暗闇の麗しき世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
33 / 45

32 

しおりを挟む

 晄のマンションに世話になってから4日目。
 休んでいた麗禾は大学の前で、晄に腰を抱かれ頬を擦られていた。

「無理するなよ」
「っ…………わ、分かりましたから………あ、あの………この手放して下さ……」
「……………顔が赤い………やっぱり休……」
「い、行ってきます!」
「あ……………クソッ!逃げられた!」

 車の助手席から顔を覗かせた榊は呆れ顔で、晄に言う。

「そりゃ、公衆の面前でそんな色気出して、キスしようとしたからですよ」
「あわよくば、と思うだろ!別れ際に惜しむぐらい何が悪い!」
「……………お嬢に至っては、恋愛初心者なんですから、照れが勝るんです………早く出勤しますよ」

 長くは晄も外には立てないので、麗禾と離れると、直ぐに車に乗り込んだ。

「……………お前、最近毒舌になってるよな……夫婦揃って似てんじゃねぇよ」
「小夜から、お嬢を守れ、と言われてるんで………若頭と違って、俺好きな女には毎日好きだ、と言えますからね」
「お、俺だって…………言えるもんなら……」
「フラレてますからね、若頭は」
「っ!」

 そんな会話が晄の車で行われている中、麗禾は友人達に囲まれて、休んでいた日の講義内容を移させてもらっていた。

「インフルだって?気をつけないと」
「う、うん………大変だったよ………熱が引かなくて」
 
 晄の方からは大学に数日休むと、連絡は入っていた様で、騒ぎらしき事にはなってはいなかった。
 何故ならあの後、朔夜が神崎組から逃げたという事を、今朝晄から聞かされからだった。
 神崎組に引き渡された朔夜は、神崎家の見取り図を熟知していて、逃げ道も確保していたらしい。それなので、本当は晄も麗禾が大学に行くのを反対したのだが、単位は落としたくない、と麗禾の我儘を通した。

「ところでさぁ、麗禾」
「何?」
「昨日、麗禾の前の付き添い君、大学の近くで見たんだけど、如何なってるの?降ろされただけじゃなく、クビにしちゃった訳?」
「そんな事は………そんな宣告するのは父だし……」

 逃げ出した、となれば本当に父親から、殺害宣告をされて、逃げ出したのだろう。甘い考えで朔夜を放置したとは思えない。

「ねぇ、朔夜はどんな姿してた?いつものスーツ姿だった?あと、何処で見た?」
「……………パーカー羽織って、顔を隠してた………一瞬誰かとは思ったけど、何回も見てるから顔は覚えてたし………でも、何か暗い顔してたな………場所は駅地下だったけど」
「あ、ありがとう………教えてくれて……ちょっと、メール入れて来るわね」
「あ、うん」

 メールする内容を見られたくはないので、女子トイレに駆け込み、父と晄には連絡を入れて、教室に戻ろうとした途端、視界が遮られてしまった。

「んっ!…………だ、誰…………か………」

 警備が厳重だった大学内で、侵入者は調べられる。
 だから、朔夜も晄でさえも、門から中には入れない様にしていた。理事でもある麗禾の父も組員を厳選していたので、朔夜や晄が入っても直ぐに報告は入るだろう。それが安易に潜入されて、麗禾は意識を失った。

「…………頼んで正解だった………お嬢の友達とは、面識ありましたからね………入れて貰ったんです………教室の近くの女子トイレで張ってりゃ、来るでしょ?お嬢………いや………麗禾……青葉会で精一杯、可愛がってあげますよ………」

 友人達の中の1人から聞かされた朔夜の情報。
 友人は麗禾が極道の娘とは知らないし、言葉巧みに容易に騙せたかもしれない。
 朔夜は清掃業者に扮し、麗禾を掃除道具の中に入れて、大学から連れ出された。

「何だと!麗禾が居ないってどういう事だ!頭!」
「落ち着け、晄!」
「今…………防犯カメラを確認中だ………朔夜に逃げられ警戒態勢を怠らせたつもりは無い………」

 大学の理事長室に集まった晄と黒龍組組長、そして神崎組組長と母麗子。

「ま、また怖い目に…………あの娘がなったら……」

 自分は麗禾に暴力を奮ったくせに、他人が奮うのは心配なのだろうか、と晄に握り拳が作られた。

「若頭………若頭、今は落ち着いて下さい……青葉会に大勢で乗り込めば、警察も動きますし」

 極道も動き辛くなってきたからこそ、地の利を活かし、副業を表に出し稼いで来たのだ。表立って騒ぎを起こせば、副業さえも危うい。

「あの男が行きそうな場所はやはり青葉会か………」
「お嬢からのメールで駅地下で見たらしい、と教えて貰った、て………」
「駅地下だと?」
「神崎の頭…………何か心当たりでも?」

 麗禾の父はメールを見てはいなかったのだろうか。

「俺には、駅地下で目撃情報があった、とメールが来ましたが………」
「いや…………来てない……麗禾からのメールは来た事自体………この数年無い。連絡が入るのは大抵麗子の方で…………メールアドレスも変えた覚えも無い」
「頭!お嬢のスマホが落ちてました!」
「何処にだ!」
「GPSも大学構内だった……」
「裏門の駐車場です!」

 神崎組の組員が麗禾のスマートフォンを見つけて慌てて持って来た。
 顔認証ロックは外されていて、中を誰でも見える様になっている。

「おかしい…………ロック解除してある状態で見つかるなんて………」

 麗禾は確かに自動ロックが掛かる様にしていた。それが解除状態のままになっているのはおかしな事だった。
 晄は、麗禾のスマートフォンを操作し、メール送信履歴を確認すると、確かにと表示されたアドレスに送信していて、晄が送られた内容と一緒だった。

「違う…………このアドレスではない………」
「違うわ………似てるけど……rがlに変わってる………」
「じゃあ………誰かが意図的にメアドを変えたか変えさせたか…………か………」
「あの男でしょ………攫ったんですから」
「……………だな……」
「駅地下…………駅………」

 メールアドレスが変更させられていた事より、麗禾の父はブツブツと、駅地下の事を気にしている。

「頭?」
「……………駅地下を探せ!地下水路に繋がる入口!それと使われなくなった店舗!今すぐに向かえ!」
「何か分かったの!」
「あぁ…………朔夜の事で、思い出した事があった…………記憶違いで無けりゃ良いが………」

 ソファを前屈みの姿勢で浅く座り、肘を付いて顎をその手で支えている麗禾の父は全身に冷や汗をかいて青褪めていた。
 これだけ見れば、麗禾は愛されていたのだと分かるのに、神崎家の夫婦は何故素直になれなかったのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...