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罠に嵌まる
しおりを挟む「買い物に行ってきます」
「待ちなさい、リズ………お母さんも行くわ」
ある日、髪を染める染料がもう無くなり買いに街に出ようとエリザベスはモナに伝えた。
「私1人で大丈夫なのに」
「駄目よ………最近、エドワードが頻繁に貴女の回りに来るのだから」
「エドワード1人なら、私だって対処出来るわ……それに巡回する騎士様達も居るのだし」
騎士達は、リントン将軍が配置した者達。特に大聖堂周辺は、エリザベスも顔見知りで素性も知っているのだ。警護は任せていても大丈夫だと思っている。
「それでもよ」
「…………心配性ね……」
エリザベスがエドワードの脛を蹴ったあの日から、エドワードは1人でエリザベスに会いに来なくなった。常に何人か傍に置き、ニタニタと舐め回す目線をエリザベスに送る。街に出ればエドワードの顔が効いているのか、若い男達はエリザベスを見てはヒソヒソと話すのを見掛けていたのだ。
「いつもの染料下さい」
「…………リズ、お前さん何かエドワードにしたのかい?」
「何故?」
「何か、企んでそうでねぇ………ほら、エドワードはこの辺りでは裕福な男だろう?頭が上がらない奴達も多いじゃないか………ここだけの話……いい噂聞かないし……」
「気を付けるわ、ありがとう」
「そうしておくれ、リズ」
モナと染料を買いに来て、教えて貰った情報。
「…………リズ……お逃げなさい」
「………駄目よ……囲まれてるわ……」
店を出て、エドワードと数人の男達に囲まれてしまった。騎士は近くに居る筈だが、エドワードは身長が高い者ばかり集めたのだろう。騎士達から視界にエリザベスとモナが入らない。
「店に入りなさい!」
「っ!………モ……お母さん!」
「きゃ!」
「リズ!大丈夫かい!」
店主が出て行ったばかりのエリザベスがまた戻ったので、何事かと店の外を見る。
「お母さん!」
「リズ!出ちゃ駄目だ!」
「でも………」
『リズ!母親を助けたければ、俺の妻になる、と言え!』
「っ!エドワード………」
何と言う理不尽極まりない事を言う男だろう。モナを人質に取り、エリザベスの気持ちを左右しようとしているエドワードに虫唾が走るエリザベス。
「ちょっと!モナが危ないよ!」
「くっ………」
外を覗くと、エドワードの取り巻きがモナの首を締め持ち上げているのだ。
「卑怯よ!エドワード!」
『俺は何度もお前に求婚してきた筈だぜ?それをお前はYESと言わねぇ!何故だ!』
「貴方が嫌いだからよ!」
『…………なっ!』
隠したくもない、エリザベスの気持ちだ。断ってもエリザベスの気持ちはエドワードには言っては来なかったエリザベスだが、モナの生命も掛かっている。諦めて貰う為には正直に言うのを選んだ。
『殺しちまうぞ!お前の母親を!
