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恋人の決意

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「茉穂」
「ありがとう」

 彬良からウィスキーを手渡される。飲める気分では無かったが、茉穂も一口飲んだ。
 座り心地の良すぎるソファ。無駄に広いリビングに落ち着けず、窓から見えるビル街の夜景や海。何処か観光に来た気分なのだ。

「落ち着けねぇだろ……」
「………うん……観光に来たみたい」
「だな………だけど、俺は小学校卒業する迄、こんな部屋に住んでた」
「…………」

 茉穂は、彬良の過去をまた聞けると思い、部屋を見渡していた視界から彬良に変える。

「本妻が死んで、お袋が親父に呼ばれ一緒に住む様になったが、そっちも似た様なだだっ広い家でな………家族団欒も無く、たださせられただけの冷たい空気の家だった………親父に依存するお袋に、親父は愛人達を梯子し、家に帰るのは稀で、親父が帰って来ないのは俺の出来が悪いせいだ、とお袋から一時期虐待されてな………それが
「…………あ……額の傷……」

 彬良は前髪を掻き分ける。刃物傷の様な傷は喧嘩では無かった。それだけではない、腕の傷も恐らくそうかもしれない。

「身体鍛えねぇと、抵抗出来ねぇからな……体格もお袋より上回って、逃げれる様にもなって、家出を繰り返す様になった……親父は知ってたのに、助けもしなかったしな……家に嫌気が差すのも頷けるだろ?」
「うん………」
「一応、は高校迄我慢出来たが、族に入った俺に、親父の俺への関心なんて無くなったと思ってた。でも、ちょくちょく部下達を寄越してはいたし、10年ぐらい無視続けてはいたんだが……」

 彬良が茉穂を見つめる。

「っ!」

 熱を込めた視線に、茉穂はときめく。

「やっぱり、親父に茉穂の存在知られてな……付き合いを反対されるなら、茉穂の親父さんより早く妨害はあったとは思ってよ、あの後10年振りに会いに行ったんだ………如何するか、とな」
「…………如何だったの?」

 彬良はロックグラスの中のウィスキーを飲み干し、また注ぐとカラカラと氷を鳴らす。

「………俺にと……そうすれば、茉穂との間を壊さない、とな」
「戻って来い、てどういう事?」
「…………会社辞めて、跡継げとさ……日本に3つ、海外に5つあるホテル経営しろ、と」
「…………出来るの?そんな大それた事……」
「さぁな………」
「弟さん達は如何なるの?」
「反対するんじゃね?今迄兄貴の俺が好き勝手やってたのに、今更戻って来るっていうんだから………何かしら役員になってる奴も居るからな」
「それで、このマンションを受け取ったら、了承したという事になるんじゃ……」
「…………なら、見す見す茉穂があの親父さんの決めた事を、俺は指を加えて見送れと?」
「っ!」

 茉穂の父は、彬良と別れさせようと考えていた。そうなる前に彬良は動いたという事だろう。

「俺は別れる気ないぜ?金積まれようとな……価値観や性格の不一致で別れるのはいい……別れる気無いのに別れさせられるのは真っ平ごめんだね………将来の約束なんてまだ出来ねぇし、茉穂の気持ちも俺は聞いていない………何も進展してないのに、勝手に俺達の人生に関与すんな、て思ってよ………俺の事は俺が決めるし、茉穂の事は茉穂が決めて、助けが要るなら俺は協力する……今はそれしか言えねぇ………茉穂は如何したい?」
「私…………私は、お父さん達に干渉されたくない……自分で結婚相手も決めたいし、好きな人と結婚したい………今、彬良と別れたいとも思ってない……一緒に居たい……」
「…………決まりだな……俺は親父にまだ返事はしてねぇが、遅かれ早かれ会社を辞める事にはなるだろう………いいか?寂しくさせちまうが………」
「…………本当に跡継ぐ気なの?」
「直ぐにじゃないだろ……それに、俺が経営に向いてるなんて絶対にありえねぇから、その内逃げれるさ………今の段階で最善の策だと思ったら、親父の助けもアリかとな」

 そう締めくくると、彬良も真剣な眼差しを解いた。

「風呂入らね?………ジャグジーだったぜ?」
「………本当、ホテルみたい……」
「ベッドはキングサイズだしな」

 この後の事を予感する。
 不安で押し潰されそうになっていた茉穂だったので、その不安を物色させたくて仕方無く、抱き合いたかったのだ。茉穂は赤面していると、彬良が顔を覗き込む。

「想像してるな?」
「っ!」
「今迄のベッドと違い、暴れ放題だぜ?声も出し放題………この階はもう1軒あるが、寝室のある側は外壁だからな……エロい声めいいっぱい聞かせてくれよ」
「真面目な話から、急にスケベにならないでよ!」
「欲しかったくせに」
「ゔっ………」
「スケベはどっちだか………ほら、風呂にしようぜ」

 引っ張られる様に、バスルームに連れて行かれた茉穂は、燻る様に身体を彬良に洗われ、ジャグジーを堪能するのだった。
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