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過去

ファーストキス

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 マキシマスに好意を抱いてから1ヶ月程経った頃、まだロゼッタとマキシマスは清い付き合いだった。手は繋ぐ事はあったが、キスも出来ていない。マキシマスはしたいとは思ってはいるだろうが、ロゼッタのペースに合わせている様だった。

「どうだ?父上には言っているんだろう?ロベルトとの婚約破棄」
「言ってるわ………でも取り合わないの………険悪になってしまって、仕事の話ぐらいしか出来ないでいるわ」
「そうか………やはり、俺が出ようか?ロゼッタ」
「…………いいえ……私が説得しないと……まだロベルトもサブリナも気が付いていないし」

 ほぼ毎日、海岸の堤防で寄り添う様に話すロゼッタとマキシマス。干潮時は、貝を採りに来る者も居る為、満潮を狙い会っている。
 ロゼッタはマキシマスに敬語で話をしていたが、マキシマスは敬語で話すのを嫌がった。『平等で居たいから敬語で話し掛けられたら会話しない』と言われてしまい、少しずつ話し方も慣れてきたのだ。

「気が付かれてからでは遅いんじゃないか?強制的に結婚式をさせられたらどうする」
「…………その時は……連れて逃げてくれる?」
「……………」
「………あ、ごめんなさい………忘れて……」
「何で?それだけ覚悟が付いた、て事だろ?………俺の妻になる気になった?」
「……………」

 ロゼッタは頷く。もうロゼッタの心はマキシマスしか居ない。横に寄添って座るロゼッタの髪を撫でるマキシマス。髪から耳、頬に優しく触れた。

「ロゼッタが嫌じゃなければキスをしたい」
「……………は、初めて……で、如何したら………いいの?」
「俺の方向いて目を綴じて………力抜いて……後は真似して」
「……………」
「苦しかったら鼻で息するんだ」
「……………」

 マキシマスの息がロゼッタに掛かる。柔らかい唇が触れ、何度か離れては触れると、マキシマスの舌がロゼッタの唇を舐める。ロゼッタももう大人の女だ。それ以上のキスもある事は知っている。少し口を開けると、マキシマスは、ロゼッタを抱き締め自身の舌をロゼッタの舌と絡ませる様に昧った。舌先を尖らせ、口内の上顎から、ゆっくりと味わうように撫でていく。ロゼッタは如何したらいいか分からない。真似をしろ、と言われマキシマスの口内に舌を入れても、マキシマスの舌が気持ち良く何も出来ない。息も鼻で息をするが、かなり苦しい。はぁ、はぁ、とロゼッタとマキシマスから息も漏れる。顔が下になっているロゼッタの口内に唾液も溜まり、口からだらし無く唾液が漏れても、マキシマスの舌で掬い取られ、溜まる一方になるロゼッタは唾液を嚥下した。喉がなってしまい、ロゼッタは堪らずマキシマスから逃れようとするが、マキシマスは離れる事を許さない。

「んっ………マキ……シマス……」
「…………」

 ロゼッタは目を開けマキシマスを見ると、マキシマスはロゼッタを見ていた。食べられるような猛禽類や猛獣が獲物を捉えるかのような目線がロゼッタに突き刺さる。ゾクゾクと、身体が疼くロゼッタは、涙を浮かべ食べてくれと言わんばかりに力を抜いた。もう好きにしてくれと思ってしまう。涙が目からこぼれ、マキシマスの指がロゼッタの目を拭うと、唇は離れた。

「……………色っぽい……ロゼッタ……苦しかった?」
「…………初めてのキスが、こんな熱烈でいいの?………凄く恥ずかしい………変じゃなかった?」
「とんでもない………まだし足りないけど?………君が頬を赤らめて必死に舌を絡めてくれて、俺も気持ち良かったし」
「でも酷いわ………キスは目を綴じるものでしょ?見てるなんて………」
「いやぁ、余りにも緊張で力入ってたのが可愛いくて、間近で見たくてさ」
「まるで食べられるみたいだったわ……」
「……………」

 頬を手で隠し恥じらうロゼッタに『食べられる』と言われ、マキシマスは嬉しそうに言った。

「食べられるみたい、じゃなくて食べたい、て思ってたからかな………勿論、比喩だけど」
「…………」
「伝わってくれて良かった………もう1回しない?ロゼッタ」
「……………ま、また今度!恥ずかしくって、また緊張してしまうわ」
「…………残念」

 マキシマスはロゼッタを抱き寄せ、額にキスを落とした。

「愛してる、ロゼッタ………結婚しよう」
「…………私も貴方となら結婚したいわ……」

 この光景を見ていた民衆が居た様で、求婚の言葉を耳にしてしまった事で、ロゼッタが結婚する、と言う噂が飛び交う。婚約者であるロベルトといよいよ結婚か、と迄言われ、翌日からロゼッタの屋敷に、祝いの品が次々と届けられたのだ。

「ロゼッタ!ロベルトとの結婚にやっと決意してくれたか!」
「…………違います!!私はロベルトと結婚したくありません!お父様にはお伝えしてきた筈です!ロベルトとの婚約は破棄して下さいと!」
「なら相手は誰だ!」
「…………そ、それは……」
「言えん様な相手か!!」
「い、いえ!そんな方ではありません!!」
「では、誰だ!」

 書斎でロゼッタを怒鳴る声が屋敷中に広がる。それはサブリナやロベルトにも聞こえ、祝い品をサブリナやロベルトによって荒らされていた。

「早く、モノにしないから誰かに取られるのよ」
「馬鹿にしやがって、ロゼッタ」
「勘違いしてるお姉様を振り向かせるのはロベルトなんだから、しっかりして頂戴」
「……………お前もいい性格してたんだな」
「だって、私お姉様嫌いだもの」

 侍従達が、次から次へ祝い品を運ぶが、その会話も聞き取れないぐらい忙しく、サブリナとロベルトの企みで、波乱の幕開けになる迄時間は掛からなかった。
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