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しおりを挟む「ようこそ、ファルメルへ」
「初めまして、アステラ陛下。ユーザレスト公爵が長男、マイルと申します。オルレアンでは諜報員の職務にあり、主に貴族内の内情の監視をしておりました」
軽く握手を交わし、マイルは紳士的な挨拶で頭を下げる。
「マイルお兄様………お会いしたかったですわ……ありがとうございます。わたくしの為に」
「気にするな。全てお前の憂いを取る為にした事だ」
「まさかとは思いますが、数々のレイノルズ王太子の愚行を調べられたのは、マイル卿で?」
「えぇ、私です。だからサブリナは離縁出来ました。そしてファルメルに亡命しろ、と伝えたのも私です」
「…………悔しいな」
「アステラ様?」
マイルの言葉で、サブリナが知らない顔になったアステラ。
「だってそうだろ?俺も手伝う、と其方に言ったら、必要無いという返事で、少し寂しかった………」
「アステラ様………」
「そうか、サブリナの兄上が………悔しい……」
「アステラ様………」
あまりにも悔しがるので、そっとサブリナがアステラの腕に手を添えている。
「あはは………ご心配なされますな、アステラ陛下。私は諜報部員だった男です。何故ファルメルを選んだと思われます?貴方ならサブリナを悪いようにはしない、と思っていたからです。ですが、全く貴方の性格等は知らなかったですし、既婚者だと思っていたので、サブリナを娶る、と聞いた時は驚きましたが、賢帝という噂だけを信じ、それだけで賭けてみたかったので、サブリナを託したのです……あんな愚行をするレイノルズ殿下ではサブリナを幸せにしませんから」
「そ、そんな理由だけで?お兄様……」
「あぁ………だから、ファルメルの女を俺も妻にした。いい女に出会えて良かったよ」
確かに、マイルから薦められた国、ファルメルに亡命すると決めた後、マイルは結婚相手迄ファルメル国の令嬢に拘っていた。それに驚いていたサブリナはふとユーザレスト公爵を見ると、うんうん、と頷いている。
「お父様もご存知だったのですね?」
「勿論だ。私もファルメルなら、サブリナを守ってくれる、と思っていた」
「酷いですわ、お父様………何もわたくしには一言も………」
「サブリナが決めた運命だが、私達家族が助けるのは当然だ。だからマイルも動いてくれた」
「ありがとう………ございます……お父様、お兄様……」
「ありがとうございます」
「モントールも、拠点をファルメルに移したし、基盤は出来た………サブリナも腰を据えて、アステラ陛下の妃として、母親として、ファルメルを発展させてくれ。婚約も妊娠もおめでとう」
「マイルお兄様…………」
「泣かせないで頂けますか、マイル卿………今日はずっとサブリナは泣いてばかりで、肌が荒れます」
妊娠発覚から、サブリナに届く祝福の言葉で、嬉しくて泣きっぱなしだったのだ。
「…………本当に安心しましたよ、仲睦まじくて。父からは聞いてましたが、やはり自分の目で確かめたかったのです」
「っ!…………そ、そうでしたか……」
「ふふふ………アステラ様が困っている顔……初めて拝見しましたわ」
「サブリナも揶揄わないでくれ」
「良かった………サブリナが幸せそうな顔で」
「はい、幸せですわ。とても愛おしいのです、アステラ様が」
「っ!」
「やれやれ、そんな惚気がお前の口から聞こえるとは思ってもいなかったぞ、私は」
「父上もですか?私もです」
ユーザレスト公爵とマイルは本当に嬉しそうで、家族にも祝福されたサブリナは幸福度を増したのだった。
♠♠♠♠♠
一方、レイノルズとミューゼはオルレアン国に無理矢理帰らされ、行きとは違い、責任のなすり合いだった。
「私迄何故帰らされなきゃならないの!レイノルズ様!私はまだ観光してから帰りたかったわ!」
「そんな事俺に言われても知らん!サブリナが何故ファルメルに居て、離縁したばかりなのにアステラ王と婚約したのかも分かってないんだぞ!しかも、サブリナから亡命の事で謝る事もなく、謝罪しろと迄言われたんだ!俺は悪くない!」
都合の悪い事は忘れ、すっかりサブリナがアステラと幸せそうにしている事ばかり思い出し、レイノルズの反省は見られる事はない。
同行していたオルレアン国の侍従達も、行きとは違う疲れも溜まる一方だった。
「こんな事なら、アステラ国王に迫れば良かったわ!凛々しくて美男子だったもの!」
「何だと!ミューゼ!君は俺が好きだった筈だ!何故他の男に現を抜かす!」
「…………え?だって、レイノルズ様は廃位になるのでしょう?身体の相性は良くても、廃位になるなら私、贅沢出来ないじゃないの」
「な、何だと?」
「レイノルズ様の一物、私は気に入ってるわ………だけど、それ以上に私はお金が大事なの…………夫の一物も素敵だったけど、貧乏だったから、レイノルズ様に私の手管を伝授したのに…………嫌になっちゃう……今からでもファルメルに戻らせてくれないかしら………」
何処までも自分勝手なミューゼに腹が立ったレイノルズ。
馬車の中も怒号の言い合いのまま、情事の声より煩いまま、オルレアン国に帰国した時、レイノルズはミューゼと別れていた。
そして、レイノルズは帰国早々、パサ宮殿にも王城にも帰れず、投獄され鉄格子に挟まれて、父と再会する。
「父上!」
「……………レイノルズ……お前には失望したぞ……お前の母は心労で倒れて寝込んでおる」
「は、母上が?………会わせて下さい!父上!俺の姿を見たら元気になります!」
「……………ならぬな………お前に宣告する。レイノルズ………お前を廃嫡とし、罰を素直に受けるが良い………罰を受けても、お前は余の息子ではない」
「ち、父上!」
国王はそれだけをレイノルズに言い渡し、投獄されたレイノルズから離れて行った。
暫く、牢屋が連なるレイノルズが投獄されたその場所は、レイノルズの国王を呼ぶ声が続けられたという。
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