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恋人と父親に挟まれ
しおりを挟む英美と解散し、茉穂は帰路に着く。
♫•*¨*•.¸¸♪✧
「………もしもし……」
『悪いな、連絡取れずに』
ずっと、声を聞いていない気がする、恋人の声。茉穂は泣きそうになる。
「…………会いたい……」
言葉を噛みながら、絞り出したやっとの言葉を彬良に呟いた。
『………今、茉穂ん家向かってる……今お前は何してる?』
彬良も、茉穂の声で察した様に優しい声で話す。
「英美とご飯食べた帰り」
『マンションの前で待ってろ、迎えに行く』
「………うん」
電車に乗り、彬良からの連絡から30分程で帰れる茉穂は最寄り駅から徒歩数分でマンションに着いた。
「茉穂!」
「お父さん?」
「お父さんに報告する事があるだろう!早く部屋に入れなさい」
父親からは連絡は無かった。父親と並ぶ瑞穂も父親と同様厳しい表情をしている。
「帰って……今話す事は無いよ………感情的になるから、話したくない」
「茉穂!」
「瑞穂も帰って!」
「茉穂を連れて来い!」
「………さぁ、お嬢さん」
「っ!」
父親の秘書達が茉穂を取り囲む。
「離して!」
腕を捕まれそうになり、茉穂はバックを振り回す。
「止めて貰えません?大事な女なんで」
秘書達の背後で、車から降りて来る彬良の姿があった。
「彬良!」
秘書達を振り切り、彬良の胸の中に飛び込む茉穂は泣きそうだ。その茉穂を抱き締める彬良。
「茉穂、ちょっと親父さんと話させてくれ」
「………うん……」
茉穂を背に隠して、彬良は茉穂の父親に一礼する。
「こんな形での挨拶になりましたが、茉穂さんと交際させて貰っています……村雨と言います……認めて頂けるといいのですが」
「何処の馬の骨か分からん奴はお断りだ!茉穂は地元の優秀な男と結婚させる!」
「…………茉穂の意思は無いんですか?」
「茉穂は私の言う事を聞いていればいい!……手切れ金を渡してやる!別れて貰おう!」
「そんな物は要りませんよ、反対されては別れませんし………それに、今更ですね……」
「………何?」
「別れさせたいなら、とっくに俺の親父がやってますよ……だが、親父が茉穂に近付いてない、て事は、親父はそのまま見守る事にした様なんで、意味はない」
彬良のこの言葉が、ただの馬の骨でない事を感じ取る茉穂の父。
「何だと?」
「………今日はもう遅い……この住所にあるホテルに部屋を用意させます……瑞穂君と共にそちらでごゆっくり」
彬良は名刺を茉穂の父に渡そうとするが、受け取る素振りが無い為、胸ポケットに差し込んだ。
「行こう、茉穂」
「え?……何処に?」
「…………俺の相続してたマンション」
「…………え?」
「このマンションの前で騒いだんだ、落ち着く迄、帰らない方が良いと思うぞ」
マンションの前で騒いだのだ。近所の人達も何事か、と覗いている。
「分かった………お父さん、瑞穂……週末帰るから時間取って……ちゃんと話すから」
「…………今話なさい!」
「なら、明日そのホテルに仕事終わったら行かせますよ……今、お互いに興奮してる……落ち着いて話せないでしょうし」
茉穂は、彬良に車に押し込まれ、直ぐにその場を離れた。
暫く車を走らせ、高層マンションが並ぶ街中へ入る。港近くのマンションの地下に車を停めた彬良は車を降りた。
「着いたぞ」
「…………ここって……新しく出来たマンションだよね……」
「………親父が買ったんだよ……俺に住めって鍵迄渡してきやがった」
億単位はするであろうマンションに不服そうな口振りの彬良。とてもじゃないが、不釣り合いな高級マンションだ。
「会ったの?お父さんに……あんなに嫌そうにしてたのに」
「…………茉穂の親父さんが市議会議員、て聞いたからな……どうせ調べられるだろうと思って、親父の周辺に身辺調査が入るだろうから、て言っておいたんだ……茉穂の家族達に余計な事をされたくないからな」
「………連絡付かなかったのはそのせい?」
「…………まぁな……親父の前で電話出れなくてよ」
「仕事中は出来たんじゃないの?」
「…………泣きそうになってる茉穂見て、俺が返信したら、会社で嬉し泣きするんじゃないかと思ったら出来るか………抱き締めたくなるじゃねぇか」
「…………そんなに泣きそうにな顔してた?」
「してたね………セックス中の涙目思い出して、突っ込みたくなる程に」
「それなら無視迄しなくったって……」
「暇無かったんだよ……ここのマンションも今朝渡されて、仕事中以外親父に振り回されて、やっと会えたんだ………ほらよ……生活感ないだろうが、とりあえず家具も食料も用意させたから………あと数日分の着替えや化粧品も準備させた」
させた、と言う彬良。人に指示出来る程、影響力があると見る。
部屋の中は高級過ぎる程だ。キッチンもリビングも広く、階段もありロフトかと思いきや、部屋のドアもあり、吹き抜けの天井。
「なっ!………ホテル……じゃないよね?」
「マンション………酒、飲むか?」
「い、要らない!………これを買ってもらった、て事?」
「税金対策だろ……前から、俺だけじゃなく弟達にも、マンション買ってやってるから……要らねぇ、て言ったんだが、宿無しだったからな、俺」
「………だからって……幾らするんだろ……」
「知るか………ほとぼりが冷めたら売ってやる」
茉穂が酒は要らない、と言ったが、彬良はウィスキーを持って来る。グラス2つあるので、付き合ってもらおうとしてるのか。
「俺は飲みたい気分だから付き合え」
「…………酔える気しないなぁ……」
「俺だって酔いたくて飲みたいんじゃねぇよ」
ロックグラスに氷を入れ、彬良はロックでウィスキーを飲み込む。
会って居なかった数日間、茉穂には彬良が何をしていたか気になって仕方なかった。
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