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記憶消失

ロベルトの意地

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「卑怯な人ね……私は貴方と結婚する気は無いのよ?」
「結婚するさ………お前は俺のだ」

 その根拠が分からない。他にも女が居るだろうに、と思ってしまう。

「…………結婚はしないけど、屋敷に帰るわ。それでいいかしら?」
「何言ってやがる、結婚するんだよ。お前は俺とな」
「その根拠は?」
「この親父が俺の両親に頭上がらねぇからな!お前はその報酬さ」
「…………ローウェン、マキシマスからの手紙は何が書いてあるか、見てもらってもいいかしら」

 ローウェンは氷球を消して、ロゼッタが座っていたソファの上にあったマキシマスがの手紙を開く。そこには、アルベドがロベルトから賊襲われたのを助けられた事や、ロベルトの両親へ、アルベドの娘の婿に、と願い出た話。それは、ロゼッタもアルベドから聞いてはいたが、更に付け加えてロベルトが裏で手を回した証拠と共に証言が書いてあった。ロベルトは領地内では問題視されており、領主夫妻である両親は困り果てていた。賊との付き合いもさることながら、縁を切りたがっていたという。そして、ロベルトは両親から縁を切られたら行く場所が無くなるのもあり、賊を使い旅人を襲わせ、ロベルトが助けるという事を繰り返す、という悪行を重ねていた。表では英雄としての扱いをされたロベルト。だが領主にはなれない次男という立場の息子のロベルトは、何処かの領主や貴族の跡取りが居ない爵位の家を探した。そしてロベルトと歳も近く、跡継ぎが女が居る領地、ロゼッタが住む街を存在を知る。ロベルトはロゼッタに会いに街に入る。だがなかなか会える筈はない立場ではあるロゼッタは、領主の手伝いでよく街に出ていたという情報を手に入れ、ロゼッタの姿を確認した。ロベルトの一目惚れだった。手に入れようとしたロベルトは、アルベドを視察に招待する事を目論み、賊に襲わせ、ロベルトが助けた、という図式が出来上がる。
 アルベドに気に入られれば話はトントン拍子に進み、ロベルトの両親は厄介者が排除出来、おお喜び。あとはロベルトがロゼッタと結婚さえすればいい、という計画だった。しかし、ロゼッタには気に入られない。そして半年後婚約破棄の申し出に、ロベルトの両親は大反対しているという。破棄になればロベルトが領地に帰ってくる事になりえそうなのが嫌だ、という事だろう。
 ロベルト自身も自業自得とはいえ、実家にも帰れず、婿養子に入ろうとした家には、阻止されようとしているのだから、面白くない。だからといって、義理父になるかもしれないアルベドに剣を突き付け、ロゼッタを自分の物にしようとしているのだから、阿呆である。失敗したら、結婚どころかロゼッタの住む、この街にさえ住めないのだ。

「……………なっ!何故それを!」
「………知られたのだし、お父様を離してくれないかしら」
「ちっ!」

 ドンッ!

「うっ!」

 ロベルトは立場が無くなり、アルベドを突き放して屋敷から出て行こうとする。

「逃がすか!!」

 ローウェンが再び氷球を作り、ロベルトにぶつけようとする。

「ローウェン、止めて!屋敷が壊れるわ!」
「…………とっ……ロゼッタ様!あいつは放っといたら駄目ですって!」
「……いいの……それより医者を……」
「私は大丈夫だ………ロゼッタ……すまない……」

 ロゼッタがアルベドに駆け寄る。剣が少し脇腹に刺さっていた様で血が服に滲んでいた。しかし、立ち上がろうとしている。

「血が出てますから」
「失礼しますよ、領主様……」
「………い、いや……帰ってから診て貰うから…………っ!」

 ローウェンがアルベドをソファに運び、服を脱がそうとする。

「!!…………お、お父様……この痣……何ですか!?」
「あの男じゃねぇっすか?」
「…………くっ………」
「そうなのですか!?」
「…………転んだのだ………」
「転んで、鳩尾に痣なんか出来ねぇすよ、領主様」
「……………お父様…………」
「……………」
「医者ではないので、はっきり言えませんが、あの男危険過ぎますよ、領主様。あの筋肉質の身体で殴られると、相当痛かった筈だ。」

 鳩尾の痣や脇腹の傷を目の当たりにしてしまうと、父への心配が募る。ロゼッタはアルベドに縋るように泣く。

「大丈夫だ………ロベルトを追い出すつもりだ……今、ロベルトの両親に会いに行く予定も立てている……」
「駄目です!行っては!手紙で済ませて下さい!」
「手紙は何度も出している……だが、返事が無いのでな………会いに行かねばならん……」
「代理人立てた方がいいっすよ、領主様が行かない方がいい」
「………しかし、代理人を立てたところで、追い返されないか?と言われたら………」
「確かにそうですが、他に仲介出来る者を置いた方がいいと思いますよ」

 しかし、アルベドはロベルトの両親に、代理人も仲介者も立てず、会いに行ってしまった。領主の仕事の権利は全てロゼッタに任せる、と執事のイーサンに伝え、アルベドの遺言書等も残されていたのだが、それはロゼッタがマキシマスと出会うの物しかなかった。ロゼッタがアルベドと会ったこの日を思えば、アルベドは遺言書を書換えていたかもしれない。だが、もう確認する術はない。アルベドが馬車に乗ったまま行方不明になったのだ。数週間後、アルベドは海に浮いているのが発見されたのだった。
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