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プロローグ
しおりを挟む週末の居酒屋は賑やかだ。
この日も、あちこちのテーブルでは合コンや飲み会をしている。
だが、イベント企画会社に勤める水木 茉穂はこの日の合コンに気乗りしなかった。
―――IT企業のシステムエンジニアだって聞いて来たけど、肩書に釣られ過ぎた!
茉穂の気にいるタイプではなかった様で、何とか理由を付けて帰ろうと思ってから数十分。しかし、茉穂の隣に座った男が、茉穂を気に入ってしまった様で、会話を途切らせる事もせず、仕切りに話掛けてきていた。
「ねぇ、この後もう1軒行かない?雰囲気いいバーがあるんだ……2人きりで……さ……」
「え………考えときます……」
座敷で何気無くなのか、腰に腕を回して抱き寄せようとする男。初対面からグイグイと来る男は、茉穂は少々苦手なタイプだった。
強引なタイプは嫌いでは無いが、初対面でのこの強引さは茉穂は気に入らない。
―――初対面でこの馴れ馴れしい態度は嫌!
幾ら彼氏欲しさに合コンに参加しているからと言って、段階は踏みたいのだ。
意気投合し、何度か会って交際に繋げたいと思っている茉穂に、明らかにこの男はなだれ込みたい態度が見えていて、嫌悪感さえ沸き起こっている。
茉穂は腰元にバックを寄せ立ち上がる。
「茉穂?」
「お手洗い行ってくるね」
「は~い」
このまま帰ろうとも思ってはいた茉穂だが、化粧室から出た所で、その男が化粧室付近で茉穂を待っていた。
「茉穂ちゃん、出ようか」
「………まだ、飲みましょうよ、ね」
「別の店で飲めばいいじゃん?」
「…………ま、まだ始まったばかりですよ、私も頼んだ物食べてないし……ね……」
―――冗談でしょ!この人と2人きりになんてなりたくない!
待ち伏せして迄、【お持ち帰り】したいのだろうか、男は茉穂にベッタリだ。
しかも、何故か同行しているメンバーも茉穂とその男をくっつけたがっている雰囲気に作り変えていて、席移動もしようともしない。
―――ちょっと!英美!チェンジ!
同僚の英美に目配せさせた茉穂だったが、英美もその男が茉穂狙いだと知っていた様で、合コンの盛り上がる雰囲気を変えたくなかったのか、顔の前に手を合わせ『ごめん』というポーズ。
「ほら、茉穂ちゃん、皆もこのままで居たいんだって」
「!」
肩を掴まれ、座らされてしまい再び男はそのまま横に座った。そして、茉穂が飲んでいた酎ハイのグラスを手に持ち、茉穂に渡す。
―――もう!ヤケ酒してやる!
酔ってしまうのは避けたいのだが、理性ギリギリ迄保てるぐらい迄飲まなきゃ、茉穂も付き合っていられないぐらいな気持ちで、グラスを手に持って、酎ハイを飲んでいく。
素面であれば、気付いていたかもしれないが、その茉穂の飲みっぷりを見ていた男はニヤリとほくそ笑んでいた。
「…………あ、あれ?………」
「如何したの?茉穂ちゃん」
手元にあった酎ハイを飲み干し終えた頃、視界の焦点が合わせにくく、呂律が回らない事に気が付いた茉穂。
そして、何故か身体が熱いのだ。
「な、何でも無い………れす……英美っ……ごめん……わた………帰……」
立ち上がろうとするが茉穂は力が身体に入れられない。咄嗟に横の男が支えた事で、抱き締められた様な光景となった。
「酔い潰れちゃったかな?茉穂ちゃん………俺送って行くよ」
「あ、それなら私が送って行きますから」
「いい、いい……英美ちゃんは楽しんで行きなよ………茉穂ちゃん、家の住所言える?」
「………1人………で……帰る……からっ……」
「………じゃあ、タクシー捕まえる迄付き添ってあげるよ」
紳士的な素振りの男だが、茉穂はこの男には警戒したいと、思っていても、頭が回らないぐらいフラフラしてしまい、思考が追い付いていかない。
男に連れ去られる様に歩かされ、店を出ようとした所で、茉穂の意識は切れ掛かっていた。
「おい!アンタ、その女を本当に介抱する気ねぇよな?」
「…………ん……」
茉穂が聞いた事のある声が、店の入口付近で聞こえる。
「は?誰だよ、お前……部外者は黙っとけよ」
男と、茉穂の聞き覚えのある声の主が、頭上で言い争う様な会話に変わっていく。
「部外者じゃねぇんだよ……俺はコイツと同僚でな……さっきから、アンタがコイツに言い寄ってんのも見てたんだが、コイツはアンタを嫌がってた様に見えたがな」
聞き覚えのある声の主はそう言うと、先程の化粧室前でのやり取りを撮っていたのか、男の前に見せる。
「なっ!」
「ほら、コイツ嫌がってそうじゃね?それに、この時からそんなに時間経ってねぇのに、そんな酔い潰れてるのはちょっと不自然でねぇ……何か盛った?」
店の入口で迷惑極まりないが、分が悪そうなのは、茉穂を支えている男の方だ。
「お客様、すいません……ここは他のお客様も通りますので」
「ですよね、直ぐに俺達出ますから……さ、茉穂ちゃん行こうか」
「…………放し……て……」
理性がまだかろうじてある茉穂は、聞き覚えのある声の主を見ようと顔を上げたが、そこで意識は途切れた。
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