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現在
領主の仕事
しおりを挟む一瞬にして領主の屋敷に戻ったロゼッタ。屋敷内は騒がしくなっている。書斎に戻って来たロゼッタは書斎の扉を開けた。
「何?何かあったの?」
「!!ロ、ロゼッタ様!!皆!ロゼッタ様が戻られた!!ロベルト様に報告を!!」
「やめて!ロベルトなんかに報告は要らないわ!…………書斎にイーサンを呼んで頂戴」
侍従達は朝、ロゼッタが居ない事で大騒ぎだったようだ。ロベルトは何も言わなかったのだろう。例え、ロベルトが何か侍従に言ったところで、ロベルトの話は侍従達は信じないのだが。
ロゼッタは書斎の中に戻ると、荒らされた形跡があった。昨夜の離婚届が無くなっており、ロベルトが奪って行ったのも容易に想像出来る。ロゼッタはドレスの隠しポケットから鍵を出し、机の鍵が掛かった引き出しを開ける。何度もこじ開けた様な後もある鍵穴。
「本当、短絡思考の男………お父様も何であんな男に任せようと思ったのかしら」
引き出しを開け、何枚も取り寄せていた離婚届の1枚を取り出す。こんな事もあろうかと、いつ如何なる時でも書けるようにしてあるし、相続に関する書類も全て用意をしてあり、ロゼッタと執事のイーサンしか知らない保管場所に準備してあったロゼッタ。
コンコン。
「はい」
「失礼します、ロゼッタ様」
「イーサン………貴方にお願いがあって呼んだのだけど、屋敷の方の仕事は大丈夫かしら?」
「そちらは大丈夫ですが、この惨状は……片付けをお手伝い致します」
初老の執事のイーサンは、前領主のロゼッタの父の代でも執事だった男だ。
「片付けは後でいいの………サブリナの体調は変わりない?」
「はい、サブリナ様はいつもと変わらないご様子です」
「サブリナの妊娠は知ってるでしょ?その子が産まれたら、私の子として養子縁組をするので、その様に手配して欲しいの。そして遺言状、遺言相続にその子を書き加えるわ」
「はい、それが宜しいかと」
「それで、産まれたらロベルトと離婚する……反対は?」
「離婚はもっと早くされた方が宜しいのでは…………ロゼッタ様へ対する仕打ち、我々侍従達は、ロゼッタ様の身の安全が心配です………」
「私の事はいいの………ロベルトと離婚出来るだけで幸せになれるから……それ迄我慢は出来るわ」
「それでは、遺言状と遺言相続書をお持ちします。」
イーサンは一礼して、書斎を出ようとする。しかし、ロゼッタはイーサンを呼び止めた。
「イーサン、ちょっと待って!」
「………はい」
「貴方、マキシマスという、王宮魔道士を知ってる?」
「マキシマス様が戻られたのですか!」
イーサンが、ロゼッタに振り返り驚いた表情をした。
「………貴方も知っているのね………」
「知っているも何も、マキシマス様はサブリナ様の婚約者では?」
「…………サブリナの婚約者?」
「はい、その様に前領主様にサブリナ様はご紹介されておられましたが、何かの折に、マキシマス様は国境警備の任が下り、結婚も有耶無耶になったと思っておりました」
「…………イーサンも知ってるわよね、私はお父様が亡くなった頃の数カ月、記憶が無いのを………」
「勿論です」
「私にマキシマス様の記憶が無いの………でも、昨夜彼はロベルトから受ける暴行から助けてくれたわ」
イーサンは、ロゼッタの側に寄る。
「前領主様は、マキシマス様とサブリナ様の婚姻には喜んでおりましたが、後日マキシマス様から無かった事にして欲しい、と申し出がありました。そのショックでサブリナ様はあの様に、と侍従達は見ております。マキシマス様は好青年ですし優秀な方ですが、ロベルト様とは仲も悪かったので、その点もあるかと…………それに……」
小声に落とすイーサンはロゼッタに囁く様に話し始める。
「それに?」
「マキシマス様は、ロゼッタ様へ求婚した、と前領主様へ申しておりました。その時、ロベルト様も同席していらっしゃって、前領主様とロベルト様は激怒されておられて……」
「…………それは、私の記憶が無くなってる時期かしら?」
「…………確かそうだったかと」
「私、何故記憶が無いのだろう……思い出せない………」
「ロゼッタ様………糸口が見つかる筈です。お気をしっかりお持ち下さい。」
「…………そうね、ありがとう………遺言状の事頼むわ」
「…………はい、お待ち下さい」
ロゼッタは深い溜息を付いた。散乱する書類をまとめ、地区毎の書類に仕分けていく。収支報告書や、工事予定書、税収書類等々、散々引っ掻き回していった様だ。ロゼッタは書斎の扉に普段鍵を掛けている用心深さがある。ロベルトが屋敷に出入りし始めた頃に、父に鍵付きの扉なのだから、書斎に居ない時は鍵を掛けるように話しをした事がある。しかし、父はロベルトを信頼してしまっていて、鍵を掛ける事は無かった。ロゼッタがロベルトを信頼出来ないと思ったのは、その書斎に父が留守中、ロベルトが書斎を漁っていたからだ。
『ロベルト様、ここは父の書斎。貴方が入れる部屋ではありません』
『いいじゃないか、ロゼッタ。いずれは領主になるんだ、義父上がどの様に領主として働いているかを見学したくてね』
『留守中に見学も何もありません、今すぐ出て下さい。それに貴方が領主になるのではありません。私が次期領主です』
婚約者として連れて来られたロベルトの行いは、ロゼッタの敵視に近いものとなり、父ではなくイーサンを使い気を付けてきた。しかし、昨夜の事は余裕がなく荒らされてしまい、ロゼッタを疲労困憊にさせたのだった。
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