『殺人は重罪だぞ、そこの男……その修道女を離せ!』
「あ………イアン様!」
騒ぎに気付き、騎士達がエドワード達を取り囲むのを見たエリザベス。形勢逆転だと思い、安堵したのも束の間。
「ゔわっ!」
店主の悲鳴が聞こえた途端、床に倒れ込む店主を見たエリザベスは、背後を振り向いた。
「きゃ~~っ!」
布をエリザベスは頭から被せられ、腹に衝撃が走る。意識が遠退いてしまい、エリザベスは連れ去られてしまった。
『ほらよ、この女はもう要らん………離してやる……じゃあな』
悲鳴がエリザベスの声だと気が付いたエドワードは、一目散に散り散りに取り巻きと共に逃げて行く。
「捕まえろ!首謀者はエドワードという男だ!」
イアンは、騎士達に命令を降し、店の中へと入って行く。
「リズ!リズは何処だ!」
「…………連れ去ら……れ……た……」
「何処にだ!」
「…………分から……な……」
店主も意識が朦朧とする中で、何とかイアンに伝え、気を失う。
「手当を………直ぐにエドワードの行きそうな場所を探せ!………殿下を無事に救い出せ!」
「………ゴホッ………ゴホッ………イアン……様……」
「モナ!大丈夫ですか!」
「私の事は………それよりリズ様は……殿下は………」
「捜索させました、貴女も手当を」
―――まさか裏口から入り拉致するとは……あの男は、殿下だとは知らない筈……それもそれで危険だ……
イアンはエドワードが行きそうな場所はいくつか目星を付けていた。
「モルディアーニ公子!」
「何だ!」
「捕まえた者に話が聞けました!鍛冶屋の裏にある倉庫が落ち合う場所だそうです!」
「でかした!……モナ、手当し動けるなら大聖堂にある殿下と貴女の荷をまとめておいて下さい」
「イアン様?」
「もう、この街は危険です……エドワードを捕まえて罰しても、殿下の素性がバレてしまうかもしれません………移動して頂きます」
「…………分かりました」
―――このイアン・モルディアーニ……何たる不覚!救い出したあかつきには、必ず処罰を頂かなければ………
責任感があるイアン。彼はアルフレッドの腹心の部下、モルディアーニ公爵の嫡男だったのだ。
「行くぞ!」
「はっ!」
鍛冶屋の倉庫に集結した騎士達。
すると、中から怒鳴り合う男女の声がする。
『何でよ!エドワード!私を妻にしてくれると言ったじゃない!』
『…………そんな事は言った覚えはねぇ………俺はリズを手に入れたいんでな』
『酷い!騙したのね!……リズが出入りする店を教えてあげたのは私じゃない!何故か、リズは髪を染めて私達を騙してるのよ!そんな女がそんなにいいの!?』
『お前みたいな阿婆擦れじゃないだけマシだ………修道女の割にお前阿婆擦れだからな……妻にするならいい女で未通じゃなきゃ育て甲斐がねぇ……妻にするなら未通に限る』
『何よ!エドワードに乙女をあげたじゃない!』
『随分前にな………それから何人も男変えたじゃねぇか………おい!そこの女食っちまいな』
どっちもどっちだ。その女はジョアンナだと声で分かる。イアンも何度か迫られた事もあったのだ。騎士達は相手にしなかった様だが、それはジョアンナの男漁りが噂になっていた事もあったからだ。
「………何人見張り居る?」
「20人程確認致しました」
「…………あの集団入れてか?」
あの集団とは、ジョアンナが複数人の男に囲まれて襲われている集団の事だ。
『エドワード!………止めさせ……嫌ぁ!』
『お前は楽しんでおけ、ジョアンナ………済んだら娼館に入れてやるよ……天職だな、お前には』
「………はい……入ってますね」
「楽勝だな………四方から入る……行くぞ」
「はっ!」
ジョアンナの悲鳴が合図となり、騎士達は突入するが、エリザベスも意識を取り戻す事が出来た。
「…………え……ジョアンナ………?」
「起きたか、リズ」
「エドワード!ジョアンナに何をしているの!」
「何を、てナニさ……こいつ等に報酬でジョアンナをやったのさ……お前も俺が頂いたら、従順になれば、こいつ等に下賜しねぇが、貞淑な妻にならなかったらお前もジョアンナみたいになるぞ?」
「……………エドワード………下賜と言うのは、身分高い者が下の者に、感謝と礼を込める物よ!貴方はそんなに偉い人間なの!?たかが街の富裕層じゃない!」
「っ!」
「……………くっ……」
バチン、とエドワードからエリザベスの頬を叩かれる。歯を食いしばってはいなかった為、エリザベスの口内は、自分の歯で切れてしまい唇の端から血が滴った。
「減らず口は黙らせてやるよ、リズ………今からそんな口出せねぇぐらいに啼かせてやる」
「………い、嫌っ!」
修道女の服は質素な布で出来ている。男の手では簡単に破られてしまう程、握られ引っ張られた。
「きゃ~~~っ!」
「………いい身体してやがる……まだ幼いが育ててやるよ、俺かな」
まだ15歳だ。エリザベスの身体は成熟はしきってはいない。それでも16歳で結婚出来るエヴァティーン帝国では気にはされてはいなかった。
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