えております………何故なら殿下に1番近い異性は我がモルディアーニ公爵家の息子達ですから」
「陛下!それは不公平ではないでしょうか!」
「我が息子もエリザベス殿下の伴侶になる資格はある筈!」
息子を2人以上持つ貴族達にはモルディアーニ公爵家の息子だけがエリザベスの傍に居るのを納得はしない。
城内が再びざわついて行く。
「陛下!何かお言葉を!」
「……………」
アルフレッドは考える振りをしている様に見えるモルディアーニ公爵だか、モルディアーニ公爵も何も言わず、騒ぐ声を聞いていた。
「ドーソン、アナスタシア」
「何です?父上」
「あら、何?」
「…………ドーソンはエリザベスを、アナスタシアはモルディアーニの息子を誘惑せい」
「…………へへへ……了解」
「………いい男……楽しみ」
騒ぎに便乗し、エディンバラ公爵は息子と娘に命令を降した。
「……………」
「……………」
それを見逃すアルフレッドやモルディアーニ公爵ではない。
そんなやり取りをしたエディンバラ公爵の後に、アルフレッドは騒ぎを沈める。
「静まれ!」
大声を発し、騒ぎは収ったが、あちこちで揉めたのか、服装が乱れた者も少なくない。
「不服もあるだろう……だが、私はエリザベスが認めた者しか、伴侶にさせる気もない………だが、その前に、私が何人かの者に白羽の矢を立てる事とする…………個人的にその者には連絡をしよう………連絡が無い者は諦めよ!後日その者を呼び出し、エリザベスと会話を交わす資格を与える」
「陛下!側室制度は!」
「…………エリザベスに側室を与える気は私には無い………話は以上だ……エリザベス」
「はい」
「父の元へ………」
「お父様!」
騒ぎの中、エリザベスは玉座に鎮座するアルフレッドに駆け寄った。ギュッ、と抱き締められ、5年間で身長が伸びたエリザベスの頭に、アルフレッドの肩が来ていた。
「やっと……抱き締めてやれた……」
「お父様………だだいま帰りました」
「お帰り……」
場を収めるのはリントン将軍に任せ、エリザベスはアルフレッドとイアン、モルディアーニ公爵とエリザベスが使う部屋に来ていた。
「この部屋を使いなさい」
「…………わぁ……」
「陛下、この部屋はかなり厳重な警護にした部屋にされましたね」
エリザベスの部屋に入るのに、城の謁見の間を通らねばならず、謁見の間に入るのにも、騎士の詰所が1か所、通ってからも3ヶ所は通らなければならず、特にエリザベスの部屋に通る為の最後の詰所から行き方は1つの通り道しか無い。しかも廊下は騎士の配備は等間隔になっていた。
「入り組んだこの部屋は、前王の父と母の部屋だった………カエアンの母、王妃の入室防止で対策された部屋でもある」
国王、アルフレッドより厳重な奥まった部屋で、かなり驚いていると、アルフレッドは続けた。
「イアンの部屋は最後の騎士団の詰所の隣、この階の端の部屋になる………リズの部屋に入れる者は、私とモルディアーニ公爵、イアン、厳選した限られた侍女のみだ……許可が無い者は入れぬ、リズへの面会は謁見の間か、その隣の応接室に限定する様に」
「陛下、息子イアンの部屋が近付きやしませんか?」
「…………先程、婚約者候補の話にはなったが、イアンはリズを男達もそうだが、エディンバラ公爵派閥から守って貰わねばならないからな………近いとは思ったが、リズの伴侶が決まらねばイアンを据えるつもりではあるから念頭に置いておいてくれ」
「畏まりました……イアンもその様に」
「……………はい……」
イアンの表情は暗い。自分の理性が持つではあるとは思うが、欲望に勝てるか如何かで、エリザベスを守れるのだろうか、と気鬱だった。
―――騎士達が居るのだ……抑制させてくれる筈……
「所で………リズは知っているのか?」
「何をです?」
エリザベスは部屋の中を物色中だ。アルフレッドやイアン、モルディアーニ公爵の話を聞いてはいない。
「…………閨に関する事だ……モルディアーニ公爵家では教えてあるのか?………16歳になったのだ、結婚も可能となる歳になるが、そうなる前に教える習慣があるだろう?其方で教えているのかどうか……」
「……………イアン……」
「私はお伝えしていませんし、教師も付けてはおりません」
「「……………」」
無表情で、イアンは答える。イアンにとって、都合の悪い質問だった。
アルフレッドとモルディアーニ公爵は顔を見合うと、イアンから離れた。
「…………出来れば教師を付けられた方が……」
「だが、リズの為には極秘にしたいのだが……」
「息子が教えられるか………こんな事を言うべきてはないのですが、息子は殿下に懸想している様でして…………」
「…………ほぉ……いいではないか」
「いい………ですか?………息子から殿下を守る必要も………」
「言ったではないか、イアンをリズの婚約者候補に考えていた、と………既成事実はいかんぞ?だが、リズに知識は入れねばならん」
「それは分かりますが………」
アルフレッドとモルディアーニ公爵が話しているので、イアンはエリザベスの方へ寄っていた。書物のある本棚で、イアンが薦める本の説明をエリザベスにしていた。
「ほ、本に閨の教本を混ぜては………」
「混ぜてはある」
「入ってはいるのですね……」
「読むか如何かは分からぬが」
「………流れに任せてみては?」
「エディンバラ公爵派閥を考えたら、ゆっくりは出来ぬ………先程、何か企んでいたであろう?」
「…………そうでした……」
「進展すれば良し、しなければまた考えねばならん………たが、2人の気持ちも重要……私は前王の様な軽率な行動をリズにさせたくはない………してもしなくてもいい、とは言えぬ」
「お父様、何ですか?コソコソと」
「「!」」
内緒話をしているアルフレッドとモルディアーニ公爵の傍にエリザベスとイアンが来る。
イアンの顔を見たら、何となく察している様で顔を背けていた。それは、モルディアーニ公爵が『息子が殿下に懸想』と言った時点迄聞いていたからだ。
―――一体、陛下と父上はなんて事を話して……『してもしなくても』等と………私に何をさせる気に……
「リ、リズ………」
「殿下、お部屋は気に入られましたか?」
「…………えぇ、気に入ったわ……あ、お父様」
「如何した?リズ」
「私に、こんな本要りません!何て物入れてるんですか?卑猥です!」
「!………こ、これは……だな………お、恐らく侍女達が間違えて入れておいたのだろう………」
エリザベスの手にあるのは、閨の教本数札。
「結婚も決まってないのに、こんな勉強はしたくありません!」
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