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恋人の父登場
しおりを挟む翌日、仕事を終えた茉穂と彬良は、ホテルにやって来た。
昨夜の1件で、話合いを設けると、彬良が言ったのもあり、翌日の朝、茉穂が時間を作って欲しいと連絡したら、茉穂の父は都合を付けたのだ。
レストランの個室に入ると、5席の用意。磨かれたカラトリーと輝くグラスが並べられていた。
「5人?」
「茉穂の親父さんに弟、それに親父も来るとさ」
「え!」
「話たら、茉穂と茉穂の親父さんに挨拶したいとよ」
只でさえ、自分の父親とも気まずいのに、恋人の父親も一緒となると、余計に緊張してしまう。
「ど、如何やって座るの?………上座2席と下座3席………」
「違うな……1席はここにしてくれ……親父に座ってもらう……俺達は下座に座ろう」
彬良の父親は仲介的な立場にさせたいのかもしれない、と茉穂は思った。
窓際の奥に1席用意させた茉穂と彬良は下座に座り、茉穂の父と瑞穂、彬良の父を待った。
個室の扉がノックされると、スタッフに案内された茉穂の父と瑞穂が入って来る。
「こちらでございます」
「………お待ちしてました……部屋の居心地は如何でした?」
「………名の通ったホテルではあるな……何故君の名で、予約せずに泊まれたかが不思議で仕方ないが」
彬良が、立って茉穂の父と瑞穂を向かい入れる。
「それはもう1人到着したら分かります」
「もう1人?」
茉穂の父は窓際にある空席に気が付く。
「誰か他に来るのかね?」
「俺の父親ですよ……挨拶したい、と申しまして」
仕事の時とは違う丁寧な口調の彬良。そして、無造作に掻き上げた髪型ではなく、整えて来た紳士的な態度なのは茉穂は驚いていた。
「挨拶等要らん……こんな仰々しい席にせずとも、私は茉穂と話して、君に手切れ金を渡すだけで良かったんだ」
「手切れ金は要らないと伝えてましたが?俺達は別れませんし、今は交際を認めて欲しい、ただ1点のみです」
「どうだか………昨夜は茉穂をマンションに返さず、君の家に泊まらせたのだろう?不謹慎極まりない!」
「付き合ってますから」
ピリピリする空気。
―――胃が痛くなりそ……
彬良と茉穂の父の間に火花が見えそうで、茉穂はヒヤヒヤしていた。
そんな最中、再び扉がノックされる。
「お待たせしまして申し訳ありませんな」
彬良に似た声で、雰囲気も彬良に似た初老の男。彬良の父だと直ぐに分かる。
「初めましてだね、茉穂さん」
「………初めまして、水木 茉穂と申します」
「彬良の事で迷惑掛けてるね、乱暴者だから」
「い、いえ……むしろ私の方がご迷惑お掛けしている様な………お忙しいのに申し訳ありません」
「父さん………茉穂のお父さんにも挨拶してくれないか」
彬良の父は、茉穂の父より先に茉穂へ挨拶をしていた。それが長いので、彬良が割って入る。
「そうだな……申し訳ないですな……村雨 彬良の父で、原 俊明と申します……息子の苗字は、家内の姓でしてね……私はこのホテルの経営に携わり、次期は彬良に任せようと思っておりまして、交際している茉穂さんのご家族がお越しになった、と彬良から聞き、私も挨拶させて欲しい、と場を設けさせて頂いたのですよ」
別姓だとは、茉穂も知らなかった、彬良と彬良の父の原。
「……茉穂の父で、水木 眞秀です……市議会議員をしておりまして、隣に居るのは息子の瑞穂です」
「茉穂の弟の瑞穂です」
「市議会議員とはまた忙しい最中時間を作って頂き申し訳ないですな」
肩書き大事な茉穂の父だ。世間体に申し分ないであろう、大手企業の経営者とその息子。『馬の骨』と言ったのが、茉穂の父は冷や汗を掻いている様だ。
「い、いえ……まさか娘の交際相手がこの様な企業の後継者だとは知りもせず……娘は何も言わなかったので……」
「でしょうな………彬良は、私の後継者になりたくない、と家出した息子ですからな」
「父さん、今その話要ります?………スタッフが困ってますから、料理を運んでもらいますよ………ワインでいいですか?」
「あぁ、彬良に任せる」
彬良がスタッフを呼び、ワインを選ぶ。
「茉穂のお父さんと瑞穂君は飲めるのか?」
「アルコールは飲めるけど、日本酒のが好きで……お父さん、瑞穂、日本酒頼もうか?」
「………ワインでいい」
「俺も」
「………じゃ、これにしてくれ……テイスティングは要らない」
「畏まりました」
スマートな所作も始めて見る茉穂。
「彬良、所作も覚えている様だな」
「…………叩き込ませといてよく言いますね……これでも高校迄は父さんの敷いたレールの上に居ましたよ、俺は」
「脱線しながらな」
「…………跡継たくなかったですからね……」
ワインを注がれて、彬良は口に含む。
「水木さん、貴方の立場を考慮して、先にお伝えしますが、彬良は私の愛人だった女の息子でしてね………1番私に似て、強欲と威厳を持ち合わせているので、長男にした息子なのですよ……他にも息子や娘も居りますが、後継者にするべく教育を高校迄して来たが、高校生の時に踏み外したレールのせいで10年以上反抗し続けてた……その彬良が、茉穂さんとの交際を続けたいが為に、私に頭を下げましてね………自分の信念を捻じ曲げて迄、水木さんに茉穂さんとの交際を認めて貰いたいと言ってきたのです」
「…………」
茉穂の父は彬良を見るが彬良はただ食事をして原の話を聞いていた。
「手切れ金を渡そうとした様ですが、彬良は金に揺らぐ息子ではない。私が敷いたレールは金に物を言わせたレールばかりでしたからね……それが正しい道になる場合もあるが、人の気持ちは金で動く物程、上っ面だ………その気持ちを、彬良に教えたのは茉穂さんだと私は思いますが、如何なんでしょうな?」
生い立ちは違えど、同じ様な親が敷いたレール通りに子を動かそう、とした親のエゴ。それを悟らせている原だった。
「如何です?頭ごなしで反対せずとも、恋路等干渉すればする程燃える物………縁が無ければ別れます……ここは1つ、貴方の目で息子と娘さんを見てやっては如何ですかね?」
そう原が言うと、不機嫌丸出しではあるが、水木は『別れろ』とも言えず、『認める』とめ言わず、それから押し黙ってしまった。
茉穂と彬良に関する事は一切口に出さず、他の話であれば応じるしか出来ずにいたのだった。
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