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元カノと元カノの旦那
しおりを挟むゆっくりと散策しながら、航の店、割烹料亭おさないに着いたのは、予約時間から少し遅れた頃だった。
「いらっしゃいませ」
出迎えたスタッフは、着物を着た少しお腹が出ている小柄で華奢な妊婦。
「予約入れてたんだけど」
「お名前は?」
「村雨で2人だけど」
「………村雨……?彬良君?」
「………羽美か?」
「うん………お兄ちゃん!彬良君!」
「おぉ、彬良!久々!」
店の奥から以前の様な厳ついチャラそうな印象の航とは違い、日本料理人らしく帽子と前掛け姿の航が出て来た。
「こっち座れよ」
「あぁ……茉穂」
「うん………航さん、この前は美味しい料理、ありがとうございました。美味しかったです」
茉穂は彬良と共に店の奥に入り、航にお礼を言う。
「俺の方こそ、挨拶もせずごめん……彬良から何も聞かない内に、俺の勘違いしちゃマズイと思って、スルーしちまって……店に戻らなきゃならなかったし」
「気にしてないので大丈夫です」
カウンターに座り、羽美がおしぼりを持って来る。
「お飲み物、何にされますか?彬良君、車?」
「歩いて来たから、生2つくれ」
「歩き?お前、仕事じゃなきゃ車かバイクだろ?」
「あぁ……茉穂……彼女がこの近くに住んでてな……そこに引っ越した」
「「え!」」
航も羽美も同時に驚く。
「彬良、お前………女と同棲する様なタイプじゃなかったよな?」
「彬良君、結婚するの?」
「羽美、同棲イコール結婚に結び付けるな……まだ決まってねぇよ……それに航、女で変わるだろ」
「そうかもしれんが………あ、彬良……羽美は同棲イコール結婚した奴だから、結び付けちまうよ……だってコイツ、旦那と付き合い初めて3週間で結婚しちまったからな」
「は?」
「スピード婚ですね……」
「ははは……いろいろありまして」
カウンターで話していると、また奥から男が出て来る。
「航、だし取れたぞ」
「おぉ……あ、紹介するわ……羽美の旦那」
「ん?航の友達か?」
「そう、で………コイツは羽美の元カレ彬良に、彬良の今カノ」
「…………あぁ?」
羽美の夫と紹介された男は、一瞬で不機嫌になった様子。
「10年以上前の関係を、何て紹介してやがる………シスコン兄貴………気にしなくていいから……何も手出し出来ずに別れた関係なんで」
「このシスコン兄貴とよく長い事、友人で居ましたね」
「全くだ……コイツのせいで、浮気させられて羽美と別れたっていう、シスコンの航に振り回されて10数年………」
「え?お兄ちゃんのせいなの?彬良君の浮気って………知らなかった……」
「いいじゃねぇか、もう時効時効………若気の至りって事で……」
羽美との過去に拘ってはいない彬良だが、羽美の夫はいい気分ではないかもしれない。
「羽美は今幸せなんだろ?妊婦してる、てこの前聞いたが」
「うん、幸せだよ……ね?律也さん」
「俺が夫だからな」
羽美の言葉で不機嫌さが治る夫、律也。
「旦那さんも料理人なのか?」
「違いますよ、羽美が出産近いのもあって、直ぐに駆けつけられる様に、羽美が手伝いに来る時は大抵一緒に来てるんです」
「律也は大手企業の重役で羽美は律也の秘書してるんだよ」
「秘書?………夢叶えたのか」
「うん……彬良君は相変わらず?」
「変わらねぇな、これからも」
「………そっか………お兄ちゃんからも聞いてはいたけど……あ!ごめん!飲み物も何も出してない!今用意するね!」
パタパタと、羽美が準備をしようと早足で駆け出す。
「「羽美!転ぶ!走るな!」」
航と律也が同時に叫び、シスコン兄の航と律也は似ている、と感じた茉穂と彬良は思わず笑ってしまった。
「航さんと律也さん、なんか似てるね……羽美さんが凄い大事にされてる気がする」
「航は、羽美を1番大事にしてるからな」
「その航さんを認めさせた人は凄いね」
「………シスコンじゃないだろうな?」
「何?」
「お前の弟」
「…………どうかなぁ……分からない」
ビールが運ばれて来て、少しずつ料理も揃う。1つ1つ手が込んでいるのが分かる料理に、茉穂は堪能していた。
「おかわり如何です?」
ビールを飲み終わると羽美がメニューを手渡した。
「日本酒のオススメありますか?」
「何でも料理に合いますけど、飲んだ事が無い物があったらそれ如何です?」
「………そうだなぁ……あ、これは飲んだ事がないかも」
「獺祭ですね……お持ちします………彬良君は?」
「俺も一緒でいいぞ」
「は~い」
「やっぱり、店で食う料理は違うな……弁当箱のと違って」
「お前がガラ悪いからな……出禁にしたの……」
航が料理を彬良に出しながら、話に加わる。
「何言ってやがる……羽美に会わせたくないから、て言って出禁にしたんだろうが」
「そうだったか?」
「そうだよ……お前、よく羽美の結婚許したな」
「そうなの………律也さんがお兄ちゃんより上手で言い負かされちゃうから、お兄ちゃんが折れてくれて」
「…………へぇ~……納得した……俺じゃ出来ねぇ芸当だもんな……インテリなんだろ」
「………ぐっ……うるせぇよ………羽美を幸せにしてるから渋々な!」
「自分の幸せを後回しにしてるから、いつまでもシスコンなんだよ、航は」
「律也……てめぇ……」
「はい、治部煮どうぞ」
律也も新たに料理を持って来ると、航といいコンビネーションで掛け合う会話も面白く、茉穂はまた来れたらいいな、と思った瞬間だった。
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