10 / 37
村雨の過去②
しおりを挟む「美味し……」
「マジ美味ぇな……」
お洒落なバーで重箱を突くなんて、場違いではあるが、村雨と裕司の考えなので、茉穂には何もその事には触れられない。
それ以上に、航が持って来た料理が美味しくて、食べるのに夢中になってしまった。
「でも、いいのかな………バーでこんなに凝った料理食べちゃって……」
「大丈夫大丈夫……まだ金曜で客来ないし……この店は2次会3次会に使われる店だから」
裕司も、重箱からひょいひょいと摘んで行く。
「てめぇ、俺達のだろうが!」
「いいじゃねぇか……割烹料亭おさないの料理、美味いんだから………頑張ったんだな、航」
「お前のおかげでな……」
3人の間で何があったのかは気になる茉穂だが、完結している様で、茉穂は敢えて聞かなかった。
「それで?彬良………」
「………ん?」
「茉穂ちゃんを口説くんだろ?ほれ、口説けよ」
「…………ここで口説けるかよ……会わせに来ただけだ………お前に後から冷やかされんのも嫌だしな……飯も航ん所に行きたかったが、週末混むの知ってるし、航が後継ぐと決めてから、あの店には近付かないようにしてたからな………それに引き換え……てめぇ等は俺が前に働いてた会社に何度も来やがって……航はともかく、裕司はムショ出て間もない時期に来るから、警察迄来る羽目になったんだからな!俺の立場悪くしやがってよ……敵対してた奴等迄、ちょっかい出しに来る様になって、あの後大変だったのはお前も知ってんだろ」
「アレは悪いと思って謝ったじゃねぇか!航に俺も会えなくなったから、お前伝に航の情報を……」
「いい迷惑だ………航からは裕司の近況を聞かれても、裕司から口止めされてたし、お前からは航の近況を根掘り葉掘り聞かれるし……」
「彬良が居てくれたから、今こうしてられるんだろうが」
「…………はぁ……もう落ち着いたんだろ?お前も……航と殴り合うなよ、もう」
「んな事言って、チクッたじゃねぇか、お前も航に店に居る時間帯をよ……」
「訳は知らん……俺は航や裕司程お互いに理解してないからな………ただ、航から『裕司に借りを返す』て言われただけ………借りの事は俺も知ってるから、その件を手助けしただけの事だ………だから、お前高嶺の花を捕まえたんだろうが」
「…………ぐっ……」
懐かしい話の内容の様でも、つい最近迄引き伸ばされた様な内容で、茉穂は聞いている事しか出来ない。
「もっと揶揄いたいが、茉穂にはこの話つまらないよな?」
「………意味は分からないけど、聞いてた……波瀾万丈だったんだね、3人共」
「茉穂ちゃんは、こんなガラ悪い彬良に口説かれそうなのに、気にならない訳?」
「裕司、お前が言うな」
ガラが悪いのはお互い様なのだろうが、第三者目線からの心配なんだろう。
村雨の方は余計なお世話だという目を裕司に向けている。
「………職場一緒だし、会社では根暗で黒縁眼鏡に頭ボサボサだったから、ギャップには驚いてるけど、今はこの方がらしいかな、て思う………」
「笑えるよな!コイツが根暗キャラ通してんの!コッソリ会社近くに見に行った事あってさ、俺………大爆笑したわ!コイツこれでも高校時代、族の総長してた奴だから、当時知ってる奴があの姿見たら、絶対に笑う!」
「族に居たとは聞いてたけど……総長………」
余程、ヤンチャしていた人達からしたら、村雨は知らない存在ではなかっただろう。今思えばよく更生したと思われた。
「何年も前の話を蒸し返すな、裕司」
「今、真面目にしてるならいいんじゃない?」
「そうそう、俺みたく前科持ちじゃないだけマシ」
「裕司、よくお前オープンで居られるな」
「紗耶香も知ってるし、航の為の勲章だと思ってるからな……隠したって、叩きゃ埃の様に出て来る……なら、先に言った方がマシ……ちゃんとオツトメしてきたからな」
「明るくなったな、お前」
「まぁな……闇からやっと這い出れた気がしたのは、羽美の事があったからだから」
「羽美に何年も会ってねぇな……航が会わせてくれなかったのもあるが………」
「航は羽美と会わせねぇだろ……羽美も会いたくないと思うぜ………羽美が浮気する男を嫌ったのはお前が原………んぐっ!」
「裕司!」
彬良が前に乗り出して、裕司の胸ぐらをつかむ。その行為に茉穂は察した。女の感だが、羽美という女性は村雨と付き合っていた事がある、と。
「いいじゃねぇか、羽美に手を出す前に、他の女食ったぐらい、茉穂ちゃんには関係ないし、10年以上前なんだから………羽美も結婚して、もう直ぐ子供産まれるし……てか、航もよく許したよな」
「茉穂………羽美という女は航の妹でな……昔、少し付き合ってはいたんだが、航がかなりのシスコンで、羽美が初めて付き合う男が俺だったのもあって、航にハメられて浮気させられた苦い思い出がある……」
航の嫉妬心から、村雨に女をあてがわれ、村雨はコロッと羽美を裏切ってしまったらしい。それが原因で、羽美は浮気をする男は、分かると直ぐに別れる様になった、という。回り回って、羽美は幸せを掴んだのだが、それについては村雨も祝福しているという。
茉穂が聞く辺り、未練は無さそうだった。
だからこそ、浮気はしない、と断言していたのも頷けた。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
続・上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。
会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる