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合コンは断ってますが

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 村雨を彬良と呼ぶ様になり、付き合い始めて3週間程経った頃、職場で相変わらず合コンメンバーを探す英美と茉穂は目が合った。

「茉穂!」
「……………行かないからね!もう合コンは止めたんだから!」
「彼氏出来たのは聞いてる!でも黙ってたら分かんないでしょ!」
「バレるんだってば!」
「何でよ?」
「…………い、いやぁ………それは……感が鋭い彼氏で……」

 デスクの傍で、英美と話している茉穂と同フロアに居る彼氏、彬良。気配が感じる中で、行くとは絶対に言えない。

「束縛系?」
「………束縛はしてないとは思うけど……」
「ならいいじゃん、今度の合コンはスポーツジムで働いてる人達よ?……茉穂の好みのマッチョ………どう?」
「っ!…………無理無理!彼氏もマッチョだし!」
「茉穂………」
「な、何?」
「彼氏参加で彼氏の友達と合コンセッティングして!」
「え!………」

 茉穂はチラッと彬良を見るが、そこには居ない。

 ―――逃げた?…………え!

 茉穂は英美の方に顔を向け、仕方なく返事をしようと、英美を見ると彬良は移動し、英美の背後で茉穂を睨んでいた。

 ―――はい、駄目って事ね……

「英美、聞いてみるけど期待しないで………ああいった場は苦手な様だから」
「無理矢理連れて来たらいいじゃん。彼氏の友達に知り合い居ないの?」
「居ない訳じゃないけど、知ってる人は彼女居たりするみたいだから………はい!この話はナシね」
「ちぇっ……リア充め」

 それなりに忙しい仕事場だが、余裕のある者も居る。

「最近、水木さんいい感じだよな」
「あ、お前もそう思った?」
「このクライアントの納期、早まったらしいけど、進めなくていいの?」
「え?」

 彬良は、茉穂への興味示す同僚に容赦無い。少しでも茉穂の名が出れば聞く耳を立てて、興味を反らす様に誘導しまくっていた事も、茉穂は付き合いが始まってから気が付いたのだ。

 ―――ずっと、見てたんだなぁ……何故か照れてきちゃう……

 彬良を気にする様になると、見えなかった事が見えて来て、仕事も倍楽しくなっていた。

「水木、この案件なんだけどさ」
「何かあった?」

 一緒に組む仕事の同僚が、打合せをしにデスクにやって来る。

「クライアントがここを変えて欲しいって」
「…………え?あっちが言い出した催しでしょ?捩じ込んだのに」
「上司から待った掛かったってさ」
「………アホらし……分かった、プランを前の提示に戻しつつ、新プランのを組み込もうよ……あんまりコレ時間無いし」
「………だな……あ、髪に糸付いてる」
「え?何処?」
「……………ちょっと待て、取ってやる……最近珍しく髪型セットしてるよな、水木………デートか?………取れた」
「デートじゃないけど、たまには気分変えたいな、て……ありがとう」

 肩よりやや下の長さの茉穂の髪。普段はバレッタやクリップで一纏めにしているが、彬良に良く見せたくて、たまに朝時間がある時は、髪型に気を遣う様になっていたのだ。彬良は何もそれについて言わないが、別の人間から言われ、褒められれば嬉しい。笑顔で同僚に礼を言う茉穂。

「デート無いなら、飲みに行かないか?今日………この案件の打合せ込みでだけど」
「………私、仕事を外に持ち込まない主義なの………打合せなら会社でやろ?」
「そうだったか?今迄は付き合ってた気がしたけど………分かったよ………じゃ、俺も後で時間作るから」

 例え打合せだとしても、彬良の嫉妬がある気がし、やんわりと会社以外で会うのを牽制してしまう。

「………ちょっと珈琲買って来ます」
「は~い」

 隣のデスクに座る同僚に声を掛け、気分転換とサボりに離席した茉穂。ビル内の自販機でカフェ・オ・レを買って、何も考えたくなく、思考をリセットしに甘めにしたカフェ・オ・レを一口飲み、溜息を吐いた。

 ―――浮かれてるな、私……仕事とは別の意味で疲れてる……

「…………茉穂」
「っ!」

 突然、背後から耳元に、息と声が掛かる。
 聞き覚えあるその声は、彬良だ。呼び捨てされ、交際をまだ隠している茉穂は、咄嗟に周りに人が居ないか挙動不審だ。

「誰も居ないって………でも、仕事モードな」
「………だね……如何したの?休憩?」
「気を張り詰めてない?水木」
「………分かっちゃう?やっぱり……よく見てるよね……」
「まぁね」

 ボサボサ頭に黒縁眼鏡の彬良だろうと、抱き着いて甘えたい衝動を我慢しながら、茉穂はカフェ・オ・レで落ち着かせようと飲み干す。

の様にすればいいんだよ」
「………器用じゃないもん………と、言うより、自分が不器用なんだな、て今思ってた所」
「顔に出るもんね、水木」
「え?出てるの!?」
が言うんだから間違いないよ」

 仕事モードの彬良は自分をと言う。誰が近くで聞いているか分からないからだ。
 彬良もエスプレッソを買い、なよなよした風貌から見え隠れする目は鋭く、茉穂の前にある椅子に座る。自販機がある休憩室の入口に向かって、監視も兼ねてだ。

「戻せとは言わないけど、水木が公表したいなら、僕は素になってもいいよ」
「…………困らない?」
「言葉使いは、流石に無理だけど外見なら何とかなるんじゃない?身を潜めてた様なものだし」
「案外、楽しめてきたんだけど………私」
「疲れといて?」
「慣れるよ、その内………だって、隠しておきたいんでしょ?」
「…………まぁ、本音言えば」
「なら、もう少し頑張ってみるよ……無理ならまた言うし」

 茉穂は、紙コップをゴミ箱に捨てる為に、立ち上がる。

「もう行く?」
「うん、仕事に戻るよ」
「なら、もうちょっと待って………飲み終わる迄」
「…………うん、それぐらいなら」

 だが、茉穂は返事を誤る。
 この後、何故彬良が茉穂に話し掛けたかの意味を知り、後悔する事を知る由もなかった。






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