30 / 37
恋人の父登場
しおりを挟む翌日、仕事を終えた茉穂と彬良は、ホテルにやって来た。
昨夜の1件で、話合いを設けると、彬良が言ったのもあり、翌日の朝、茉穂が時間を作って欲しいと連絡したら、茉穂の父は都合を付けたのだ。
レストランの個室に入ると、5席の用意。磨かれたカラトリーと輝くグラスが並べられていた。
「5人?」
「茉穂の親父さんに弟、それに親父も来るとさ」
「え!」
「話たら、茉穂と茉穂の親父さんに挨拶したいとよ」
只でさえ、自分の父親とも気まずいのに、恋人の父親も一緒となると、余計に緊張してしまう。
「ど、如何やって座るの?………上座2席と下座3席………」
「違うな……1席はここにしてくれ……親父に座ってもらう……俺達は下座に座ろう」
彬良の父親は仲介的な立場にさせたいのかもしれない、と茉穂は思った。
窓際の奥に1席用意させた茉穂と彬良は下座に座り、茉穂の父と瑞穂、彬良の父を待った。
個室の扉がノックされると、スタッフに案内された茉穂の父と瑞穂が入って来る。
「こちらでございます」
「………お待ちしてました……部屋の居心地は如何でした?」
「………名の通ったホテルではあるな……何故君の名で、予約せずに泊まれたかが不思議で仕方ないが」
彬良が、立って茉穂の父と瑞穂を向かい入れる。
「それはもう1人到着したら分かります」
「もう1人?」
茉穂の父は窓際にある空席に気が付く。
「誰か他に来るのかね?」
「俺の父親ですよ……挨拶したい、と申しまして」
仕事の時とは違う丁寧な口調の彬良。そして、無造作に掻き上げた髪型ではなく、整えて来た紳士的な態度なのは茉穂は驚いていた。
「挨拶等要らん……こんな仰々しい席にせずとも、私は茉穂と話して、君に手切れ金を渡すだけで良かったんだ」
「手切れ金は要らないと伝えてましたが?俺達は別れませんし、今は交際を認めて欲しい、ただ1点のみです」
「どうだか………昨夜は茉穂をマンションに返さず、君の家に泊まらせたのだろう?不謹慎極まりない!」
「付き合ってますから」
ピリピリする空気。
―――胃が痛くなりそ……
彬良と茉穂の父の間に火花が見えそうで、茉穂はヒヤヒヤしていた。
そんな最中、再び扉がノックされる。
「お待たせしまして申し訳ありませんな」
彬良に似た声で、雰囲気も彬良に似た初老の男。彬良の父だと直ぐに分かる。
「初めましてだね、茉穂さん」
「………初めまして、水木 茉穂と申します」
「彬良の事で迷惑掛けてるね、乱暴者だから」
「い、いえ……むしろ私の方がご迷惑お掛けしている様な………お忙しいのに申し訳ありません」
「父さん………茉穂のお父さんにも挨拶してくれないか」
彬良の父は、茉穂の父より先に茉穂へ挨拶をしていた。それが長いので、彬良が割って入る。
「そうだな……申し訳ないですな……村雨 彬良の父で、原 俊明と申します……息子の苗字は、家内の姓でしてね……私はこのホテルの経営に携わり、次期は彬良に任せようと思っておりまして、交際している茉穂さんのご家族がお越しになった、と彬良から聞き、私も挨拶させて欲しい、と場を設けさせて頂いたのですよ」
別姓だとは、茉穂も知らなかった、彬良と彬良の父の原。
「……茉穂の父で、水木 眞秀です……市議会議員をしておりまして、隣に居るのは息子の瑞穂です」
「茉穂の弟の瑞穂です」
「市議会議員とはまた忙しい最中時間を作って頂き申し訳ないですな」
肩書き大事な茉穂の父だ。世間体に申し分ないであろう、大手企業の経営者とその息子。『馬の骨』と言ったのが、茉穂の父は冷や汗を掻いている様だ。
「い、いえ……まさか娘の交際相手がこの様な企業の後継者だとは知りもせず……娘は何も言わなかったので……」
「でしょうな………彬良は、私の後継者になりたくない、と家出した息子ですからな」
「父さん、今その話要ります?………スタッフが困ってますから、料理を運んでもらいますよ………ワインでいいですか?」
「あぁ、彬良に任せる」
彬良がスタッフを呼び、ワインを選ぶ。
「茉穂のお父さんと瑞穂君は飲めるのか?」
「アルコールは飲めるけど、日本酒のが好きで……お父さん、瑞穂、日本酒頼もうか?」
「………ワインでいい」
「俺も」
「………じゃ、これにしてくれ……テイスティングは要らない」
「畏まりました」
スマートな所作も始めて見る茉穂。
「彬良、所作も覚えている様だな」
「…………叩き込ませといてよく言いますね……これでも高校迄は父さんの敷いたレールの上に居ましたよ、俺は」
「脱線しながらな」
「…………跡継たくなかったですからね……」
ワインを注がれて、彬良は口に含む。
「水木さん、貴方の立場を考慮して、先にお伝えしますが、彬良は私の愛人だった女の息子でしてね………1番私に似て、強欲と威厳を持ち合わせているので、長男にした息子なのですよ……他にも息子や娘も居りますが、後継者にするべく教育を高校迄して来たが、高校生の時に踏み外したレールのせいで10年以上反抗し続けてた……その彬良が、茉穂さんとの交際を続けたいが為に、私に頭を下げましてね………自分の信念を捻じ曲げて迄、水木さんに茉穂さんとの交際を認めて貰いたいと言ってきたのです」
「…………」
茉穂の父は彬良を見るが彬良はただ食事をして原の話を聞いていた。
「手切れ金を渡そうとした様ですが、彬良は金に揺らぐ息子ではない。私が敷いたレールは金に物を言わせたレールばかりでしたからね……それが正しい道になる場合もあるが、人の気持ちは金で動く物程、上っ面だ………その気持ちを、彬良に教えたのは茉穂さんだと私は思いますが、如何なんでしょうな?」
生い立ちは違えど、同じ様な親が敷いたレール通りに子を動かそう、とした親のエゴ。それを悟らせている原だった。
「如何です?頭ごなしで反対せずとも、恋路等干渉すればする程燃える物………縁が無ければ別れます……ここは1つ、貴方の目で息子と娘さんを見てやっては如何ですかね?」
そう原が言うと、不機嫌丸出しではあるが、水木は『別れろ』とも言えず、『認める』とめ言わず、それから押し黙ってしまった。
茉穂と彬良に関する事は一切口に出さず、他の話であれば応じるしか出来ずにいたのだった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
続・上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。
会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる