上 下
17 / 49
過去

波乱の前

しおりを挟む

 水掛け論だった。マキシマスの求婚はロゼッタには予想外で、本心かどうかさえロゼッタは判断をし難い。熱の篭った表情で愛を囁くものではないのか?とロゼッタは小説で培った知識しか知らない男女の付き合い方。

「そ、そんな!今サブリナと別れ告げたばかり!…………本気かどうかも分かり兼ねます!!」
「…………じゃあ、明日また求婚しよう」
「マ、マキシマス様………あ、あの……困ります……第一、サブリナが祝福するとは………」
「サブリナは関係ない………元よりサブリナは俺の性欲を満たすだけの関係だった、と今なら思う………好きか嫌いか、と聞かれたら、ここに来る迄は好きだった……だが、騙すような仕打ちで嫌いになった………祝福をサブリナに求める気等ない。付け加えるなら君の婚約者からの祝福も要らん……むしろ恨まれて結構………ロゼッタの魅力を知っている筈なのに、女の扱い方を知らない男等、相手にもならん」
「……………マキシマス様………円滑に物事を進める事はお嫌いですか?」

 マキシマスのきっぱりと言い退ける言葉は、敵を作る様な気がしたロゼッタ。

「いいや?魔道士だから、効率的な方法を考えて言ってるよ……魔法も円滑に発動しなければ、発動した自身に返ってくるからね」
「で、ですが、今のお言葉はサブリナもロベルトからも反感買うだけでは……」
「勿論、反感はあるだろうね………何故君が領主にならなければならない?サブリナがなってロベルトとやらと結婚すればいい。サブリナも現領主の娘だろ?」
「でも人の心はそんなに変われません!」
「そう、変わらない………だが、このままでは君は恐怖感のある男と結婚させられるんだぞ?…………一生我慢するのか?」
「……………そうなる………と……」
「想像するだけで、泣きそうになるのに?………いいか?その泣き顔はあの手の男は勘違いするぞ?……君の泣き顔……俺だってグラつくぐらい唆られるんだ………笑顔も唆られるけど……」

 マキシマスはロゼッタの笑顔に唆られる、と言った後、少し顔が赤くなる。それが照れだと、ロゼッタも気が付いた。

「…………努力してみます………破談になるように………」
「だから、協力……」
「要りません……お気持ちだけで………」
「頼って貰ってもいいんだが?」
「…………ご厚意は有り難いんですが……」
「…………分かった……暫く様子は見ていよう………無理なら俺が出て行く」
「如何してそこ迄して頂けるのですか?」
「言っただろ?君に惹かれている、愛しい……と」
「……………」

 何度も言われ、ロゼッタも自覚してきた様だ。顔が火照り、頬を顔で覆うロゼッタはマキシマスから目線をずらした。

「…………駄目だな……その顔も他の男に見せないでくれ………抱き締めたくなる……」
「…………だ、抱き締め………」

 マキシマスもロゼッタを見られず、理性を保とうと顔を背けた。その後は他愛のない話が出来たロゼッタとマキシマス。お互いの価値観や、趣味等楽しい時間を共有した2人。

「あ、そろそろ私、帰ります!長居し過ぎてしまいました………マキシマス様にはご迷惑ばかりで申し訳ありません」
「…………迷惑とは思ってないよ……楽しい時間だった…………君とはまだまだこういう時間が欲しい……明日も会いたい」
「…………マキシマス様……」
「駄目とは言わせない……君があの男とサブリナの居る屋敷に帰したいと、君に惹かれる俺は如何しても思わない」

 ソファから立ち上がるロゼッタをマキシマスは阻む様に自身も立ち上がる。

「…………こ、困ります………帰らないと破談話出来ません………」
「…………それもそうか………では、明日また会おう………会える時間はある?」
「………は、はい……午前中なら………午後は父が視察から帰ってきますから、領主の仕事を手伝わねばならないので」
「じゃあ、午前中にあの貝を採った海岸で……どう?」
「私は構いませんが、マキシマス様お仕事は?」
「午前から仕事する」
「…………は?」
「折角君に会えるんだ、君と過ごしたい」

 そう言うとマキシマスはロゼッタの手を取った。

「俺を好きになって欲しいしね」
「!!」

 手の甲にキスをされ、思わずロゼッタは手を引っ込めた。

「可愛い……ロゼッタ………引き止めたいが、流石にもう無理かな?屋敷に送ろう」
「あ、あの………私も先程のサブリナの様に送って下さい。送って頂くなら………屋敷では人目が……」
「…………あぁ、そうだな……それか君の部屋でも……」
「それは遠慮します」
「見たかったんだが………」
「駄目です」

 送って貰ったロゼッタとマキシマスの恋が始まった。だがそれは長くは続かないのは明らかだった。日に日に、ロゼッタはマキシマスの事を考える様になり、雰囲気も柔らかくなっていく一方で、ギスギスした雰囲気になっていったサブリナ。ロベルトもロゼッタが変わっていったのを見逃す訳はなく、1ヶ月程経った頃、嵐が巻き起こった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...