惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】

Lynx🐈‍⬛

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週明けの職場

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 結局、何方の村雨がいいか、茉穂は答えられなかった。誤魔化す様に、仕事中の村雨も褒め、ガラの悪い素の村雨も褒めて、話を濁し、服も乾いたのもあり、逃げる様に帰ってしまった茉穂。

 ―――気鬱だ……あんな誤魔化し方したから顔合わせ辛いなぁ……

「水木さん」
「!」
「おはよ」
「お、おはよう………村雨君……」

 仕事場の村雨は、筋肉質の身体を隠し、長めの前髪を垂らし、額や目を目立たせない黒縁眼鏡の姿で、茉穂の前に現れる。

「後で、をメールで伝えたいんだけど、ラ○ン交換してもらえる?」
「…………あ、うん……」

 茉穂は村雨にお礼はしたいのもあり、QRコードを登録し合う。

「後で連絡する」
「う、うん」

 ギャップがあり過ぎて、先週迄どの様に会話をしていたか忘れてしまった。
 土曜日の午後から日曜迄、茉穂の頭の中は村雨の事ばかり考える様になってしまった。

「おはよ、茉穂」
「あ、おはよ~英美……金曜日ごめんね、心配掛けて」
「大変だったね……もう絶対にあのメンバーと合コンしないから安心して!」
「………もう、合コンはいいかな、私……」
「如何したよ、合コン好きな茉穂は何処に行ったの!」
「暫くはいいや……ちょっと懲りた」
「…………あんな事ありゃ、怖いよね……しかも茉穂を助けたの、君だし」
「っ!」

 もう、茉穂はとなんて呼べない。揶揄されて、いい気はしてなかった筈だ。かと言って素を出すのも嫌だった筈なのだ。

君………紳士的だったよ」
「だろうね、背が高くても、そんな度胸無さそうだし、恋愛経験も無さそうだし」
「恋愛経験………豊富じゃないかな……」
「茉穂?………止めてよ?アンタが好きになるとは思えないんだけど!」
「元々、嫌いじゃないよ私………仕事しなきゃ………納期近いのあるから、また休憩にね」
「あ………うん」

 英美の言葉が刺さる。先週金曜日迄好きじゃなかった。根暗でオドオドした態度をずっと続けていたのを知る迄は。
 今は体型も、顔も茉穂好みだと分かってしまっては、友人の村雨に対する揶揄も聞くのが辛い。訂正したいが、村雨は望んではいないと迄知ってしまった。

 ―――バレたっていいと思うんだけどな……

 仕事を村雨と組む事は無かったのもあり、仕事中はあまり村雨と話す事も少ないが、何故か目で追うようになっていた。

「…………」
「っ!」

 ―――目が合っちゃった!

 目線が合い、咄嗟に顔をPCに向けてしまった茉穂。

 ―――やだ……何でこっち見たの?目線感じちゃったのかな………

 仕事に集中しなければならないのに、なかなか進まない。

 ♫•*¨*•.¸¸♪✧

「あ!マナーにしてなかった!」

 茉穂のラ○ンにメッセージが入る。慌ててマナーモードにし、メッセージを見た。

『礼は週末に貰う。金曜夜か土曜、どっちか決めてくれ』
「…………」

 目が合ったからだろうか、村雨からの初めて貰うメッセージは素っ気ない。だが、茉穂は嬉しかった。

『金曜夜でも大丈夫だけど、どんなお礼したらいい?』
『身1つあればいい』
『?訳分からないんだけど』
『当日になりゃ分かる』

 ―――当日?

 訳が分からず、村雨が座るデスクを見たが、村雨は居ない。

 ―――何処に行ったんだろ……聞けないしなぁ……

 とりあえず了承の返事をしたものの、仕事のある平日は、話す事もなく仕事に明け暮れた茉穂。
 金曜の夕方になり、待ち合わせの場所の地図がラ○ンに入る。名前からしてバーの様で、仕事を終えると、村雨の姿は無い。

 ―――村雨君居ないな……

 会社のホワイトボードにある、スケジュール欄には村雨は直帰と書いてある。クライアントとの打合せか何かがあったかもしれない。そんなお互いのスケジュールも把握出来ない程、会社内での接点は皆無に等しかった。

「お先に失礼します」
「え?茉穂帰るの?金曜の夜は合コン行くじゃない」
「暫く行かない、て言ったじゃない」
「本気だったの?」
「冗談は言ってなかったんだけどな……今夜は予定入れちゃったから、合コンのメンバーに入れてたらごめん」

 毎週末、英美と合コンに行っていたのもあり、英美はメンバーに入れていたらしい。茉穂が行けない事にショックを受けている様だ。

「英美、もし私に彼氏が出来たら、合コンはもう行かないんだからね?一応、都合聞いてくれる?」
「いやぁ……ついつい……てか、茉穂!彼氏出来たの!?」
「…………気になる人は出来た……今日これから会う約束してる」
「………え!どんな人!?」
「………優しい人……かな……」

 それ以上は茉穂は言えない。村雨と付き合う事に進展しなければ、村雨に対しても失礼になるだろうからだ。茉穂がフラレたら、英美だけでなく、と揶揄される村雨への非難は出るだろうと思われるからだ。同僚達に揶揄われている村雨の立場を現時点より悪くさせたくなかった茉穂だった。
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